「ファイさん」
「ん?」
呼びかければ、ふうわりと笑った顔がこちらを振り返る。
「恥ずかしいんですけど……」
「何が?」
何がって……と、は自分の右手を見遣った。
その手は、きっちりとファイの左手に握られていて。
「これ……」
「だって離したら、くん、迷子になるじゃない」
「うぅ……」
辿り着いた街は、祭りの最中で。
どこもかしこも人でごった返している中を、全員で宿を探して
まわっているのだが、先程から既に3度、は人の波に
押し流され、彼らとはぐれてしまっている。
そのため、迷子防止にと、ファイがの手を引き、
その後ろを黒鋼がついて歩くという措置が取られた。
「それとも、オレと手を繋いでいるのは嫌?」
「や、いやとかじゃ、ない、です、けど……」
「けど? あ! 黒さまの方がいい、とか?」
ガーンショックー、などとおちゃらけている間も、ファイの手は
のそれを離さない。
「ちがっ……そ、じゃなくて……」
ただ純粋に恥ずかしいのだと分かってくれと、は
困惑した目をファイに向ける。
「つーかよ、俺が後ろにいるんだから、離してもいいだろうが」
後ろから、見かねた黒鋼が呆れたように助け舟を出してくれるが。
「やーだよ。くんは今、オレのだからね」
ファイはにっこりと笑って、さらりと蹴り飛ばしてくれた。
更に。
「くやしかったら、黒ぽんも繋げば?」
「だめー! 黒鋼に繋がせるくらいならモコナが繋ぐっ!!」
ファイの挑発にモコナも参戦して。
「もういい、俺は先に行く」
「えー、黒さまったらくんを見捨てるのー? ひどーい」
「ひどーいっっ」
「あ、あの、ちょっ……」
ファイとモコナにはくっつかれ、黒鋼にはまとめて睨まれ。
助けを求めて視線を向けた小狼とさくらは、祭りの騒ぎに紛れた
このやり取りに気付いた気配もなく先へと進んでいく。
どうすればいいのか、さっぱり分からなくなりながら、それでも、
きゅうと握られた両手のぬくもりに、は、ふわりとした
嬉しさを感じていた。
Thank you...☆