12.5秒前





一点の曇りも無い星空は、凛と澄んだ空気に キラキラと輝きを見せる。

こんな綺麗な夜に仕事なんて、ついてないと思うよ。


ゆったりと、指定したホテルへと足を運ぶ。

今夜の相手は、面識のある男。

以前に一度、俺が男娼として抱かれた男。


今夜は、殺し屋として あんたに会うよ。表向きは男娼を装って。

快感の淵に、鮮血が その身を包むように。

あんたは今夜、俺の手に堕ちる。


『ロイ・マスタング』


その名は、ひどく甘く、俺の胸を震わせた。



ホテルに着くと、すでにチェックイン済みの部屋へ向かう。

こういった手はずは、すべて組織が整えてくれる。

後始末も、全部してくれる。俺は ただ、殺すだけでいい。


『ケツに咥え込んだまま殺るなんてスキモノは、お前くらいだ』


組織のボスは、そう言って俺を嘲笑った。やさしい目で俺を見ながら。

やさしい声を 俺の脳に染み付かせるように。俺を嘲笑った。

別に、それでよかった。俺は、それでよかった。


部屋に着くと、まずシャワーを浴びた。

ターゲットが ここを訪れるのは、一時間ほど後のことだ。

その間に すべての用意を済ませてしまう。


バスローブ1枚羽織ってバスルームを出ると、脱いだ服や荷物は

すぐ身に着けられるように整えて、(と言っても、怪しまれない程度には

煩雑に置いてある)クローゼットに掛けたコートから、相棒を抜き取る。


冷たい重さ。俺の恋人。獲物を的確に打ち抜いてくれる、最高の恋人。

サイレンサーを付けたそれを、2つ重ねた枕の下に忍ばせる。

今日は騎乗位はナシだな。バレる確立は、低い方がいい。



べつに、ネクロフィリックってわけじゃないが、どうせ死ぬなら、最期くらい

気持ちイイ方がいーだろうってのは、俺の勝手な思い込み。

そうじゃない奴がいたところで、俺には関係ないから、取り敢えずヤって殺る。


男も女も、俺はターゲットと寝ながら殺す。

絶頂の瞬間に。一発で片を付ける。苦しめたりなんかしない。

それが、俺の流儀。



部屋のドアチャイムが鳴る。時計を見れば、約束の5分前。

さあ、仕事の始まりだ。タイムリミットは、約束の時間から1時間後。

それまでに、自分の身を清めてホテルを出なくてはならない。



「やぁ。ロイ、待ってた。」

…会いたかったよ。」


部屋のドアを開けるなり 抱き締められる。

どうやら この男は、一度の情交で 俺にハマり込んでしまったらしい。

ま、好都合って やつだな。


「俺も、会いたかったよ、ロイ。」


囁いて、軽く男の胸を押す。


「シャワー、浴びておいでよ。早く、欲しい。」


誘うように笑った俺に、一瞬 魅入られたように呆けて、

けれどすぐに微笑を浮かべた男は、コートを脱ぎ ベッドへ放ると、

俺の額に口づけて バスルームへ入った。


俺は、男が放っていったコートを手に取ると、クローゼットに掛けた。

これは、後始末の奴らが片付けやすいようにするため。

残りの服も、出際に ここに放り込んでいく。

血と精液に まみれたターゲットを片付ける奴らへの、せめてもの気遣いだ。

そんなことを言ったら、だったら最初から もっと手間にならんようにしろ、

なんて、ボスからは苦笑を買った。


男は、バスローブ1枚でバスルームから出てくると、

すぐに俺をベッドに押し倒した。

無言で唇を合わせ、貪るように食い付いてくる。


「ん…んっ」


そうしながら、男の手は 俺の胸を まさぐり、小さな突起を捏ね潰す。

つきりと走った痛みは、下半身直下型の快感となって、俺の自身に熱を与える。


「ぁ…あっ!ロ…イ…」


すっかり熱を持った俺の自身にも、男は手を這わせる。

包み込むように握られたかと思えば、指先だけで撫でられ、

先端を割られて啼かされる。


…っ」


俺の名前を何度も呼び、しつこいくらいの愛撫を施してくる。

