12.死





死ぬって どういうことだろうって、昔から よく 考えては 眠れなくなって、

夜中に起き出して 本を読んだり、散歩にでたりもした。

それは、今でも 時々ある。

ただ、昔と違うのは、「死」の対象が、自分だけでなく 周りの全てになったこと。

大切なものが できた 今だから、きっと そう思うのだろうけど。





自分が嫌いだった。

上司の機嫌を取って、作り笑いを絶やすことなく、使役される自分。

仕事を上がると、そんな自分が気持ち悪くて、吐き出したくて、

酒に酔い、女を抱いて、それでも足りなくて、男に抱かれることを覚えた。

本来 異物を迎え入れるべきではない器官に 男を受け入れ、快感を覚える自分を罵り、

そうして その時だけ、俺は解放された 気になった。


死んでしまえばいい、と。

何度思ったか知れない。

このまま、見知らぬ男に抱かれたまま、こいつを道連れに、

奈落の底に 落ちてみようか、と。


でも…できやしなかった。

死ぬってことは、俺にとって簡単じゃなかった。

自分が嫌いだと、死んでしまえと、そんなことを思いながら、

俺は…死ぬのが 怖かったんだ。

だから、違う方法を探した。

永続的な満足を求め、一度限りの夜を 幾度となく 繰り返して 繰り返して…。


そして、ロイに出会った。

彼に求められることが 心地良くて、俺は 彼に すがりついた。

彼の側に行きたくて、認められたくて、愛されたくて、5年 待たせた。

ロイは、待っててくれた。


でも、俺も 彼も 軍人だから、銃器を持って 日常を過ごしている以上、

少なくとも 街に暮らす人々より、死に近いところを 歩いているわけで。

ロイを失ったら、俺は どうするんだろう。

そう考えると 不安になる。


ただ…寝付けないってことは なくなった。

引き換えに、朝起きるのが 辛いのだけれど。







  ※   ※   ※








「おはよう」


夢うつつに、しがみつくものを求めたら、抱き寄せられる感覚と共に、

ロイの声が 降ってきた。


「んー…おはよーございますー…」


と 答えつつ、ロイの胸に顔を うずめる。

あー…このまま二度寝したら、幸せかもしれない…。


「こら、。」


くすくすと 笑いながら、俺の髪を梳く ロイの手。

うん、気持ちいい。

ちょいちょい と、髪を引っ張られ 顔を上げると、そのまま唇をふさがれる。


「ん…」


キスを深めながら、ロイは俺に覆い被さるように 体勢を変えた。


「ふ…んっ…ぁ」


くちゅりと 音を立てて、唇が 離れる。


「起きた?」

「…起きた。」


俺的には もう少し まどろんでいたかったんだけどな。

ちぇっ。


「じゃあ、昼食を取って 出勤するとしようか。」

「は?」

「ん?何だい?」

「昼食…?」


って 言ったよな、今…


「うそだろーっ!? 」


飛び起きた。…のは つもりだけ。


「危ないじゃないか」


確かに危なかった。

咄嗟にロイが 俺を押さえ込んでなかったら、俺はロイに

頭突きを かましてしまうところだ。


「ごめん。」

「今日は 元々 二人とも午後出勤だろう?何をそんなに慌ててるんだ?」

「ロイ…」


そんな 悠長なことを言っていていいはずがない。なぜならば…


「そういうことは、シーツの状態を見てから言ってくれ。」


やって そのまま寝たから、ドロドロが 乾いて カピカピだよ。


「あー…」

「あー、でなく。ほら、起きる!洗うから!」

「わかったよ。」


ぱっと 俺から離れて、ロイはベッドを降りた。


「じゃあ、私は 飯の仕度でも…」

「その前に。」

「ん?」

「シャワー浴びろよ。寝ぐせ ついてる。」


左側頭部から後頭部にかけて、ぴこぴこ と はねている。

…いっそ そのままの方が かわいいかもしれない…。

休日だったら そのままに させとくのになー…。


じゃなくて!今は そんな場合じゃない。


「さて、やりますか。」


って、バスローブで 洗濯って 何か嫌だな。


「ロイー、服貸して。」

「あげようか?」

「それは もう いいって。」







  ※   ※   ※








死ぬって どういうことだろうって、そんなの 考えたって わかるわけがない。

いなくなること。

もう 二度と会えないこと。

つらいこと。

でも、それは 俺の主観で、俺が死んでしまえば関係ない。

同じように、誰が死んだって、それで 辛いのは 周りにいる人。

生きている人。



死んだら どこに 行くんだろう とか。

この記憶は どうなるんだろう とか。

ロイを想う この気持ちは、大切なものを 大切だと思える この心は、

一体 どこへ 行くんだろう…とか。


死んでしまったら、そんなこと 関係ないかも 知れないのに。

考えると 止まらなくて。


「大好きだよ、ロイ。」


そう 呟くことで、不安を押しやる。

彼に聞こえない所で、呟くその言葉は、

保身のための 安定剤のような 感じがして、少し 後ろめたい。







  ※   ※   ※








今日は 天気がいいから 外に干して行っても平気だな。


「よっと!」


ロープを張り、シーツをかける。

ひっぱって 皺を伸ばすと、パンッ!と いい音がする。


「よし。完了!」


さて、メシだな。




「ロイ、終わったよ。」


キッチンを覗けば、


「ああ、お疲れさま。今 スープができるから、シャワーを浴びておいで。」


そういえば、そのまま 動いてたんだった。


「そうします。」


この服も、洗って返さなきゃなー…などと 考えながら キッチンを離れる。と。


「卵は片目?」


後ろから ロイの声。


「両目!」

「了解」

「えへへー。ロイロイ 愛してる!」


ガチャン、と 何かを取り落としたような音。

…ロイロイは やりすぎ だったかな。



シャワーを浴びて バスルームを出ると、ぐぅ、と腹の虫。

今日も元気だね、お前。って、実際 腹に虫なんて いやしないけど。



そうさ、生きてりゃ 腹も減る。身体は こんなにも 生きようとしている。



例えばロイを失くしても、俺の心臓は 動くんだろう。

俺の身体は、生きようとするんだろう。

心が邪魔しようと、俺の身体は 限界まで 生きようとするんだろう。



身体が 限界を訴えるまで、ロイを愛していけたらいい。

ずっとずっとの 永遠なんて あるか 知らないけれど。

この身体が ここに あるうちは、ロイを抱きしめてやれる 生き方がしたい。


そう 心に決めて。


「ロイ、お待たせ。」

「早く 食べて行かないと、中尉に怒られてしまうかな。」

「うわっ もうこんな時間?! 」


死んでしまったら どうなるか なんて、考えたって分からない。

死んでしまったら、多分そこで終わりなんだ。

それは 考えると 辛いことだけど。


でも、俺には 守りたいものがあるから、だから、生きよう。

前を見て。先を見て。今を見て。

この命が  尽きるまで。


















〜End〜




あとがき

少し短め。主人公の独白に近いので、
ほとんど名前変換の意味がない(涙。

でも、一応ほのぼの目指してみました。


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