間が悪かったのだ、完全に。
が、神田のキスを避けきれなかったのも、それをラビに
見られてしまったのも、全部、間が悪かったとしか言いようがない。
神田に肩を抱かれたままの。
戸口に茫然と立つラビ。
まるで時間が止まってしまったかのような、沈黙が落ちた。
と神田は、元セックスフレンド。
科学班に所属し、仕事に忙殺されると、教団内部でも一際
浮いた存在の神田は、の少々あっけらかんとした性格と、
互いに日々溜まる精の処理が虚しくなったという理由でもって、
身体だけの気安い関係を持っていた。
特別な感情の介在しない関係は、だからにラビという恋人が
出来た折、何の後腐れもなくあっさりと、解消されていたのだが。
いくつかの任務をこなして、久しぶりに教団本部へ帰って来た神田に
ちょっと声をかけるだけのつもりで彼の部屋を訪れたを振り返った
神田の目が、何故か安堵に凪いだ。
次の瞬間には、その腕に引き寄せられ、抱きしめられた。
彼らしくない行動に、何かあったのかと問おうとしたの唇は、
その寸前で、神田のそれに塞がれていた。
そこへ。ユウ、お帰り、と。
顔を覗かせたラビの表情が凍りつくのを、は、まるで映画でも
見ているかのような、不思議な非現実感をもって捉えていた。
「な……に、してるんさ?」
やがて、ゆっくりと俯いたラビが、震える声を絞り出すように問うた。
「や、あの、ラビ?これは……っっ」
言いかけるの言葉を、しかしラビは聞いてはいなかった。
ざっと足を踏み出したかと思うと、の真横で、がっと嫌な音がする。
「え……」
あまりの速さに、何が起きたのかわからなかった。
一瞬ののち、ラビの腕に抱きこまれたの目に、
壁を背に倒れている神田が映った。その頬が赤く腫れている。
「ちょっ!ラビ……何てこと……!」
「うるさい!」
「っ……」
憤ったラビに一喝され、びくりと身を竦ませたに、
ゆっくりと身を起こした神田が、気まずそうな視線を向けた。
「悪かった」
ぽつりと零された謝罪は、多々の感情を含んでいるように響く。
それはラビにも感じられたのだろう。
彼は、キッと、もう一度神田を睨みつけると、何も言わずに
から手を離し、さっと踵を返した。
「あ、ラビっ」
は、慌てて後を追う。去り際、神田に小さく苦笑を向け、
ムリするな、と口の動きだけで伝えて。
「ラビ!」
が廊下の角を曲がったところで、ラビに与えられている部屋の
ドアが音を立てて閉まる。
ああもう、と小さく溜息を吐いて、はドアへ向かうと、硬い扉に、
軽くこつこつと幾度か拳をぶつけた。
「ラビ?」
窺うように名前を呼べば、中から小さく、開いてる、という声がする。
それを入室許可と受け取って、はそっとドアを開けた。
「え?うわっ」
ドアを開けて部屋の中へ滑り込んだ瞬間、
ぐいと腕を引かれ、よろめいたは、
気がつけばベッドの上へと仰向けに放り投げられていた。
「ちょっ、こら!ラビ!何す……んっっ」
何するんだと問おうとした唇は、覆い被さってきたラビのそれに
きつく塞がれる。先程神田がしたそれの比ではないほどに濃厚なキス。
「ん、んーっ!ぁ……っ」
抗おうとした両手を捕らえられ、胸元で、まとめてきつく括られる。
口付けに、言葉は塞がれたまま、今度は下肢を覆う布を全て
勢いよく引き抜かれる。
「んっ!んんっっ!」
裸にされた左脚を、膝裏に手を入れられて、ぐっと持ち上げられ、
胸元で括られた手首に、さらに膝裏に紐を通すようにして、きっちりと
結び付けられてしまう。そうしてようやく、唇を解放される。
「な、に……考えて……っ!」
「ユウに、何された?」
ぼそりと問うラビの目は痛いほどに真剣で。
「は?」
「ユウに、何されたんさ?」
「なにって……ちょっとキスされただけ……」
「ちょっと?」
「や、あの……だから……っ」
言いかけたの自身をラビが握り込む。
