なぜ、と思ったことはなかった。
ただそれが当然で、疑う余地なんてなくて、あたりまえで。
僕が疲れた時、いつの間にかそばにいて、手を差し伸べてくれた。
それが。
イマジンに憑かれ、電ライナーに乗るようになって、イマジンと戦って
ふらふらになった僕の手を、いつもやさしくつつんでくれた。
その手につかまって、立ち上がって、また歩き出して。
守ってくれていたんだと思う。僕が、弱いから。
その華奢な肩に僕の分までいろいろなものを背負って、その細い両足で、
地面にしっかりと立って。
は強くて、かっこよくて、やさしくてあったかい。
でも、ほんとは。
「? 入るよ?」
ココン、とノックをして、いつもがいる部屋をのぞき込むと、は
ひらひらの天蓋のついたベッドで分厚い本を枕にすやすやと寝息を立てていた。
さきほどキンタロスが、は昼寝中だから絶対に部屋に行って起こすなと、
モモタロスたちに言ってきかせていた。
普段は反発するリュウタロスも、どうやらうるさくしすぎた自覚はあるようで
今回ばかりは神妙にはいと頷いた。
「みんな、がだいすきなんだよね」
そっと近寄って、ベッドの端に腰かけながら顔を覗き込む。
穏やかな寝顔。
見ていると安心する。
「」
強い。
潔くて、きれいで。
でもほんとは、少しだけ、さみしそうで。
愛しいと思う。
そっと手を握ると、きゅう、と握り返してくる。
その子どものような反応に、ぎゅっと胸が苦しくなる。
「すきだよ」
いつからだろうか、もうわからないけれど。
好きで。
好きで、大好きで。
愛しくて。
それがあたりまえで、なんの疑問もなく。
「あいしてる」
愛している。
この気持ちを、が起きているときに伝えたことはないけれど。
心の底から。
「」
モモタロスもウラタロスもキンタロスもリュウタロスも、そしてジークも
のことが好きだと、愛しいと思っているのが、繋がったときにわかった。
身体を貸すから、心がわかる。
「だれにも、渡したくないよ」
みんなのことは好きだし、仲間として大切だけれど、譲れない。これだけは。
だけは、誰にも。
「ん……」
もぞりと、が身じろぐ。
眠りから覚める気配に、そっと握った手をほどく。
「ん、あれ? りょうたろー?」
「起きた? 、すごくよく寝てた」
「んん、いま、なんじ?」
「もうすぐ夕飯。たべる?」
「たべる」
起きあがろうとするに、手を差し伸べる。
ふわっと笑って、その手を取ったをゆっくりと引き起こす。
「ありがと」
「どういたしまして」
抱きしめたい衝動をこらえながら、寝乱れたの髪をなでる。
「ねえ」
「なに?」
「僕、今夜電ライナーに泊まろうと思うんだけど」
「うん」
「いっしょに、寝てもいい?」
さらっと大胆なお願いごとをした僕に一瞬ぽかんとした顔をしたは
そのあと、ふんわりと、花が咲くみたいに、笑った。
「うん」
こくりと頷いて、繋いだままだった手を、きゅうと握りしめるが
どうしようもなく愛しくて。
守りたい。彼だけは。なにがあっても、ぜったいに。
「いこっか」
部屋を出る瞬間、するりとてのひらは離れてしまったけれど、の
ふわふわとした笑みはそのままで。
「なんや、起きたんか」
途中キンタロスが今迎えに行こうと思ったのにと寄ってきてもそのままで。
「うん、よく寝た。ありがとキンタロス」
「おお。しかし、なんやえらい上機嫌やな。なんかええことでもあったんか?」
「ふふ、ないしょ」
そんな答え方をするから、ついうっかり隠しきれずに顔がにやけてしまう。
が、僕の誘いを嬉しいと思ってくれていることが嬉しい。
その嬉しさの質が、と僕とでは違うことは理解していて、でも、それでも
一緒にいられるだけで、きっと僕は幸せだから。
「」
「ん?」
「そんな可愛い顔してると、またキス、されるよ?」
「は? もう、良太郎まで何言って……」
「あーっ! 起きてるーっっ」
言いかけたの声を遮って、あらわれたのはリュウタロス。
かけよって、抱きついて、頬ずりして。
僕のしたいこと全部を、あっさりとやってしまうのには正直妬けるけれど。
「ごるあ」
ごん、と落ちてきたげんこつはモモタロスのもので。
またぎゃあぎゃあと、追いかけっこが始まる。
「ね?」
「ね、ってなに。キスはされてない」
「じゃあ、僕がしようか?」
「え?」
言った瞬間、が、真っ赤になって。
「え、ちょ……?」
「な、なんでもない」
「なんでもないって、だって……」
「いいから! 行こ、ごはん」
ぱしっと、いささか乱暴に僕の手を取って、は歩き出す。
顔を赤くしたまま。
これって……これって、もしかして。
少しは、ほんの少しは、意識してくれていると、思ってもいいのだろうか。
握られた手を握り返すと、びくりと反応するは、それでも手を離さない。
手を繋いでいることに気付いたリュウタロスに、良太郎だけずるい! と
邪魔をされてしまったけれど、どうしてもにやける顔を引き締めることは、
しばらくできそうになかった。
〜End〜
良太郎は気付いてる。
主人公が恋愛に鈍感なのも。
たぶん自分が兄か弟のようにしか思われていないことも。
例によって主人公は気付いてない。
自分が赤くなった理由もわからない。
でも、今、考えてる。
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