「あれ?神田、帰ってきてたんだ?」
お帰り、と笑う俺を、彼は 一瞥をくれただけで、すらりとかわして
さっさと歩いて行ってしまう。
「あら。今日は また一段と ご機嫌ナナメ?」
継いだ言葉も完全に無視された。
ったく。このさんを シカトするのは、教団本部内では こいつくらいのもんだよ。
まぁ、それだけに、余計 構いたくなるんだけどな。
「もー、待ってよ ユウ!」
嫌がらせよろしく その背中に向けて叫べば、神田は びきりと その場に固まった。
「…貴様…」
「んー?なぁに?」
すたすたと 近づいて、顔を覗き込む。
「叩っ切るぞ…」
「んー。つれないねぇ、この お兄さんは。」
「本っ気で 切って捨てられたいみてぇだなぁ?」
「ネクロフィリア…?」
イノセンスを発動しかける神田に、俺は 少し怯えた振りをして言う。
「っ…!誰が するかよ。即 埋めるに決まってんだろ。」
「えー。愛する俺に その仕打ち?」
「愛してねぇ!」
「っ…ひどい!ユウは 俺のことなんて 遊びだったんだ!」
悲劇のヒロインっぽく しなを作って見せると、
「黙れ このバカ!名前で呼ぶんじゃねーよ。」
だんだんと 神田の声が大きくなっていく。
「やだなぁ、神田。みんな見てるよ?」
「っ…!」
そう。ここは教団本部の廊下。みんなが往来する場所だ。
まぁ、こんな やり取り いつものことだけに、多くは苦笑を浮かべて
通り過ぎて行くんだが。
「あ、神田。」
神田は 怒ったように踵を返して行ってしまう。
「ほんっと、つれないねぇ。ま、いいや。今夜、待ってるからなー。」
俺の言葉に 振り返ることなく、神田は すたすたと 歩いていってしまった。
※ ※ ※
「ほーんと、昼と夜とじゃ 別人、て感じだね。」
「黙れよ。」
ベッドの上、服を脱ぎ捨てて手足を絡めた状態で、くつくつ笑う。
「だーって。仕事の後のセックスは 燃えるんでしょ?」
「黙れって。」
俺に覆い被さる神田は、既に熱っぽく吐息している。
手の中に収めた神田の自身は ひどく熱い。
なんて、俺が 煽ってんだから、当然だけどな。
「こんなにしてるくせに…っぁ!んぁっ」
と、いきなり自身を きつく握りこまれて 声が跳ねた。
「黙らないなら、喋れなくしてやるまでだ。」
「うっそ…や、やめ…っ」
神田は俺の手を自分の それから外させると、身を屈めて俺の自身を口に含んだ。
「や…っぁ、あっ」
有言実行。神田は本気で俺を責め立て、言葉を奪う。
俺の口から零れるのは、もう 艶めいた喘ぎだけだ。
舐める吸うは当然ながら、歯を立てることでさえ躊躇っちゃくれない。
「苦し…ってば!神田っっ」
感じすぎて苦しい。欲望が 解放を求めて下腹部に溜まっていく。
必死で発した言葉は あっさり無視され、さらに追い立てられる。
先端の小さな穴を舌で ほじられてしまえば、そこから溢れる蜜は勢いを増し、
ついには 本流となる。吐き出す体液を すべて吸い出され、残滓の一滴すら
その穴を割る舌先に舐め取られた。
快感の渦に飲まれ、声を発することすらも出来なかった俺を、身を起こした神田は
勝った、とでも言いたげに にやりと笑って見下ろす。
「っ…やってくれるよ、まったく…。」
「黙って抱かれりゃ、手加減くらいしてやるよ。」
「うっわ、横暴…」
なんて やり取りしている間に、神田の指は 俺の後孔を穿っていた。
そこは、抗うことなく 指を飲み込み、順次増やされる指をも 美味そうに食む。
「ぐちゃぐちゃだなぁ?。」
「っ…!」
こんな時にばかり 下の名前を呼ぶ こいつが憎たらしい。
「淫乱。」
「なっ…!自分だって…見かけによらず 絶倫のくせに…っ」
「ほう?じゃあ、その絶倫に、最後まで付き合ってもらおうか。」
「俺を、壊す気?」
「壊れりゃ少しは 静かになるかな。」