まだ熱を持たない、くにゃりとしたそれの根元にも、紐が巻かれる。
きっちりと括った上で、熱を与えるための愛撫を施されていく。
「わかってるさ」
の胸に唇を落としながら、呻くように呟かれる言葉。
「え……」
「過去のことだってのは」
「あっ……ごめ……っあぁっ」
言いながら、突起をきつく噛まれ、が、びくりと身を竦ませる。
ラビは知っているのだ。元々の神田との関係を。
知っていてを欲しがったラビと、知られていると承知で、
嬉しいと応えたと。
「でも、不安で仕方ない」
「ラビ……」
「ユウの方がいいんじゃないかって、いつも……」
拘束したを見下ろしながら、ラビの方が泣きそうな顔をしている。
「ラビ。ごめん、ラビ」
泣きたいのはこっちだと、小さく溜息を吐きながら、はしかし
ラビを宥めるように、静かに声をかけた。
「でも、違う」
「え?」
「ラビと神田は、全然違うから」
ラビの目を見たまま、
「俺が神田に寄せるのは、ただの同情だ」
ゆっくりと、が声を紡ぐ。
「だから、あれは、友達なんだよ」
「何で友達とキスなんかするんさ?」
「ラビ……聞いて。頼むから……」
拗ねたような口調で詰るラビに、聞いてくれと懇願する。
「俺、もしラビと別れるとなったら……」
「え!?」
「もし、だよ。いいから聞いて」
「ん……」
「もし、ラビと別れることになったら、大喧嘩すると思う」
一体何を言い出すのかと、怪訝な顔をするラビに対し、
は至って真剣だ。
「だって、俺は、ラビが好きだから」
「え……」
「喧嘩せずに別れることは、ないと思う」
神田とは、喧嘩もなく、ただあっさりと関係を終わったのだと、
ラビも知っている。
「あれは、ただの神田の感傷だよ」
「感傷って……」
「あいつは、抱えるものが多いから……」
そこでは、ひとつ大きく息を吐いた。
「神田には、それだけなんだよ」
いくら辛そうであっても、同情しか湧かないのだ。
「でも、俺は、辛そうなラビは見たくないんだ」
「……」
「だから、ラビのためなら俺、どこまでも甘くなれるよ?」
甘やかして、とろとろにして、辛さなんてわからなくなるくらい、
自分だけに溺れさせてしまいたくなるよ、と。は苦笑した。
「それでラビがダメになっちゃったら、ラビは俺だけのもの」
そうなったら幸せかもね、なんて。贅沢を望んでいるのだと、
自嘲するように呟くの、僅かに逸らされた目に、ラビは
自分の欲情を見つけた。
うれしい、と、身体までもが反応したらしい。
「……」
「え……?」
「好きだーっっ!!」
がばっと覆い被さった体勢から、ラビがを抱きしめた。
「ちょっ!いっいた……っっラビ!!」
となれば当然、両手片足を胸の前に括られている状態のの身体に
無理な負担がかかるわけで。
「もういいだろ!ほどけよこれっっ!」
少しシリアス気味の告白を、あんなところもこんなところも全て曝したまま
やらかしていたのかと我に返り、の頬が朱に染まる。
滑稽に思う気持ちと羞恥心とが、一気に襲ってきたのだ。が。
「いやだ」
「は!?」
「このままする」
ずばっと、ラビは言い切った。
そして、先程から少しずつ加えられた愛撫のせいで、緩やかに
勃ち上がっているの自身の先端から、脚を持ち上げられて
開いている双丘の狭間にかけて、つーっと指先で撫で下ろした。
「ちょっ!やだ……ラビっっ!ほどいてってば!!」
「恥ずかしい方が感じるくせに」
「なっ……!あ、ああっ」
なんて事を言うんだと言いかけたが、引き攣った声を上げた。
その背中がぐぅっと弓なりに撓る。
いつの間にゼリーに浸したのか、べっとりと濡れたラビの指が
の後孔を抉ったからだ。
同時に、屹立の先端の窪みを強く指の腹で擦られたことで
性交に慣れたは、強制的に快楽の淵に突き落とされた。
「やらしいな、……」
「んっ……あぁぅっ」
「全部、丸見え」
