ショウ・タッカーが、実の娘を使って 合成獣を錬成した。

ニーナと、アレキサンダーを 使って…






06.家族





「ふざけんな!!」


報告を受けて、その場にいた 誰もが 驚きを隠せなかった。


、落ち着きなさい」

「だって!…何かの間違いだろ?そんな…そんなこと あっていいはず…っ」


あるわけないじゃないか!


「なぁ、きっとエドの勘違い…」

。気持ちはわかるが、これは現実だ。」


だって、信じられるかよ…


「昨日…笑って……また明日って言っ…た のに……」

…」




気が付いたら、走り出していた。


?!どこへ行く!!」


ロイの制止も 振り切って。








  ※   ※   ※







中佐!」


タッカー邸の門の前には、憲兵が二人 見張りをしていた。


「通して もらえるか…?」

「あ、ええ。構いませんよ」

「ありがとう」


家の中に入れば、シン…と 冷たい空気が纏わり付いてくる。


「タッカーさん…」


その部屋には、タッカー氏と、一匹の合成獣。


「っ…ニーナ…」


「やぁ、中佐」


へらり、と 笑う男。


「どうだい?素晴らしいだろう?私の作った…」


ドゴっ と、音。

遮ったのは、壁が 砕けた 音。


俺が 力任せに叩きつけた壁は、小さく その欠片をこぼしている。


「何が…『スバラシイ』んだ…?ニーナを、実の娘を こんなにしてまで

地位が欲しかったのか?!金が欲しかったのかよ!!」

「君も…わかってくれないんだね…」


呟かれた言葉は、


「人の命を弄ぶような奴の…何をわかれ と?」


俺のリミッターを振り切らせるには十分で。

俺は 自分の口から出たコトバが、ひどく冷たいものになるのを感じた。


「命を…か。君も、彼らと 同じ事を言うんだな。」


視線の先に捉えた男は、うすら笑いを 浮かべながら 呟く。


「彼ら…?エドたちのことか?」

「ああ そうさ。彼ら兄弟は キレイゴトに縋って生きているんだ。」


何の…ことだ?


「おや、何のことだか わからないかい?」


男の 笑みが 深くなる。


「彼らはね、母親を 造ろうとしたんだそうだよ。」

「なっ…」


何…だって…?


「そうして、兄は手足を失い、弟は身体を失った。」


あの二人が…人体錬成を…?


「そんな 彼らが 私を非難したとて、所詮キレイゴトさ。」

「違う…」


違う。


「何が 違うと?」

「人の為にすることと、自分の為にすることじゃ、全然ちが…っ」

「違わないさ。母親を生き返らせることだって 結局は自分の為だろう?」

「…それは…っ」



混乱している。


母親を 造ろうとした…?


人の命に手を出した その代償が あの身体…




禁忌に触れた 咎人の…姿……



「そうさ、目の前の可能性を試しただけなんだ、私と彼らは 何も違わないさ」


違わない…?

違う…。決定的に。


しかし…何が…?



「お…兄、ちゃ…」

「え?」


ニーナ…?


…お、兄 ちゃん」

「ニーナ…」


俺が わかるのか…。


「あそ…ぼう?」

「っ…ニーナ…」


あぁ…そうか。


遊ぼう と、せがむニーナを抱きしめる。


「この子には ヒトとしての未来があった…」


人間として 生きられる未来が あったんだ。


「それを…私欲の為に 潰しておいて、よくもそんな口が 叩けたもんだ。」

「フ…フフ……これは 科学の進歩だよ、多くの人間の 豊かな未来のためさ」


その為に…一人の少女の未来を 犠牲にしてもいい…ってのか…?


