ドアチャイムの音に、読んでいた本から目を上げる。

こんな時間に 誰だ?

今日は来客の予定など なかったはずなのに、と 不思議に思いながら、

一応 発火布を付けた左手を ズボンのポケットに入れて、玄関へ向かう。

ゆっくりと ドアを開けると、そこには…


…!?」


走ってきたのか、乱れた呼吸を整えながら立っている がいた。






11.人殺し





「悪いな、急に。」


を リビングに通し、コーヒーを出す。


「いや、が 自分から訪ねて来てくれるなんて、嬉しいよ。」

「でも、それ。」


と、指されたのは 左手に付けていた発火布。

外してポケットに押し込んだはずが、コーヒーを入れている間に 少し出てきてしまっていたらしい。


「ああ、これか。まさか、が 来てくれるとは思ってなかったからね。」


に気を遣わせてしまったことに 内心 舌打ちしながら、

発火布を 再度ポケットの奥へと押し込む。


「やっぱ、非常識だよな。こんな時間に 急に訪ねて来るなんて。」

、そんなことは…」

「でも…でも、会いたかったんだ。」

…?」


嬉しい…と、思ってしまっていいのだろうか。

会いたかった、と言われた事に、少々感動を覚えていると、


「ロイ。話が したい。」


の 真っ直ぐな視線が、私を捉えた。







  ※   ※   ※







…答えられなかったのは どうしてか。


『ロイの過去が知りたい』


と、は 言った。

それが 何を指しているのか、わからないわけでは なかった。

わからない わけでは なかったが…


『それは…今までに付き合った 女性たちとの ことかい?』


そう、誤魔化した。

誤魔化している と、わかる切り返しで。


『いや…ごめん。変なこと聞いた。俺…帰るな。ほんと、こんな時間に ごめん』


そうしておきながら、帰ろうとしたを 引き止めた。

泊まって行って くれないか、と。


は今、シャワーを浴びに行っている。


「不甲斐ないな…。まさか この私が ここまで臆病になるとは…」


に 嫌われることが 怖い。


あの時、あの場所で…戦場で、私が何をしたかなど、

には、知ってほしくない。

その事実が、私から を 遠ざけてしまいそうで…


「君が思っているよりは、はるかに残酷なことを してきたのだよ、私は。」


私を理解してくれようとしている には申し訳ないが、

あの時は そうするしか仕方なかったのだと、言われたところで、慰めにも なりはしない。


まだ…重すぎる…。







  ※   ※   ※







「飲むだろう?」


シャワーを浴びて 寝室に戻ってきたは、ベッドの隅に 浅く腰掛け、何事か考えている。


「あ、あぁ。うん。」


ワイングラスを差し出せば、ゆるりとした視線を私によこし、グラスを受け取ると、

ふわり と、笑った。少し苦笑の混じった、しかし 柔らかい、笑み。


「…?」


は グラスを左手に持ったまま、右手で 私の手を取り 引き寄せると、

私の後頭部に手をまわし、髪を梳き始めた。


「そんなに、固くなるなよ。」

「え…」

「肩、張ってる。」


それは…気付かなかった。

後頭部を押さえる の手に力が入り、

の肩口に 額を押し付ける形になる。


「誤魔化したこと、気にしてんの?」


少し意地悪な口調で呟かれる。

あからさま過ぎた、とは 反省している。

を 傷つけてしまったかもしれない。


ゆっくり、ゆっくりと 私の髪を梳く


「ごめん。困らせるつもりじゃ なかった。」

…」

「ちょっと 先走っちまった。ごめんな。考えるより先に動いてた。」


穏やかな声を聞いているうちに、力が抜けるのがわかる。

知らないうちに かなり 力が入っていたらしい。


「さっきから ずっとさ、考えてた。いきなり来て、あんなこと聞いて、嫌われたんじゃないかって」


殊更 穏やかに 紡がれる 言葉。


「そんなこと…あるわけがない。」

「うん。ありがとう。…ロイ」


こんなことで、を嫌いになるなんて、そんなことが あるはずがない。

むしろ、嫌われることに対して、心配していると言うのに…。





愛しいという気持ちに 抑えが利かず、そのまま 押し倒そうとした…のだが。


「こら!ロイ!零れるっっ!」

「あ。」


そういえば グラスを渡していたんだった。

そっと それを取り上げ、サイドテーブルに置こうと、身体を離した。


「するの?」

「したい」

「だめ」

「したい」

「いやだ」

