80.背徳





僕は彼を知っている。

けれど、僕は「彼」を知らない。

野上良太郎という名の彼は、けれど今、まったくの別人だった。


「ボクを好きになってくれるよね?」


甘えたような声が、野上のそれとは違うのも、瞳の色が不思議な

紫色に光るのも、気付いていて、けれど。


「好きだよ」


そう答えたのは、自分の素直な気持ちからだった。

彼がまだ、学校に通ってきていたとき、自分は彼に、恋をしていた。

彼が、ほとんどと言っていいほど接触のなかった僕を覚えているとも

思えないが……

「彼」が僕に声をかけてきたのは偶然か、運命の悪戯か。


「ふぅん……お前、なんて名前?」



は、良太郎のことが好きなんだ?」

「良太郎のことが、ってことは、君は彼とは違うんだ?」

「違うよ。違うけど、名前は教えない」


良太郎って呼んでいいよと笑う「彼」は、酷く無邪気なように思えた。


「そう、じゃあ良太郎」

「なに?」

「君が僕に、声をかけたのはなぜ?」


答えは突拍子もなくて、けれどどこかで、わかっていたような、

そんな気がするものだった。








  ※   ※   ※








「っ……痛、いよ、良太郎」


野上ではない「彼」を良太郎と呼び、彼の腕に抱かれている。

「彼」が望んだのは、セックス。

してみたいんだと笑う「彼」に、なぜ相手に男を選んだのかと問えば

女は良太郎が後から面倒らしいんだよね、という答えが来た。

どういう意味だと問う前に、彼のセックスが、僕を貫く。


「あ、ああっ」

「痛い?」

「痛いよ」

「ふぅん、痛いんだ」


言いながら、けれど「彼」は僕を揺さぶることをやめない。


「ね、、気持ちいいね、これ」

「そう? なら……良かった……っぅん」


男に抱かれ慣れた身体でよかったと、このときばかりは、そう思った。

「彼」は無邪気すぎて、こちらを顧みることを知らない。


(でも……うれしい……)


「彼」が野上ではないことは分かっていて、けれど彼の身体に

抱かれていることが、涙が出るほど嬉しい。


(ありがとう。ごめんね、野上……でも、もう少しだけ……)


この情交を、野上は知らない。

知らなくていい。

ただ、できれば……


「次」の約束を「彼」と結びたいと思っている自分を僕は

止められそうになかった。












〜End〜





あとがき

初電王はR良太郎。いかがでしたでしょうか。
なんだか色々拙くてごめんなさい。精進します。

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