夏の風に眠る




夕方。早めの帰宅を許され、家に帰り着いてみれば、もうすっかり

この家に馴染んだ猫は、ベッドの上にくるりと丸まって、

すよすよと寝息を立てていた。


「……このくそ暑いのに、よく眠れるな……」


開け放した窓から入る風は、もう日も傾いたというのに、まだ生ぬるく、

決して心地良いとは言えない。




「ん……ぁ?」


小さく呼んだだけだというのに、その声に反応して、ほっそりとした

猫が目を覚ます。


「あ、ロイ。お帰りなさい」


くにゃりと、その顔が嬉しそうな笑みの形に融けるのを目の当たりにして

どきりと心臓が跳ねた。


(なんて顔で笑うんだ……)


半年前、夜の道で身体を売るようにして自分を拾えと言ったこの猫は、

本当に身体を許し、その上、家事炊事をすると言ったその言葉どおり、

身のまわりのことは全てやってくれてしまう。


何でも先回りして出来てしまうは多分、人に尽くすことに

慣れてすぎているのだろう。

顔を見せればこんな顔で笑うくせに、こちらが邪魔だと感じる前に一歩引く。


「夕飯、すぐできるけど……」


ベッドの上に、ぺたりと座って見上げてくるは、寝起きの潤んだ目を

自覚してはいないらしかった。


「いや、まだいい」


どんなに暑くても、どんなに疲れていても、は料理の手を抜かない。

すぐできるというこれは、既に下ごしらえは済んでいるということだろう。


「まったく……」

「え?」

「おいで」


もう完全にほだされているのだろう。

過ぎるほどに律儀に家事をこなすことも、無自覚に誘ってくる目も

すでに自分の生活にすっかりと馴染んでしまっている。


ぼんやりと見上げてくるの腕を取り、引き寄せると、

慌てたように腕を突っぱねてくる。


「ちょっ、ロイ。暑いのに……」

「いいから」


自分からは積極的にやろうと誘ってくることさえするのに、

こちらから仕掛けると赤くなって慌てる。


(可愛いな……)


そのままベッドへと押し倒し、逃げたそうに身じろいだ猫の身体を許さずに

押さえ込み、その身体が蕩けて素直になるまでしっかりと味わった。

美味すぎるのも考えものだと、少し思った。








Thank you...☆