「せーんせ、入っていい?」
とある病院の当直室。
コツコツとドアがノックされ、誰何する間もなく明るい声が聞こえた。
聞き覚えが過ぎるほどある声に、溜息を吐きながらラビは、
腰掛けて本を読んでいたベッドを離れ、かちゃりとドアを開けてやる。
「……お前はまた病室抜け出して……」
「いいじゃん、入れてよ」
「だめだ。 戻って寝ろ」
「やーだ。 えっちしよーよ センセ」
さらっとずばっと露骨に誘う彼は、この病院の入院患者。
左脚の複雑骨折で入院し、今は無事に手術も終わってリハビリ中の、
元気な19歳。両脇を支える松葉杖は、すでに おまけのようなものだ。
「ヤりたい盛りだもん。 抜かなきゃ寝らんないよ」
そう言って、ぐいぐいとラビを部屋の中へ押し込め、自分も入ってくると
勝手にドアの鍵を閉めてしまった。
「ったく……どういう育てられ方してきたんさ」
「こういう風に育つような育てられ方でしょ」
「お前なぁ……」
はぁ、と深く息を吐いたラビの顔には、いつもと違うものを見つけた。
「眼鏡……?」
「あ?ああ、何か読むときだけな」
いつもなら仮眠をとっているか、呼び出しで治療室にいるこの時間、
ラビがここで本を読んでいることは珍しい。
ただ、今日はどうしても読んでしまいたい文献があったために、
白衣さえ着たままで睡眠時間を削っていたのである。
「ふーん。 なんだ、じゃあ俺邪魔なんじゃん」
「いつもオレの睡眠時間を奪っといて よく言う……」
「その睡眠時間使って勉強してるんでしょ」
そこまでしているのに邪魔をして、ラビがバカになってしまったら、自分が
責任を取らなくてはならなくなるだろうと拗ねたようにそっぽを向いて、
は、部屋を出て行こうとする。
「なんだ、戻るんか?」
「戻れって言ったの先生じゃん」
「いつもは言っても聞かないくせに」
「何それ。俺は戻るの? いていいの?」
振り返ったは、ノブを掴んだままのドアにもたれれて、
じとりとラビを上目遣いに睨んだ。
「戻っても眠れないんだろ?」
おいで、と手を伸べられて、けれどは、まだドアに背を預けたままだ。
「どうした?」
「だって、勉強してたんでしょ」
「いいから ほら。 おいで」
宥められて、渋々と差し伸べられた手を取ったを、
ラビは思い切りよく引き寄せた。
「うわっ!」
の脇下から外れた松葉杖が倒れて床に当たり、大きな音をたてる。
「怪我人になんてことすんの」
「ん? どっか痛かった?」
「そういう意味でなく!」
「大丈夫 大丈夫。 骨はもう くっついてるさ」
軽く言いながらラビは をベッドへと横たえると、さっさとの
パジャマを剥いでしまう。
「ちょっ! 俺ばっか脱がさないでよ!」
「いいから いいから」
「いくない……んぁっ」
きゅっと胸の飾りをラビの長い指に摘まれて、の腰が撥ねた。
その隙に つるりと全裸にむかれ、は もう何を隠すこともできなくなってしまう。
「おお、元気いいなー」
脚の間で震えたの欲望は、この状態だけで既に快楽を湛え、硬くなっていた。
「っるさい! いいから、も……はやくっ」
からかうようなラビの言葉に赤くなって、けれどの正直な身体は、
ラビの目に曝されているだけで甘く震えてしまうのだ。
「はい はい。じゃ、舐めてやるさ」
少しばかり邪魔だからと脱いだ白衣を、寂しかったら これでも抱いていろと
に放り、ラビは容赦なく ぐいっとの脚を大きく開かせてしまった。
「へ?あ、ちょっ……ま……ぁっ」
止める間もなく、ラビの頭がの脚の間に落ちた。
「ひっ……や! そこ、汚い……っ」
「んー? へーき へーき」
「やだ、ちょっと!咥えたまま喋んないでっっ」
びくびくと身体を震わせながら、それでも今日は風呂の割り当てがなかったから
タオルで拭いただけなのだと抗議すれば、
「んん。 の匂いがするさ」
わざと匂いを嗅ぐようにしながら、しゃあしゃあと そんなことを言う。
「ばっ……か、もう! サイテーっ」
そのまま ずるずると しゃぶられて、巧みな舌技と きつい吸引に、
は あっけなく精を吐き出してしまった。
吐精の快感に きゅっと目を瞑り、余韻に吐息しながら ゆっくりと目を開けたは
けれど その瞬間、余韻も何もかも吹っ飛ばす勢いで がばっと起き上がった。
「な……なんっ……何 それっ!!」
慌てふためくの視線の先、ラビの顔には、べっとりと の体液が付いていて
その眼鏡からも、ぽつりと白い液が滴った。
「は……早く拭いてよっ!」
真っ赤になりながら、枕元にあるティッシュボックスに手を伸ばそうとするを、
