だってだって、どうしていいかわからないんだ。
こんなに君が好きなのに、君が僕だけのものじゃないなんて。
リュウタロスがすぐに不機嫌にぶーたれるのは、今に始まったことではないし、
もうみんな慣れっこになっていることではある。
が、今回は少し事情が違うらしい。
「リュウタロス? 何かあったの?」
良太郎が声をかけても、
「おいこらハナタレ小僧! 言いてぇこたぁはっきり言え!」
モモタロスが怒鳴りつけても、じーっと膝を抱えて動かない。
と、そこへ。
「おはよー、ってあれ? どうしたの?」
食堂車へ入ってきたが、場の雰囲気がおかしなことに気付き、けれど
それが何によるものかと問う前に、リュウタロスが、すっくと立ち上がった。
「へ? リュウタ? どうし……え、え? なに?」
そのまま、すたすたとへと近付いたリュウタロスは、その腕にがっしと抱きつく
ようにしがみつき、入ってきたばかりの食堂車からを引きずり出してしまう。
残された面々が、ぽかんとしているなんてことはお構いなしに、リュウタロスは
客室の方へと向かい、ジークのいたあの部屋へ、を引っ張り込んだ。
「ちょっと、ほんとにどうしたの、リュウタ」
入ったところでそのまま止まってしまったリュウタロスの頭へと、空いている腕を
伸ばし、は、ぽんぽんとそこを叩いた。
「おこってる、ってよりは、拗ねてるね、その顔は」
「たいして違わないよ、そんなの」
「けっこう違うと思うけど……とにかく不機嫌なわけだよね」
どうして、と問うの声は優しく、リュウタロスはじわじわと耐え切れなさが
つのっていくようだった。
「だって……だって!」
「うん、なに?」
「……きのう、ここで、カメちゃんとキスしてた!」
「な……っ」
何で知っているのかとか、見ていたのかとか、そんなことがの頭を一瞬にして
巡り、けれどすぐに、何故それでリュウタロスが拗ねるのかという方向へ、思考は
シフトした。
答えはすぐに、当の彼によって与えられたが。
「ずるい、カメちゃんばっかり」
呟くように言われた言葉に、ああ、こどもの独占欲のようなものかとは考えたが
それもまたすぐに、目の前の彼がぶっ壊してくれた。
「僕もする! とキス!」
「は? って、え!? ちょっ……」
ぐい、と引っ張られ、ベッドへと投げ出される。
慌てるに覆い被さったリュウタロスは、そのままのくちを、自らのそれで覆った。
「んぐっ、むーっ」
ウラタロスはこんなに長くしなかったとか、ちょっとやりすぎじゃないかとか、いいかげん
息が苦しいだとか。
訴えようにも、くちを塞がれていては、それも叶わない。
しかし、が酸欠になる前に、この事態は、哀れな闖入者によって解決されることとなる。
「おーいー、大丈夫……か……」
タイミング悪く入ってきたのはモモタロス。
目を瞠る彼に答えようにも、のくちは、まだリュウタロスの吐息の中。
「っ……てめっ! 小僧! に何してやがる!!」
「あーあ、うるさいのがきたー」
いやそうに顔をしかめたリュウタロスは、がばっと起き上がる。
ひょいと身をかわして、モモタロスの脇をすり抜け、にかっと笑いながらに手を振ると、
部屋を出て行った。
「こ……っんの、待ちやがれハナタレ小僧ーっっ!!」
それを追いかけて、モモタロスも駆け出していく。
残されたがぽかんとした顔で寝転がったままなのもお構いなしに、上機嫌になった
リュウタロスと、赤い顔に青筋を立てながらそれを追いかけるモモタロスの怒声が響き渡る。
「モモタロスになんか、あげないもんね」
いや、他の誰にだって、わたしたりしたくない。
モモタロスにだって、ウラタロスにだって、キンタロスにだって、良太郎にだって。
「ぜーったいまけない」
小さな宣戦布告が、果たして後ろを走るモモタロスに届いたかはわからないが、
ひとまず取り敢えず、今、の頭の中が、きっと自分でいっぱいだろうことで
リュウタロスはとにかく上機嫌だった。
〜End〜
あとがき
こんなことされたって多分まだちょっといきすぎたこどもの独占欲くらいにしか
思ってないんですよ。
ああ、なんてじれったいやつだ。
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