意地の悪い笑みを浮かべたまま、神田は そこから指を引き抜いた。
代わりに押し当てられる熱は、ひどく硬く猛っている。
「俺は、明日から また外なんだよ。」
「だから?」
「加減して。」
「お前次第だな、。」
ぐにぐにと 内壁を拓きながら押し入ってくる。
「あー…やっぱ…おっきいねぇ…」
慣れていても ちょっと苦しい。
まあ、それを凌駕するくらいの充足感は あるんだけどな。
「加減は いらないみたいだな。」
俺の言葉は、どうやら神田の気に障ったらしい。
笑みが更に意地の悪いものになった。
「明日 立てるくらいには してやるよ。」
「ひっ…あっ」
言うなり、前と後を同時に責められて、声が上がる。
「ほんっと…ひどい奴だね…ユウっ」
付き合って一年にもなるというのに、毎度セックスは こんな感じ。
好き、なんて言葉を聞いたことは、ない。
『お前の、その 長生きしそうな性格は 嫌いじゃない。』
そう言った神田に 口付けられた時、あっさりと 受け入れた俺は、
多分 こいつが 好きだったんだと 気付いた。
「お前、実は…俺のこと、キライ?」
優しくない扱いに、そんなことを呟いてみれば、
「ばぁか。」
好きとも嫌いとも答えてくれないままに、神田は がんがん 突き上げてくる。
容赦の無い責めに 快感を引きずり出されて、感じるままに 俺は 欲望を解放し、
意識を手放した。最奥に叩きつけられる 熱い体液を感じながら。
※ ※ ※
遠くでシャワーがタイルを打つ音がしている。
ああ、多分 神田だな、と思って、自分が意識を取り戻したことを知った。
「ん…」
身体に不快感はなく、後始末は してもらえたらしいと、ふっと息を吐く。
しかし…まずいくらいに身体が怠い。身じろぐことすら億劫で、
目を開けている気力もない。
こりゃ…このまま寝といた方が明日のためか…?
うつらうつらと、そんなことを考えているうちに。いつの間にか神田が戻ってきていた。
ふわりと 髪を梳かれて、けれど やはり目を開けるだけの気力はなかった。
「…」
呼ばれて、どきりと 心臓が鳴った。何で、そんな声で 名前呼ぶんだよ…。
神田は、俺が気付いていないと思っているんだろう。
今、目を開けてしまうのは 何か勿体無い気がして、そのまま じっとしていた。
と、ベッドに入ってきた神田に 背中から抱き込まれて、その温もりを感じる。
普段 絶対に有り得ない抱擁。神田の心音が響いてくる。
「好きだ、…愛してる。」
そう囁いて、神田は そのまま寝息を立て始めた。
な…んだよ それ!! 飛び起きて そう叫びたいのを何とか堪えて、軽く身じろぐ。
まさか、神田は 毎度こんなことを していたんだろうか。俺が眠るのを待って…。
うわぁ、うわぁ…何か、何だか すごく…これは…。
ぐわっと 顔に熱が上った。もう 神田の顔を まともに 見られそうにない。
まぁでも、神田は 朝早くから精神統一のために外に出るんだろうし、
俺は俺で 出かける仕度をしなきゃならないから、これを聞いたことがバレるのは
多分 しばらく先のことだろう。
精々、真っ赤な顔して 叩っ切られないように気をつけるとしよう。
神田が こうするのは、照れのせいなのか、その身に抱えている何かのせいなのか、
俺にそれを 推し量ることは出来ないが、それは 時間が解決してくれることだろうと思う。
取り敢えず、今は眠ろう。明日から また ハードワークだからな。
ゆっくりと思考を放り出せば、背後にある温もりのせいか、
ひどく心地良い眠りが 俺を包んでいった。
〜End〜
あとがき
神田…難しい!うぁー。この人どんな人ですか。
ミステリアス過ぎて、どうにも…。うーん。
神田ファンの方から苦情が来ないことを祈ります(弱気。
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