雪うさぎ




広い日本家屋の広い庭。

夜通し降り続いた雪で、今朝は真っ白く染まったそこに、

青年が一人。


濃紺の着物を着て、素足に草履をはいた彼は、

真冬だというのに上着も羽織らず、

小さな岩の上に積もった雪を、その手に掬い取る。


「こら、。風邪ひくぞ」


その彼に 声をかけるのは、黒いスーツを少しだけだらしなく

着崩した男。

雨戸を開け放した縁側の上、少し寒そうに身を竦める。


「あ、次元。おはよう」

「おう」


昨日、雪が降り出す少し前に この家を訪れた彼は、

滅多に会うことの出来ない、の恋人だった。


は、少しばかり名の知れた日本画家であり、

先祖の残した この広い家に一人で暮らしている。


挨拶をしたきり、また雪に夢中になるに、

次元は小さく溜息を吐いて、縁側の下に仕舞ってある

つっかけを引っ張り出して履き、の元へ向かった。


「だから、風邪ひくっつってんだろ」


ばさりと、の肩に温もりが落ちる。


「え、次元……?」


が 驚いて隣を見上げれば、そこにはYシャツ姿の次元。


「ちょっ、次元!これ…!」


羽織らされたジャケットを脱ごうとして、

背後から ジャケットごと次元の腕に絡め取られてしまう。


「着てろ」

「次元が風邪引くよ?」

「大丈夫だ」

「って、それ 根拠ないじゃない」


しっかり抱きしめられて 抗いようもなく、

は諦めたように息を吐いた。


「もう。わかったから離して。家の中に戻ろう」


このまま次元に風邪をひかれては困るから、という

の言葉に次元は、そっと身を離した。


「ちょっと待って」


そのままを引きずって家へ戻ろうとする次元を止めて、

は着物の袂から、緑色の葉を2枚と、

南天の実を2つ取り出した。

それを、先程まで集めて固めていた雪へと埋め込む。


「……可愛いな」

「でしょ」


小さな岩の上、ちょこんと佇むは、こちらも小さな雪うさぎ。

ぽつりと零した次元は、笑顔を向けたに、


「いや、お前が」


大人になっても擦れないのは何故なのだろうかと、

小さな笑みを見せる。


向けられた笑みにドキリとして。

は、次元にジャケットを投げつけると、赤く染まって

しまった頬を押さえて、家の中へ駆け込んでいった。













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