後孔に押し込まれた男の指は、労りを見せながらも強引に奥を拓いてきた。


「んっ…も、いい、からっ…」


欲しい、と訴える。長い前戯に耐え切れなくなった、と。

向かい合ったまま、自ら大きく脚を開いて、男の目に全てを曝す。

そうして欲求を伝えてなお、男は後孔の指をひきぬくことなく、また

俺の自身の先端を割り開いて撫ぜる指を外すこともしなかった。



時間が無い。前戯だけで30分とは、やってくれる。

快楽に浸りながらも、俺の思考は それに流されずに働く。


俺は、一度 自分を解放することを決めた。

仕事場に俺の体液が残るのは、あんまり好ましくないんだけどな。


「んあっ…あーっ」


俺の吐き出したものが、男の手を汚す。


「っ…ひど…一緒に…イきたかったのにっ」


自身を握る男の手に手を添えて、甘く詰る。

これで落ちなかったら、俺は自分の流儀を捨てなくてはならない。


過去に数度、そうしなければ ならないほどの変態野郎に当たったことがあった。

中には、両腕を後手に拘束されたために、自由になる足でもって

蹴り殺さなきゃならなかった、なんてのもある。

縛られたまま、素っ裸に靴だけ履いて、なんて笑うしかねぇような恰好で。


なんて、俺の心配をよそに、男は どうやら その気になってくれたらしく、

後孔からは ずるりと指が引き抜かれた。


「すまなかった。今度は、一緒にイこう。」

「ん。」

…愛してる。」

「………」


あーあ、と思った。

言わせてしまったセリフを、取り消せと切って捨てることなどできるはずもなく、

俺は聞かなかったことにする。

こんなことを言われては、殺れても後味が悪い。

死に行く奴のコトバでも、決して 俺も、とは答えてやらない。


「入れるよ。」


答えない俺を どう思ったのかは知らないが、男は俺の脚を

思いきりよく開かせると、最奥に熱塊を押し込んできた。


「あ…ロイ…っ」


名前を呼んでやれば、満足そうに揺さ振られる。


「ね…もっと…もっと、奥…して…っ」


甘えたような声で強請り、内部への熱を望む。

欲しいとせがみ、焦らすことを許さないほどに締め付ける。


!」


男娼として身売りしていることになっている俺に、

男は もう あのコトバを囁くことはしなかった。


「ん…く…ぅんっ」


ひどいほどの高揚感。奥を抉られながら、再び前も握り取られる。

ぎゅうぎゅうと締め付けながら、身悶える動作に紛れて、

枕の下に手を差し込む。男は それを気にも留めない。


「ロ…イっ…!も…イきたい…っ」


甘く甘く強請る。膝で男の腰を締め上げる。

同時に、熱の穿たれている後孔も、甘く締め上げた。


「っ……っっ」


男の動きが速くなる。もうすぐ、その瞬間がくる。

男の身体から、赤と白が 同時に噴き出す、その瞬間。

俺が、温かい体液に、全身を犯される瞬間が、もうすぐ…。


みんな そうして、絶頂の瞬間の恍惚に、一瞬の驚愕を持って果てる。

冷たい銃口を、その胸に感じて。


さぁ、あんたも見せてくれ、ロイ・マスタング。

俺の手に堕ちる瞬間を。


ひやりと、指先に 冷たい銃身が触れる。

俺の最愛の恋人が、俺の手に その身を預けた その時、

俺の中で、男の欲望が ぐん、と膨れ上がった。


俺は、与えられる快感に、妖艶と言われる笑みを、自然 浮かべた。


目の前の男は、俺の身体に 完全に捕らえている。

その目が、驚きに見開かれる瞬間は、もう間近。


ほら、





5…




4…




3…




2…




1…

























〜End〜





あとがき

なんだか…変な話を書いてしまいました。微パラレル?
書いたのが阿呆だってことで結論して下さい(笑。
これって夢?微エロ?相手がロイである必要は…?
なんてことは、書いた本人も思ってますので(笑。

ブラウザ閉じて お戻り下さい。