君のための雪





「コームイ」


呼ばれて、デスクに向かっていたコムイが椅子ごと振り返ろうとしたら、

それよりも先に背後から、右頬に 彼の手が添えられた。


「っ……!!?」


その手は ひどく冷たく、慌てて彼を振り向けば、


「えへへー」


笑う彼の左手には、小さな白い塊が のっていた。


「雪、積もってたから」


目の前に差し出されたそれは、小さな 雪だるま。


「仮眠を取りに行ったんだったよね…?」


そう。彼は仮眠を取るためにデスクを離れていたわけで。

それが どうして、こんなものを持っているのかと コムイは首を傾げる。


「ん。寝て起きたら 積もってたから」


ちょっと寄り道してきた、と笑うは、冷えきった手でコムイの手を

取ると、そこに ぽっと雪だるまを のせた。


「わっ…ちょっと、?」


冷たいのと、書類を汚してはいけないと焦ったのとで、

コムイの声が少々裏返る。


「あげる」

「や、あげるって言われても……」

「あげるから、部屋に戻ってよ」


書類、汚れちゃうよ?と笑ったまま言うは、

その実、少しばかり怒っていた。


「いや、だってまだ仕事が、ね」

「だから!もう少し…もう少しだけ…サボってよ」

「え…」

「無理…しすぎ…」


スーマンの一件以来、ろくに休まずに仕事をする彼を。


「もう50時間以上 寝てないじゃない」


だから休めと、小さな雪塊ごと デスクから引き剥がして。


「添い寝はしてあげられないけどさ……」


せめて仮眠だけでも取ってくれと願うは今、教団の一員ではなく、

コムイの恋人である彼として、無茶しすぎる彼を案じていた。


「わかったよ。少し、眠ってくる」


苦笑を浮かべて承諾したコムイに、が ふわりと笑みを返す。

少し寂しそうなそれを、溶けかけた雪だるまのせいにして、

は、コムイの背中を押した。














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