「手合わせ 願えますか?マスタング大佐。」


私の想い人は、

唐突に 爆弾を投下してくれる…。






02.戦闘訓練





中佐が マスタング大佐にケンカ売ったってよ。」


あちこちで囁かれる噂。

今朝、が 手合わせ願えるか、と申し出てから、

東方司令部は 騒然としている。


まったく…は何を考えているんだ?



「そーいや、中佐も錬金術師なんだよなー」

「へーぇ、じゃぁ 意外と勝負になるんじゃねぇ?」


何だか…鋼の と一戦交えた時の事を思い出すな…。



……………まさか…。



「マスタング大佐、ヒューズ中佐から お電話です。」


嫌な予感がする…。というか、嫌な予感しかしない。


「私だ。」


『よぉ、ロイ!また 練兵場 空けてやったぜぃ。』


…的中。


「…どこから聞きつけた…。」


『まぁまぁ、細かいことは この際置いとけ。エリシアちゃんみたいに可愛くなれんぞ。』


「ちっとも細かくない。それと、お前の最愛の娘を 俺の比較対象にするのは やめろ。」


『そうか?ははっ。まぁ せいぜい 頑張れや。』


「は?どういうこと…」


『じゃぁなー』


……切れた…。




まったく、ヒューズは何を考えているんだ。

は国家錬金術師じゃないんだぞ、

今度こそ 大総統が許すはずが…


「大佐、大総統閣下より お電話が。」




…………………もう 嫌だ。








  ※   ※   ※







「レッディース アーンド ジェントルメン!!」



結局こうなるのか。

私との対戦は、戦闘訓練という名目で あっさり許可が下りてしまった。



「どういうつもりだ?


「どうもこうも、ただロイと戦ってみたいだけさ。」


は ものすごく上機嫌だ。



出会って5年と4ヵ月。再会して2ヵ月ちょっと。

極力 一緒にいて、もう何度も身体を重ねたが、

の戦闘能力を 窺い知れたのは、初めて彼を見た時、

あの、片手でグラスを砕いたところくらいだ。



「手ぇ 抜かないで下さいよ、マスタング大佐」


にっ と、挑発的な笑み。


今回は、戦闘訓練と銘打っているだけあって、対戦方法は錬金術に限られていない。

は、右手に小さな銃を携えている。


「いいだろう。本気でやろう、中佐。」


いつの間にやら ヒューズが 両者の紹介を終えている。

どうでもいいが、鋼の とやった時と ほとんど変わってないぞ?



「READY!……FIGHT!」



先手必勝。

と、言っても、を燃やすわけにはいかない。

取り敢えず、の足元を狙って 酸素濃度を上げる。


「うっわ、いきなりかよ!!」


と、言いつつ 余裕で避けていく


「手を抜くな と言ったのは 君だろう。」


どかどかと 砂けむりが上がる。


「うぉぁっ! おいおい、観客を巻き込むなよ…」


当てようと狙った一発を かわされた。

結構やるな…。


「まだ 余裕がありそうだね。」


しかし…避けるばかりで 攻撃してこないのは何故だ…?

あの 右手の銃は……



ドォン! と盛大な爆発音。


しまった。考え事をして 力の加減を忘れた。


「煙で何も見えん…」


またやってしまった。


と、懐に飛び込んで来た 黒い影。



「っ…!」



にやり、と笑った 彼。

咄嗟に 両手で防御した。


「もらったぜ」


の声に続いて、

ぴっ と、頬に冷たい感触。


………水?



「なっ……水鉄砲!?」


んな バカな。

見れば 発火布は 微妙に湿っていて、擦り合わせてみても 火花は出ない。


「余所見してて いいのか?」


繰り出される の拳を、ぎりぎりのところで避ける。


「…最初から これが狙いだったのか。」


「その手袋が 乾く前に、カタ つけさせてもらいますよ、大佐。」


……楽しそうだ…。



「錬金術は 使わないのか?」


の 拳を かわしながら問えば、


「使ってほしいのか?」


さらに拳を繰り出しながら 答える


「そういうわけではないが…」


「錬成陣を書くのが 面倒だから使わない。」


「……なるほど。」



それにしても、まったく この細い体のどこに そんな力があるのか、

始めて小一時間が過ぎようとしているのに の勢いは一向に衰えない。






拳と蹴りの応酬の中、


「何?」


「賭けをしないか?」


ちょっとした提案をしてみる。


「は?」


「どうせなら、負けた方が勝った方のいうことをきく、とか やってみたいじゃないか。」


さて、どう出る?


「いいぜ、内容はソレでいいのか?」


「ああ。」



にやり、と 笑みがこぼれる。


「…何?」


が 怪訝な顔をする。


「実は、そろそろ 発火布が乾いてきたようでね。」



「げっ」



「残念だったね、。」



チっ と、火花が散った。








  ※   ※   ※







「勝つって わかってて、賭け ふっかけやがりましたね。」


左足に負った火傷を 軍医に手当てしてもらいながら、

他人の前だから と、一応は丁寧語で ぶつぶつと文句を言う


「勝ちは勝ちだよ。 と、言うわけで 今夜は うちに泊まりにおいで。」


笑って告げれば、


「なっ……」


ぴしり と固まる

人前で叫ぶことは さすがに出来ないらしく、

その目が、『何させる気だ この野郎』と言っている。


「さて、何をして もらおうかな。」

くすくすと 笑いながら、たまには こういうのも いいかと思う。











「大佐ぁ!サボってないで、後片付けして下さい!!」


ハボック少尉に 大声で呼ばれる。

を見れば、


「頑張って下さい 大佐。勝者の運命です。」


左足に巻かれた包帯を ちらつかせながら 笑っている。




前言撤回。もう二度と ごめんだ。









〜End〜




あとがき

水鉄砲なんて 存在するのか?まぁいいや。
と、いうわけで 2本目完了です!残り28本!!(多いな…)
戦闘シーンは苦手です…なのに お題が「戦闘訓練」(痛。

ここでは『軍部祭り』は本編の1年前、という計算になってます。
なので、この時点でエド達はリオールに着いたあたりという設定です。
ちなみに 主人公はまだ エド達と会っていません。
次回、『車上の戦い』近辺。エド登場予定。(あくまで予定。)


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