守りたいと思った。大切だと思った。他の誰より、愛しいと思った。






1.指先で触れる





「こんなところにいたのか」

「あ、モモタロス。お帰り」


へにゃりと笑ったは、ジークがいた部屋に、1人ぼんやりと突っ立っていたようだった。


「何してんだ、こんなとこで」

「んー……うん、色々考えてた」


答えにくいのか、答える答えを持たないのか、は曖昧な返事をする。


「ふーん」


気のないような相槌を打ち、モモタロスは部屋に踏み込むと、放置されたままの

でかい天蓋のついたベッドへ、どさりと腰掛けた。


「今日は、けがしなかった?」

「してねぇよ」

「モモタロスのことじゃないよ。良太郎」

「してねぇよ」

「そう、よかった」


笑って、がモモタロスの横へと腰掛ける。

数日前まで、ジークがいたベッドだ。


「なぁ」

「ん?」

「考えてたって、あいつのことか?」

「……色々、だよ。ジークのことも、良太郎のことも、みんなのことも」

「そうか」

「うん」


答えたが、少し寂しそうに見えて、モモタロスは、そっと、指先でその髪を撫でた。


「ふふっ」

「何で笑うんだよ」

「だって……モモタロスは、いつまで経っても、そろそろとしか僕に触らないじゃない?」


リュウタなんか思いっきり抱きついてくるのに、と言うは、まだくつくつと笑っていて。


「最初の頃は、僕は噛み付いたりしないのに、って思ってたんだ」

「あのなぁ、誰がお前相手に怯えるんだよ」

「だよね。違ったんだ。今はわかる」


ふっと、の顔から、微笑みが消えて。

モモタロスは、その瞬間の表情を、とてもきれいだと、思った。


「モモタロス、僕は……そんなに簡単に、壊れたりしないよ?」

「知ってるよ」

「じゃあ、モモタロス、君が僕を、そう簡単に壊したりできないってことは?」

「……意味わかんねぇよ」


苦々しく呟いたモモタロスに、はまた、くつりと笑った。


「まあ、簡単に言えば……」

「なんだよ」

「今度からはちゃんと、手のひらで触れ、ってことかな」


指先じゃなくて、と笑うに、どきりと、モモタロスの心臓が跳ねた。


「そ……んなの、俺の勝手だろうが!」

「えー、触られるほうの意見も聞こうよ」

「却下」

「うわー、横暴だ」

「知ってるよ」


横暴だってことくらい知っている。でも、それでも譲れない。

そう。最初は、壊してしまいそうだと思っていた。

細くて、柔らかくて、温かいこの生き物を、守りたいと思った。

大切だと思った。

でも、今は、そればかりではないことも知っているのだ。

触れるのは指先が精一杯。それ以上なんて。


「襲っちまったらどーすんだ」

「ん?」


呟いた言葉は、の耳に届く前に、融けて消えるほど小さく。


「なんでもねーよ」


ごまかすように立ち上がり、モモタロスは部屋を出た。


「ちょっとまって、僕も行く!」


食堂車に行くんでしょう、と笑うが、ほんとうに、ほんとうに他の誰よりも

愛しくて仕方ないのだと、モモタロスは、小さく溜息をつき、食堂車へと向かった。












〜End〜





あとがき

いっそ襲ったらいいと思う。
でもね、モモがやっちゃうとね、ストッパーがね、足りない(笑。
シリアス目指してますが……電王だし、書いてるの俺だし……
どうなることやらです。よろしかったらお付き合いくださいませ。

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