ラビは許さず、腰を掴んで引き戻す。
「ちょっ、ちょっと先生!」
「んー、先生ってのもイイんだけど……」
「へ?」
「どうせなら、ラビって呼んで?」
がっちりと両手での腰をホールドし、白く汚れた顔を、けれど気にせず
キスせんばかりの距離まで近づけて、ラビは低く潜めた声での耳元に囁く。
「や……っ」
自らの吐き出した欲望の残滓に塗れた、ラビのきれいな顔を間近で見せ付けられ
は もう半泣きだ。
「ラビ……エロいっっ」
「は可愛いさ」
笑って言いながら ラビは、つう、と唇の横を伝った白濁を、舌を伸ばし
ぺろりと舐め取った。
「っっ……!!」
途端 真っ赤になり、ひどく うろたえて視線を彷徨わせるに、
ラビの笑みが深くなる。
汚れた眼鏡を外し、の赤くなった頬を つと撫でたラビは、けれどその手を
ボックスティッシュに伸ばすと、自らの顔を拭い、の下肢まで清めてしまった。
「え、あれ? 先生?」
もう終わりなのかと、あまりの呆気なさに は目を瞬く。
「これ以上したら、後始末が大変だろ」
「けち」
「お前ね……人の思いやりに けちって……」
「だって」
おしり弄ってくれなきゃ足りない、なんて さっきまで赤くなっていたとは思えないほど
大胆な発言を さらりとかまされて、ラビは くらりとよろめき、額を押さえて蹲った。
「なんで素になると羞恥心が飛ぶかね お前は」
と、ピピピピピ、と電子音が鳴り響く。
「おっと、どっちにしろタイムアップだ」
「えー」
すっくと立ち上がり、が抱きしめたままの白衣のポケットに手を突っ込んで
音の源を探るラビは、もうすっかり立ち直ってしまい、部屋の中の先程までの
淫靡な空気も、消え去ってしまった。
「続きは、また今度な」
「今度って……だって俺、再来週には退院じゃん」
あと何回できるかわからないのに、と言外に含ませて は不貞腐れる。
「ん?何言ってんだ お前」
「何って……」
何を言っているのかわからないと さらりと言われて、その が退院することを
何とも思っていないような態度に、ずきりと胸が痛む。
やはり自分は彼にとって ただ邪魔な存在だったのだろうかと
は瞳を揺るがせた。
(そりゃ、そんなの 入院してる間だけの軽い関係だって、わかってるけど)
それなりの頻度で抱き合ってきたのだ、少しくらい情が湧いて、
別れを惜しんでくれてもよさそうなものだと思うのに。
(好きだって、言ったことも、言われたこともなかったけど)
それでも ずっと 好きだったのだと、言えないまま、は俯いて唇を噛んだ。
「って こら、何してんだ」
顔を上げさせられ、傷になるだろうがと、噛み締めて痕のついた唇を
指で そっと拭われる。
「お前ね、何考えてんだか わかんないけどな」
まあ、おおよそ見当はつくがと溜息交じりに、けれど真剣な瞳で
を見下ろしながら言って。
「オレが言ったのは、が退院したらもっと……その、な」
声を潜めて、その先は、の耳にのみ そそぎ込まれた。
「あ……ぅ」
言われた言葉の凄まじさに、は頭に血が上るのを どうにもできず、
ただパクパクと口を開閉するしかない。
「おっと、そろそろ行かないと看護士たちに怒られるさ」
何でもないように言って、から白衣を取り上げながら離れたラビの
耳が少しだけ赤くなっているのも、言われた言葉の意味も、それは、つまり。
「じゃあ、オレは行くけど、ちゃんと戻って寝ろよ?」
少し皺の強くなった白衣を羽織りながら、の頭を ぽすんと叩いて念を押す。
「……ん。 わかってる」
こくりと頷いたに 甘く笑んで、ラビは当直室を後にした。
(好き……)
この気持ちは もしかしたら、諦めなくていいのかもしれない。
まだ言葉にしては伝えられないけれど。
いつか、言葉にして伝えても、いいのかもしれない。
嬉しさに 叫びそうになるのを堪える為に、は、この衝動が去るまで、
僅かにラビの匂いがする枕を、ぎゅっと抱きしめていた。
〜End〜
あとがき
ええ、と。お待たせしすぎた第三弾。いかがでしたでしょうか(不安。
ラビの年齢は……多分20代中盤かな、と思いながら書きました、
医者なので、あんまり若くても微妙だろうなと思ったので……(うーん)
白衣をもっとこう、裸の主人公に羽織らせるとか、色々使いたかったんですが
収まりつかなくなってしまったので、あんな用途にしてしまいました。
そしてこれあんまりエロくない……すみませんエロってリク頂いたのに(凹。
スランプ丸出しでお恥ずかしい限りですが……堪忍してください(礼。
月伽様、リクエストありがとうございました。
ブラウザ閉じて お戻り下さい。