「ば……かっ!も、やめ……っああっっ」
もうやめろと、無理矢理動かした浮き上がったままの左脚がラビの
肩口に当たると、まるでおしおきだとでも言わんばかりに、屹立の
先端を爪で抉られ、さらに後孔の内側、一番敏感なしこりを、
きつく擦り立てられた。
じんじんと、下半身が疼き、そこから理性が崩壊していく。
「ひ……ぅっ、も、やぁあっっ」
全て曝したままの姿で、感じて悶えるを見下ろして、
その視覚的な刺激にラビは、無意識に唇を舐めた。
獣のようなその表情を認め、は、ぞくりと肌を粟立てる。
「っ……あ、なに、そのかおっっ」
「顔が、何?」
「エ……ロいんだよ!」
「だって、人のこと言えないさ」
こんな美味しそうな顔して、と、笑みを向けられながら、さらに
愛撫を加えられ、の身体が跳ねた。
「や、あっ!も……ねがっ」
「何?」
ゆるゆると抉られる後孔は既に潤みきっていて、ゆっくり擦られる
自身の先端からは、蜜が溢れて止まらない。
「もう、やだっ!ラビ……」
「ちゃんと言って。どうしたいんさ?」
意地悪くラビが囁く。
やはり、神田にその唇を奪われたことは、が許したんじゃない
とわかっても、神田の魔が差しただけだとわかっても、ラビにとっては
ただの嫉妬材料にしかならなかったらしい。
「言うまで、許さない」
「やぁっ、ひどっ……」
粘ついた音を身体の奥で立てられ、は追い詰められていく。
縛られたまま、中途半端に揺れる手足が苦しい。
「、ほら、どうして欲しい?」
くぷん、と音を立てて、体内から指が引き抜かれた。
「このまま、やめようか?」
「やっ……!」
本当にどこまで意地が悪いのか。
の中が欲しがって、ひくついていることなど、当の昔に
知っているだろうに、ラビは突き放す言葉を平気で使う。
「言わないなら、しない。さ、どうする?」
「あ……んっ、れ……てっ!ねが……っ」
「ん?聞こえない。もっと、はっきり、言って?」
ひとことずつ区切るように耳に注ぎ込まれ、それだけでは
上り詰めそうになる。
根元を縛られた自身が、解放を強請るように、ひくりと震えた。
「お、ねが……いっ……も、いれ、て……っっ」
「もう、ユウに隙なんか見せるなよ」
「ん……っ!見せ、ない……からぁっっ」
もう耐えられないと、叫んだと同時に、ラビの熱が
欲しがる場所に潜り込んだ。
「あ、はっっ……ふあぁっ」
入れられながら、自身の戒めを解かれて、は堪えきれず、
そのまま精を解放した。
「ひ……やっ!いっ、いっちゃ……っ」
「あーあ。顔まで飛んでるさ」
「や、やだっ!も、動かな……っで……っ」
イっている間も揺すぶられ続け、絶頂から降りてこられないまま
さらに押し上げられて、自由にならない手足をもがかせるを
愛しげに見下ろしながら、ラビはベッドサイドのチェストからナイフを
取り出すと、の手首と左膝を戒める紐を、ぷつりと切った。
「まだ、イけるだろ?」
力が入らず、ぱたりと落ちた両手首を、の顔の両脇でそれぞれに
押さえ込み、唇が触れそうな距離でラビが囁く。
「あ……あっ」
ラビが前傾姿勢になったせいで、後孔に含まされた熱の角度が変わり
の口から濡れた声が零れ落ちていく。
をしっかりとベッドに縫いつけ、額をくっつけるようにして、
ぐいぐいと腰を使いながら、ラビは言葉を紡いでいく。
もう二度と、オレ以外に唇を許すな、と。
身体を開くことは許さない、と。
甘い毒のように、甘い呪詛のように。
が2度目の熱を解放するまで、ラビが熱い体液を
の深くにぶつけるまで。
昇り詰めた瞬間。
甘い響きに囚われて、は、ひどいほどの幸福感のうちに、
意識を手放したのだった。
〜End〜
あとがき
リハビリ第一弾。
なかなか思うように書けませんで、
時間ばっかりかかってしまいました……(涙。
秋野リョウ様、リクエストありがとうございました。
ブラウザ閉じて お戻り下さい。