『?、どこ?』
『ここだよ、アレン』
僕の家の裏手にある小さな池の奥に、木の たくさん生えたところがあって、
僕とアレンは そこを 秘密基地にしていた。
あの頃すでに アレンの髪は白く、僕が その理由を聞いたのは、
もっとずっと後になってからだったけれど、
その白い髪が、さらさらと揺れるのを見るのが、僕は 大好きだった。
『置いていくなんて、ひどいよ。』
『アレンが来るのが遅いのが いけないんだよ。』
秘密基地には、一本だけ 倒れた木が横たわっている。
誰かが倒したものなのか、自然に倒れたのか、うまく他の木をよけて
地面に倒れていたから、僕らは よく それに座って休んだりした。
『それは…だって、師匠が…』
木に腰掛けている僕の横に座りながら アレンが言う。
『また クロスさんに いじめられたの?』
『いじめられた、って言うか…』
何ていうか…と、ごもごも 口ごもるアレンが可愛くて、その髪を ぽんぽんと 撫でる。
『何だかんだ言って、アレンて クロスさんのこと 好きだよね。』
『そ…れは、ないんじゃないかな…』
途端に ものすごく複雑そうな表情になったアレンに、僕は 笑いを堪え切れなかった。
『アレンてば すごい顔』
くすくす やりながら言うと、アレンは ぷっと膨れた。
『笑わなくてもいいでしょ。』
『ごめん ごめん。あ、もうすぐじゃない?』
『え?…あ、ほんとだ。』
一年の終わりの日だった。あとちょっとで、新しい年が始まる日になる。
『アレン』
『ん?』
『今年一年 ありがとうございました。来年も よろしく。』
『こちらこそ、来年も よろしく お願いします。』
もう少しで来年になるのに変な感じ、と 二人で言って、くつくつと笑った。
そうしているうちに、町の方から カーン カーン と、いくつもの鐘の音が聞こえてくる。
『あ、明けたね。』
この町では、年の始まりには 盛大に鐘を鳴らす。
時計塔や教会、ありとあらゆる鐘が 一斉に鳴り響く。
『今年も よろしく。』
『こちらこそ』
さっき、来年も、って言ったばかりなのに、やっぱり変な感じ
と また二人で笑う。笑いながら、いつの間にか 僕とアレンの間は
ぴったりと くっついてしまっていて、それに気付いた僕がアレンを見ると、
笑みを浮かべたままのアレンが、じっと 僕を見ていた。
『アレン?』
どうしたの、と 問おうとして、唇に触れた温かいものに、
僕は びっくりして固まってしまった。
キスされているのだと知って、だけど 嫌だとは思わなかった。
『…』
『アレン…何で…?』
キスの意味が 知りたくて問うたのに、
『嫌だった?』
不安そうに問い返されて、本当に 嫌だとは思わなかったから、首を横に振る。
『よかった。』
安心したように笑ったアレンは、キスをしたのは 好きだから だと言った。
好き と言われたのが嬉しくて、でも ちょっと恥ずかしくて、俯いたまま
僕も、と言うと、アレンは ぎゅーっと 僕を抱き締めた。
それが 僕たちの、最初のキスだった。
※ ※ ※
「もう、五年も前のことなんだな…」
町で鐘が鳴っている。
一本だけ横たわっている木に腰掛けて、新しい年の始まりを告げる鐘の音を聞く。
アレンが黒の教団に入って 最初の年の変わり目。
アレンと出会ってから 初めて 一人で迎える 新しい年。
ここに来てしまったのは…寂しいから なのかもしれない。
「情けないなぁ、もう…。」
アレンだって頑張ってるのに、と 自嘲気味に呟いて、
そろそろ家に戻ろうと腰を上げた。
と、かさり と音がした。
「?そこにいる?」
「え…」
茂った木の間から 現れたのは、
「あ、やっぱりいた。」
「アレン!」
黒いマントに身を包んだアレンだった。
「アレン…何で…」
どうして彼が ここに来られるのか、わからなかった。
教団の本部は 決して ここから近くない。
それなのに、どうして アレンは ここに…
「近くに来たから、ついで。」
言って笑ったアレンは、けれど すぐに その顔を泣きそうに歪めた。
「え、何?どーしたの…っ」
どん、と 勢いよく抱きつかれて、僕は その場に しりもちをついてしまう。
それでも アレンは離れない。
「会いたかった。ついで、なんて嘘だ。」
僕に 覆い被さる形で ぎゅう、と 抱きついてきながら
「近くまで来たら、会わずになんて 帰れないよ。」
そんなことを言う。
「アレン…」
僕は、嬉しいのと 恥ずかしいのが ぐちゃぐちゃになって、
言いたいことが 全部 どこかへ行ってしまった。
でも、それでも、今の気持ちを伝えたくて、抱きついているアレンの顔を
