好きな人に告白されて、手離せなくなる怖さに 拒絶した。

逃げた俺に、それでもなお、好きだ と、手離す必要などないと

言ってくれた彼の手を取って、愛している と、そう 告げた。


彼、ロイ・マスタングは、俺の 最愛の恋人である。






幸せの時間





「ロイ、遅刻するぞ?」

「ん…」


カーテンを開け放てば、清々しい晴天。

緩やかな風が木々を揺らす。


「ほら、起きろって。ローイ?」


ロイと暮らし始めて2ヵ月。

幸せ、と言っていいんだろう 穏やかな日々が続いている。


「ったく…疲れて帰って来んのに 無茶するから…」

「ん…さんが 可愛らしいのが いけない…」


ベッドに背を預けたまま、片手で軽く目を擦りながら呟くロイ。

朝日に照らされた その表情に、そのセリフ。

俺は 顔が熱くなるのを感じた。


「…ばか…」


きっと赤くなっているであろう顔を ふいと逸らし 呟くと、


「可愛い。さん。」


しっかりと目が覚めたらしいロイが、

寝転がったまま 腕を伸ばしてくる。


「ばかなこと言ってないで。ほら、遅刻するぞ?」


腕をつかまれ 引き寄せられながら言えば、


「おはようのキス…」

「ったく…」


強請るように見上げられ、つい 身をかがめて

その唇にキスを落としてしまう。


ちゅ、と軽く触れて離れようとすると、

いつの間にか回されていた腕に 後頭部を押さえつけられる。


「え、ちょっ…ぅんっ」


深く絡め取られるようなキスに、腰が砕けそうになる。

これのどこが「おはようのキス」だよっ!


十二分に貪られて、解放された時には、

すっかり息が上がってしまっていた。


「おはよう、さん。」


そのまま、ロイの胸に 頭を抱き寄せられる。


「…朝っぱらから……」

「朝っぱらでも 可愛い あなたがいけないんです。」

「あ…のなぁ。俺 もう35なんだぞ?」


そんな 可愛い 可愛い言われて嬉しいわけ…

あるから困るんだけど。

それはロイだから特別というか…って、そうじゃなくて!


