僕は彼を知っている。
けれど、僕は「彼」を知らない。
野上良太郎という名の彼は、けれど今、まったくの別人だった。
「ボクを好きになってくれるよね?」
甘えたような声が、野上のそれとは違うのも、瞳の色が不思議な
紫色に光るのも、気付いていて、けれど。
「好きだよ」
そう答えたのは、自分の素直な気持ちからだった。
彼がまだ、学校に通ってきていたとき、自分は彼に、恋をしていた。
彼が、ほとんどと言っていいほど接触のなかった僕を覚えているとも
思えないが……
「彼」が僕に声をかけてきたのは偶然か、運命の悪戯か。
「ふぅん……お前、なんて名前?」
「」
「は、良太郎のことが好きなんだ?」
「良太郎のことが、ってことは、君は彼とは違うんだ?」
「違うよ。違うけど、名前は教えない」
良太郎って呼んでいいよと笑う「彼」は、酷く無邪気なように思えた。
「そう、じゃあ良太郎」
「なに?」
「君が僕に、声をかけたのはなぜ?」
答えは突拍子もなくて、けれどどこかで、わかっていたような、
そんな気がするものだった。
※ ※ ※
「っ……痛、いよ、良太郎」
野上ではない「彼」を良太郎と呼び、彼の腕に抱かれている。
「彼」が望んだのは、セックス。
してみたいんだと笑う「彼」に、なぜ相手に男を選んだのかと問えば
女は良太郎が後から面倒らしいんだよね、という答えが来た。
どういう意味だと問う前に、彼のセックスが、僕を貫く。
「あ、ああっ」
「痛い?」
「痛いよ」
「ふぅん、痛いんだ」
言いながら、けれど「彼」は僕を揺さぶることをやめない。
「ね、、気持ちいいね、これ」
「そう? なら……良かった……っぅん」
男に抱かれ慣れた身体でよかったと、このときばかりは、そう思った。
「彼」は無邪気すぎて、こちらを顧みることを知らない。
(でも……うれしい……)
「彼」が野上ではないことは分かっていて、けれど彼の身体に
抱かれていることが、涙が出るほど嬉しい。
(ありがとう。ごめんね、野上……でも、もう少しだけ……)
この情交を、野上は知らない。
知らなくていい。
ただ、できれば……
「次」の約束を「彼」と結びたいと思っている自分を僕は
止められそうになかった。
〜End〜
あとがき
初電王はR良太郎。いかがでしたでしょうか。
なんだか色々拙くてごめんなさい。精進します。
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