「なぜ?」

「いやだから」


言いながら は、座ったままの体勢から、ぽすん とベッドに倒れ込んだ。


「その体勢の意味は?」

「さあ?」

「するよ?」

「すれば。」

「いいのか?」

「何が?」


…やはり、気にしているんだろうか…。


「意地が悪いな。」


ふぅ、と息をつき、の隣に 腰を下ろした。


「私は に 嫌われてしまったのかな。」


拗ねたように呟けば、は くすり と 笑った。


「冗談デス。いいよ。しても。」

「嫌なんじゃ なかったのか?」

「じゃあ しない?」


にっ と、いつもの笑み。が 誘う時の 表情。


「…する。」


覆い被されば、は 私の首に手を回し、キスを求める。

なけなしの理性が…飛んだ。







  ※   ※   ※







くちゅり と 音がするたび、私の肩に添えられた の手に 力が入る。


「ふ…ぁ…」


後孔に 差し入れた3本の指を、ばらばらに動かすと、首を振って耐える


「や…ぅっ」


首を振るの髪がシーツを打ち、ぱたぱたと 音を立てる。

一番 反応の良い部分を 押し込むように刺激すれば、


「ひぁっ…」


の目が見開かれ、生理的なものだろう 涙が零れた。





落ち着かせるために、額にキスを落とし 名前を呼ぶ。

そうしておいて、また 同じ箇所に 刺激を与えていく。

が イきそうになる、ギリギリの 刺激を。


「や…だっ ロイ…っっ!も…イ…かせ…っ」


快感と苦痛が 入り混じっていくのだろう。

だんだんと が見せる 表情が変化していく。


「イきたい?」

「っ…きたいっっ」


潤んだ目が、焦らすな と 訴えかけてくるのが 可愛くて、

つい 虐めたくなる。

後孔を探る指は そのままに、空いている方の手を 自身にニアミスさせる。

つ、と触れた そこは、熱く 濡れていて、


「とろとろに なってる」


耳元で囁けば、は びくりと 震えた。


「も…だめだ…ってば!」


そろそろ 苦しさが 快感に勝ってしまう頃だろうか。

私の肩に添えられているの手には もう

ほとんど力が入っておらず、わずかに震えている。


一度 イかせておかないと、挿入も ままならないだろう。

もう少し、可愛い顔を見ていたいが…仕方ない。


「ふ…ぁっ?」


の自身に手を添え、先端を ゆるりと撫でると、後ろが きつく 窄まろうとする。

それを 押し広げながら、前を弄る手に 力を入れる。

先端の窪みに、爪を潜り込ませるようにすれば、


「ひぅ…っっ」


強すぎたのだろう刺激に 息を詰め、は 自身を解放した。


後孔から 指を引き抜き、が落ち着くのを待つ。

しかし、その刺激さえ、イったばかりの身体にはキツかったらしく、

は 小さく痙攣している。


「大丈夫かい?」

「大…丈夫じゃ ねぇ…よっ!キツすぎ…」


ゆっくりと息を吐いて、呼吸を落ち着けようとしながら、

手を伸ばし、私の首に 絡めてくる。


「でも…足りない…。」

?」

「ロイのじゃなきゃ、物足りなくて…嫌だ。」


ぎゅうっと 抱きつかれて、そんなことを 言われたら…。


「手加減できそうに ないんだが?」

「してくれる つもりだったのか?」

「さあ。」

「いい。そんなん、しなくて。」


強請るように 擦り付けられた腰。

自身は また 熱を持ち始めている。


、愛してる」


些か強引に押し込み 揺さぶれば、

は 快楽に、自我を 飛ばした。







  ※   ※   ※







本当に 加減することが出来ず、は 悲鳴ともつかない嬌声を発し、意識を失くした。

どうやら 相当 無理をさせてしまったようだ。

疲れて そのまま 眠りに落ちたらしく、目を覚ます気配はない。


それでも、すぅすぅと、穏やかな寝息を立てるに、

自然 心が安らぐのを感じる。


「私は…安らぎなど、感じていい 人間では ないのだろうな。」


たくさんの 人を殺してきた私に、安息など 与えられていいものでは ないのだろうが…

を愛しいと、思う気持ちだけは 止められないのだ。

どうしても。


許されるなら、せめて、彼を幸せにしたい と、そう…思う。














〜End〜




あとがき

初挑戦。攻視点のエロ。(微エロでなしに。)
難しかった…。予想以上に難産でした。
そのせいか、今までに無く表現が露骨なような…(笑。


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