「あー…もう。何でもいいから起きろ。」

「もう少し このまま…」

「遅刻するって言ってんだろっ。」


ロイの鳩尾に手をついて、そのまま起き上がる。


「ぐぇ。」

「5分でダイニングに来なかったら 中尉に電話するから。」


にっと笑って ベッドを離れると、

ロイが恨めしそうな目で見上げてくる。


「そんな顔しても だめ。」


ベッドで鳩尾を押さえているロイを放って、

朝食を仕上げるべく、キッチンに戻った。








  ※   ※   ※








朝食を終えて ロイを送り出し、

ベッドのシーツを引き剥がして 洗濯を始める。


次の仕事を探すと言った俺に、ロイは家にいてくれと言い、

それに嫌だと答えたら、それから2週間は夜が酷かった。

翌朝起き上がることすら出来ない程にされて、それが毎日。


このままでは身がもたないと、諦めてロイの言う通りにした。

でも やっぱり納得がいかなくて 文句を言ったら、


さんは、俺のところに永久就職したんだからいいでしょう?』


と きた。ったく、ロイは俺を甘やかしすぎだ。

まるで、俺が年上だということを忘れさせたいかのように、

ロイは俺に甘く接する。


ただし、都合の良い時だけ 年下の特権をフルに生かして

甘えてくるから困りもの。

結局 俺はロイの言いなりだ。

惚れてんだから、しょうがないけどな。


洗濯をして外に干し、家の中を軽く掃除していたら、

ドアチャイムが来客を知らせた。


「こんにちは。」


玄関に立っていたのは、


「ジャン!」


職務中なのだろう、軍服を着たジャン。


「どうしたんだ?仕事中だろ?」

「いや、どうしてるかと思って。巡回のついでっス。」

「お前、俺のことは とにかく巡回のついでだよな。」

「だって、つくづく通り道なんですもん。」


あはは と笑うジャンを小突く。


「まぁ、折角来たんだし、昼飯くらい食ってけよ。」


さっき見たら、午前11時を少し過ぎたくらいだったから、

今から支度すりゃ丁度 昼だ。


「あー…ほんとに折角なんスけど、俺 戻らないと…」


俺の誘いに、残念そうに笑う ジャン。


「何だ、忙しいのか?」

「ちょっとばかし。」

「ふーん。」


なんだ つまらん。


「ああ、そうだ。大佐から伝言預かってるんスよ。」

「は?ロイから?」

「今日は少し遅くなるから 先に寝ててくれ、って。」

「もしかして、それ言うためだけに来た?」


問うたらジャンは 僅かに苦笑した。


「はー…しょうがないなぁ。」

「は?何がっスか?」

「無理して帰って来なくていい、と 伝えてくれ。」

「え、でも…」

「いいから。」


電話で済む用事を、わざわざ言いに来させるなってんだ。


「あんまり大佐を いじめないで下さいよ。」


今度は はっきり苦笑を滲ませて言うジャン。


「俺に 苛められたくなかったら、ジャンを苛めんなってことで。」

さんは、いつまで経っても お兄さんですねぇ…」

「からかうなら 俺はロイに付くけど?」

「あ、それは勘弁してください。」


そんな最強タッグは組まんで下さい と頭を下げつつ

ジャンは司令部へと 戻って行った。


ま、取り敢えず 今日の睡眠時間は

余分に確保できたということで。








  ※   ※   ※








その夜。


「ん…」


息苦しくて 目が覚めた。

どうやら口を塞がれているらしい と、

半分寝ている頭で ぼんやりと思う。

まだ閉じていたいという目を無理やり開ければ、


「ただいま さん。」


目の前には ロイの どアップ。


「ロ…イ。おかえり。今…何時?」

「すみません。午前2時です。」

「今まで 仕事…?」

「ええ。」


答える声が 少し疲れているように感じる。


「お疲れ。今日は もう寝ろよ?」


連日のセックスを揶揄するように冗談めかして言えば、


「嫌だ。」


と返ってきた。


「嫌…って お前」

「いやだ、する。」

「するって…疲れてんのに…」

「つかれてない。」

「うそつけ!」

「する…」


拗ねたように見下ろされて、溜め息を吐いた。


「この 我が儘…」

にだけです。」


…かわいい。

無駄に可愛いよ こいつ!何なんだよ!!

ダメなんて…言えるわけ ないじゃないか。


近付いてくる唇を受け入れる。

本当なら、こんな時間に起こされて

セックスを強要されるなんてのは、

怒鳴りつけても いいようなことなのだけれど。


「甘やかしすぎ、か?」


離された唇が 胸に落ちるのを見ながら呟けば、

ロイは乳首を口に含みながら 上目遣いに 見上げてくる。


に だけだから…もっと甘やかして…」

「っ…ぁ」


そんなとこで しゃべんな!

くすぐったい より 少しだけ じれったい感覚が

身体中を駆け抜ける。


「明日、起きられないって…」

「明日は 午後出勤です。」


そういう問題じゃねぇ。











「ふ…んっん…」


ベッドに腰掛けたロイの、広げられた足の間に跪き、

その熱を 口に含む。


「ん…っふ、ぅ…」


頭を上下に揺らすたびに 鼻に掛かった息が漏れる。

ロイは これをされるのが好き。

さらに、どちらかと言えば69の形を取るよりも、

俺を跪かせる方が好きらしい。


俺がロイの前で、プライドも かなぐり捨てて

それを求めているのだと、実感できるから。


まあ、これは 俺の勝手な推測で、実際のところは

聞いたことがないので わからないのだけれど。


…もう…」


頭に軽く添えられていただけのロイの手に 力が入る。


「ん…」


小さく頷いて、先端に舌を這わせ、強く吸えば、

途端 口に溢れる 苦い体液。

すべて飲み下して 顔を上げると、ロイと目が合う。


「やらしい顔…」

「お前がさせてんだろーが。」


ロイの足の間から抜け出し、ベッドに よじのぼる。


「ほら、1回出したんだから もういいだろう?」


ベッドのスプリングを軋ませながら身体を横たえて、

もう寝ろ、という動作でロイを促す。


「寝ないと 身体に悪いぞ?」


しかし、ロイは 苦笑をその顔に滲ませると、

ゆっくりと覆い被さってきた。


「ロイ?」

「無茶を言わないで下さい。」

「は?」

「この状態で、眠れるわけがないでしょう?」


そう言って 押し付けられた それは、

1度 熱を解放しているにも関わらず 大層熱くなっていた。


「おいおい…」

「可愛い あなたが いけないんです。」


見上げた先には、少しだけ人の悪い笑みを浮かべたロイ。


「元気の良いことで。…つーか むしろ 疲れてるからか?」

「付き合ってくれますよね?それとも 眠い?」


言葉と同時に落とされたキスを深められ、

そうされてしまえば 俺はもう ロイに逆らうことはできない。


「いいよ。好きにしろよ。」

「愛してます。…。」

「はいはい。」


もう どうにでもしてくれと 投げ出した身体は、

煽られるだけ煽られて、なのに熱の解放は泣いて請うまで

許してもらえなかったりと、本当に好き放題されてしまい、

俺は翌朝、起き上がることが できなかった。


俺が目を覚ました時、ロイは まだ熟睡していて。

やはり疲れていたんじゃないか と、

動けなくなるまでされたことを怒るより先に

彼の身を案じてしまう自分に 溜め息を吐いた。


やっぱり 俺は ロイに甘い。








  ※   ※   ※








昼近くになって やっと動けるようになり、

ロイを起こしておいて 昼食の支度を始めた。


ひょい、と ひっくり返したオムレツが、上手くいったことに

小さくガッツポーズをしていたら、

身支度を整えたロイが キッチンに入ってきた。


「ん、どした?ロイ。」

さんは…」

「何?」

「イきたいのに 塞き止められると 燃えるんですね。」

「なっ…」


突然そんなことを言われて、

皿に盛り付けていたオムレツが 少し形を崩してしまった。

折角 上手くいったのに!


手に持っていたフライ返しを投げつけそうになる自分を

抑えられたことを 褒めてもらいたい。


「なんだ いきなり。」


冷静を装い、呆れを声に滲ませながら返せば、


「だって 昨夜のさん、ものすごく可愛かったから。」


だってじゃねぇよ と、突っ込みながら 否応無しに実感した。


俺はロイには敵わないってことを。

そして 不本意ながら、それが幸せなんだって ことも…。













〜End〜





あとがき

ひたすら甘いだけを目指してみました。第二弾です。
やっぱり年下のロイが どうも書き辛い。
ロイのキャラと違うけど…でもロイだと思って下さい(涙。

次回、第三弾は一気に暗くなります。
本当は今回それ書くはずだったんですが、
甘いだけの話があってもいいかな、と ワンクッション。
激甘書くのが楽しすぎて癖になりそうで怖い…(苦笑。

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