上げさせて、その頬を両手で包む。
「…?んっ」
何?と 言いたそうなアレンを そのまま引き寄せて、口付けた。
きつく きつく、寂しかったと、僕も 会いたかったと 告げるように。
離れたくないと、縋りつくように…。
「ん……っ苦し…」
いつまでも解放しようとしない僕を、アレンは そっと引き剥がした。
「やだ…アレン、離しちゃ…」
「、落ち着いて」
「いやだ…アレン。ね、このまま…しよ?」
「ちょっ…?! 」
離したくなくて、慌てるアレンの脚の間に手を伸ばす。
「…。ここじゃ寒いよ。」
「じゃあ、家に寄って行って。」
「ごめん 、あんまり ゆっくりは してられないんだ。」
「じゃ、ここでして。」
「…」
我侭を言っている自覚はある。アレンを 困らせていることも わかっている。
「でも、風邪を ひいてしまう。」
「アレンが熱くしてくれるでしょ?」
風邪なんて ひきっこない、と言い張れば、
「もう…しょうがないなぁ…」
苦笑してアレンは、それでも折れてくれる。
「寒かったら、言って。」
「ん…。」
アレンは、自分の脚の間から 僕の手を退けさせる。
「あ…やだ、もっと…」
触っていたいのに と訴えれば、アレンは 苦笑を濃くした。
「あんまり 煽られると、収まりつかなくなるから。」
そう言って諭しながら、僕のズボンに手をかける。
前だけを開いて 手を差し入れ、僕の自身を握り込む。
「んぁ…っ」
そこは もう、十分すぎるほど 熱を持っていて、アレンの手の中で震えている。
「ね、すぐ…していいからっ」
早く 繋がりたい。痛いのも 寒いのも どうだっていい。
「アレンが、欲し…っ」
「…」
アレンは、ぎゅっと その首にしがみついた僕を、
細い木に抱きつかせるように立たせた。
僕のズボンが すとん と、足首のところまで落ちる。
「ぁ…」
「ちょっと、キツいかも しれないけど…」
「ん、平気…、ね、はやく」
強請ると、うしろから ゆっくりと アレンの それが入ってくる。
「あ…んっ…」
「…平気…?」
「ん…、いい。アレン…」
痛くないわけじゃないけど、でも それよりも、
アレンが中にいることの方が僕には重要で、
「もっと…」
もっと その存在を 刻み付けてもらいたかった。
寂しくないように。離れても、平気なように。
そのうち、痛みも感じなくなった頃、寒さも忘れてしまうような熱さの中、
僕とアレンは、二人同時に 熱を解放したのだった。
「、大丈夫?」
「うん…大丈夫。」
アレンは、持っていたハンカチで 僕のぬめりを拭うと、自分のも そうした後に
ズボンを履かせて、腰を擦ってくれた。
「本当に 大丈夫だよ。立っていられないほどじゃないから。」
強請ったのは僕だし、もし立てなくたって、僕は 幸せなのだけれど。
「ごめん、。もう少し ゆっくりしていたいけど」
もう行かなくちゃ、と言うアレンは どうやら
仲間を待たせて ここに来てくれたらしかった。
ぎゅっと 僕を抱き締める腕は、このまま 離したくないと思ってしまうほどに温かい。
「アレン…来てくれて ありがとう。」
「…」
「ね、アレン」
少しだけアレンの胸を押して顔を見る。
「ん?」
「今年も よろしく。」
そう言ったら、アレンは 少し驚いたような顔をして、
「こちらこそ。」
と、照れたように笑った。
「行かせたくないなぁ…」
なんて、本気じゃなく呟く。
本当は本気だけど、それを本音として伝えちゃ いけないと思うから。
「…」
「冗談だよ。気をつけて。」
言って笑うと、アレンは 僕の額に小さくキスを落とした。
「僕だって、を このまま 連れて行ってしまいたい…」
出来るものなら、と 言う その目は、痛みを堪えているようでもある。
「また、会いに来てくれるんでしょう?」
「うん。」
「待ってる。」
アレンが 教団に入団する前の出立の時も そうしたように、
彼の唇に 軽く唇を押しつけて、囁いた。
「行ってらっしゃい アレン。がんばって。」
とん、と アレンの胸を押して離れる。
アレンは 黙ったまま 微笑んでから、くるりと踵を返し、
駅のほうへと走って行った。
来年の この日も、ここで二人 過ごせたらいい。
僕らの思い出が、色褪せないように…。
〜End〜
あとがき
第三弾アレンくん、いかがでしたでしょうか。
しっとり微エロ、目指してみました。
て、あれ?これって微エロですよねぇ…?(不安。
個人的には微エロのつもりです。はい。
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