気を失うように 眠りに落ちた。
その身体を 拭き清めようとして、起こしてしまっては元も子もない、と 思い至り、
軽く拭うだけにして、後は そのまま寝かせることにした。
ショウ・タッカーに何を言われたのか… おそらく ニーナのことばかりではないだろう。
「あまり 抱え込むな…。」
眠るの髪に 小さくキスを落とし、シャワーを浴びるべく 部屋を出た。
シャワーを浴びて、少し本を読んでから、ベッドで眠るの隣に身を横たえた。
を抱きこむように腕を回すと、睡魔はすぐにやってきた。
衣擦れの音に 目を開ければ、
「あ、悪い。起こした…」
すまなそうな顔をした。
「寝ててくれ、ロイ。まだ3時だ。今日の出勤は6時だろ?」
起き上がって、どこかへ行こうとしている。
「…どこへ 行く?」
まだ頭が半分 寝ているのかもしれない。ぼんやりした声が出た。
「シャワー、浴びてくる。」
「そうか…」
そういえば、軽く拭っただけだ。べたべたして気持ち悪いだろう。
「手伝うよ。」
起き上がろうとして、
「いいから 寝てろ。」
と、押し戻された。
「そのまま どっかに行ったりとか、絶対しないから。」
約束 と、軽く唇に口付けて、落ちていたバスローブを拾って羽織ると、
そのまま寝室を出て行った。
「3時…か。」
寝直す気にはなれなくて、読みかけていた本に手を伸ばす。
サイドランプを点け、ベッドヘッドに寄りかかって 本を開いた。
しばらくして、が戻ってきた。
「夕べと 同じ状況。」
入ってくるなり 苦笑しながら言われて、そういえばそうだ と 思い当たった。
「寝てろって 言ったのに。」
「がいないと、寂しくて眠れない。」
おいで、と 手を差し出せば、
「なーに言ってんだか。」
と 言いながらも、笑って 腕の中に収まる。
「寝直す?」
「いや。せっかくが 腕の中にいるのに、寝てしまうのは勿体無い。」
「言ってること矛盾してるってば。」
くすくすと笑う。その笑顔に 翳りは見えないが…
ちゃんと考えることは できているのだろうか…
と いう思いが、顔に出てしまっていたらしい。
「ロイ…。黙ってても、いつかバレるから言っておく。」
穏やかな口調で話すに、迷いは見られない。
「エドと アルのことを 聞いた。…それで、考え込んでた。」
「…そうか。」
バレてしまったのか、と それだけ思った。
「あいつらは…きっと 母親に会いたい、って それしか考えてなかったんだよな…」
「そう…だな。」
「小さい子どもはさ、アリを踏み潰すのに、何の疑問も持たないだろう?」
「あぁ」
「でも、成長するにしたがって、それは アリを殺してるんだって、いつの間にか知ってる。」
は、ゆっくりと、しかし 口ごもることなしに 話を進める。
「そういう ことだと思う。知らないから、間違えた。『やっちゃいけない』ことを、知らなかっただけだ。」
自分自身にも 言い聞かせるように、ゆっくりと。
「あいつらは、もう それを知ってる。だから…大丈夫だ。」
『大丈夫』なのは、彼らのことか、自身のことか…。多分両者だろう。
「ニーナのことも…考えたけど、俺には…どうすることも できないから…」
「…」
「だから せめて、あの子が 幸せになれる方法を探したい。」
「それは…にとっても、きっと辛い道だ。」
「わかってる。でも、俺には ロイがいるからな。」
にっ と笑顔を向けられ、
「ロイの存在自体が、俺の安定剤だからさ。いてくれるだけで、俺は大丈夫だ。」
「」
そんなことを言われたら…嬉しくてしょうがないじゃないか。
どちらからともなく 口付けて、
そのまま組み敷こうとしたら、
「こら、夕べも しただろ!」
止められた。
「せっかく 早く起きたんだから、朝メシ作るよ。」
「が作ってくれるのか?」
もしかして、初めてじゃないだろうか。
うちに来て、が 朝早く起きれたことなんて なかったからな…。
まぁ、私が無理させるせいなんだが。
「だって、ロイの作るメシは 微妙なんだもん。」
………確かに。
「…。」
「ん?何?」
「どうせだから 裸エプ…」
「何か おっしゃいましたかね。」
笑顔が怖い…。
食事を済ませて、午前5時。そろそろ 出勤時間だ。
「は どうする?」