「あんた…本当に 人間かよ?!」


立ち上がり、男の胸座をつかむ。


「ヒトってのは それぞれ生きてんだぞ?! あんたの 独り善がりで 勝手なことすんじゃねーよ!」


衝動に駆られるまま、腕を上げた。




「そこまでだ。中佐、その手を離したまえ。」

「あ…」


部屋の入り口に立っていたのは、ロイと ホークアイ中尉。

タッカー氏から 離れて、しかし 状況に 頭がついていけてないらしい。


「タッカーさん。お話を 聞かせて頂けますね。」


俺は、ただ呆然と 立ち尽くすばかりで…


中佐、君は 部屋の外で 待っていたまえ。」

「…はい」


ロイの 事務的な対応に、ずきりと する。

怒っているのだろうか、彼は。勝手な行動をとった自分を…。


廊下に出れば、空気は変わらず ひんやりとしていて。

ここには 居たくない と思い、庭に出た。




雨はまだ、降り続いている。




「また明日って…言ったのに…」


ここで指切りをして、


「遊ぼうって、約束したのに…」


嬉しそうに 笑った あの子…。


「……ニーナ…」


また会えると思っていた笑顔は、


もう見ることが 叶わない。



俺に…戻してやれるだけの力があったなら…。








もう一度 君の笑顔に 会えるだろうか…




































呼ばれて 振り返れば、ロイが近づいてくるところで、


「悪かったな」


けれど、俺は ロイと目を合わせることが できなくて、


「勝手な真似して」


顔を背けたまま、言葉を紡ぐ。


「ロイにしてみりゃ 迷惑この上ないよな、自分の部下が勝手にこんなことしたら、下手すりゃ 減俸モン…」

、」


続けるはずの 言葉は、


「もういい…。。」


抱きしめる ロイの腕に 奪われて。


「帰ろう。風邪をひいてしまう。」



こくり と、頷く以外、それ以上の言葉を 口にすることは できなかった。








  ※   ※   ※








今の俺は 一人にしておける状態ではない、ということで、

そのまま ロイの家に連れて来られ、バスルームに 押し込まれた。

濡れた服を脱がされ、頭から 熱いシャワーを浴びせられる。


「私は 寝室にいるから。ゆっくり 温まってから 出るんだよ。」


そう言うと、ロイは そのまま出て行こうとした。


「俺…」

「ん?どうした?」


ロイが振り返る。


「俺ってさ…小さな…人間だよな…」

…」

「女の子 一人 助けてやれない…」


笑顔 一つ  守れない…。


「…鋼の も、同じことを言ったよ。」

「エド…も?」


同じことを…?


「よく 温まって おいで。」



ぱたん、と ドアが閉まった。




俺は…どうしたら いいんだろうな……なぁ…ニーナ…。
















温まった身体に、すっかり馴染んだバスローブを着て、

ロイの待つ 寝室に向かう。


かちゃり、とドアを開ければ


。ちゃんと 温まってきたかい?」

「ああ。」


ロイは ベッドヘッドに 寄りかかって本を読んでいた。


「飲むか?」


そう言って ロイが指したのは、サイドテーブルに置かれた ウイスキーの瓶。


「…いや、いい」


今は、飲みたい 気分じゃない。









「ロイ…。抱いて…くれないか」

………。それで 気を紛らわせるつもりなら…」

「違う」


ロイの言いたいことは わかっている。


「わかってる。逃げるためじゃない。ちゃんと 向き合うから…だから…」

「……わかったよ。 おいで。」




明日になったら、ちゃんと 考えるから。


ニーナのことも、 エドのことも、


ちゃんと 向き合って  考えるから。




「ん…ぁ……ロイ…」




だから  今は  抱いてくれ。



今だけは…








何も 考えられなくなる くらい…。















〜End〜




あとがき

6話目にして 初の暗い話です。実は暗いの書くのは苦手…(苦手多すぎ。)
とことん暗くなってしまうんですよ………俺が(ぇ。
でも この連載って一応シリアス……
あー…今 何人 「うそつけー!」って思ったでしょう…
えぇ、シリアスなんですよ。納得して下さい。
原作に沿うと 否が応でも そうなってしまうんです。

そんなこんなで 残り24題。お付き合い頂ければ幸い。


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