身支度を整えながら問えば、は ベッドをメイキングし直すべく、
新しいシーツを引っ張り出している最中だった。
「俺は、8時まで行けばいいから…一旦帰って 着替えて行く。」
そういえば の軍服は まだ乾いていなかったな。
「と いうわけで、服貸してくれ。」
「あげようか?」
「そうそう 脱がされてたまるか。」
なぜわかったんだろう…。
そうこうしていると、リン… と 電話が鳴った。
『マスタング大佐!』
受話器を取るなり、叫ぶような声が聞こえる。
「私だが…。どうした?」
憲兵が 直接 掛けてくるなんて、滅多にあるものではない。
『ショウ・タッカーが、殺されました!』
「何…だって!?」
表を見張っていた憲兵二人も やられていた。
そして、タッカーの錬成した、合成獣も…
「私は直接 現場に向かう。司令部には?」
『連絡しました』
「わかった。犯人が戻ってくるとは 考えにくいが、周囲には十分警戒しろ。」
『はっ!』
受話器を置くと、が じっと こちらを見ていた。
「何か、あったのか?」
本当のことを 告げるべきか…。
隠し通せる ものではない、な…。
「ロイ?」
「…ショウ・タッカーが 殺された。」
「え…」
ここまでで、やめておいた方がいいのかもしれない。
「憲兵二人と…合成獣も、だそうだ。」
「そん…な…」
愕然としたの表情に、やはり 言わなければ良かったと、後悔が脳裏をよぎる。
「私は このまま現場に向かう。」
「俺も…」
「。君は 着替えて 司令部に向かいなさい。」
「何でっ…」
「今の君を、現場に連れて行くわけにはいかない。」
俯く。
「理由は、わかるね?」
こくり、と 頷く。
「落ち着いてからでいい。司令部には 話を通しておくから。」
もう一度、こくり と頷くの額に キスを落として、外に出た。
雨は まだ止まない。
※ ※ ※
「おいおい マスタング大佐さんよ。俺ぁ 生きてるタッカー氏を 引き取りにきたんだが…」
血生臭い室内で、
「死体連れて帰って 裁判にかけろってのか?」
さんざん文句を言われる。
「たくよー 俺たちゃ 検死するために わざわざ中央から 出向いてきたわけじゃねぇっつーの」
「こっちの落ち度はわかってるよ、ヒューズ中佐。」
頭を抱えたくなっても しょうがないだろう。
見張りの憲兵が あっさり殺されてしまっては。
「そういえば、中佐は?数ヶ月前に 東方に移動になったろ?」
「知り合いか?」
「飲み友達だ。」
しらなかったな…。
「今日は 司令部にいるように 言ってある。ここの娘と 親しかったからな。」
「…そうか…。」
ヒューズは 多分、東方に来る前の を 嫌と言うほど知っているんだろうな…
っと、妬いてる場合ではない。
「とにかく、見てくれ。」
ビニールシートの掛けられた遺体を示す。
「ふん…自分の娘を実験に使うような奴だ。神罰が くだったんだろうよ。」
シートを 捲り上げるヒューズ。
「うえぇ…案の定だ。 外の憲兵も 同じ死に方を?」
「あぁ、そうだ。まるで内側から破壊されたように バラバラだよ。」
本当に、を連れてこなくてよかった と思う。
少々、過保護かもしれないが。
「どうだ、アームストロング少佐」
「えぇ、間違いありませんな。“奴”です。」
“奴”?
「何か 心当たりでも あるのか?」
「ええ、『傷の男』です。」
「『傷の男』?」
「あぁ。素性がわからんから、俺達はそう呼んでる。」
素性も武器も目的も不明…か。目印が 額の傷…。
国家錬金術師ばかりを狙い、グラン准将まで やられたときた。
「悪いことは言わん。護衛を増やして しばらく 大人しくしててくれ。」
大人しく…か。
「これは 親友としての頼みでもある。ま、ここらで有名どころと言ったら タッカーと あとはお前さんだけだろ?」
国家錬金術師に限るなら、は関係ないしな…。あとは 鋼の………
「タッカーが あんなになった以上、お前さんが気をつけてさえいれば…」
「まずいな…」
今 東方には鋼の がいるじゃないか。
「?…おい!」
「エルリック兄弟が まだ宿にいるか 確認しろ。至急だ!」
「あ、大佐。私が司令部を出る時に会いました。」
何だって?
「そのまま 大通りの方へ 歩いて行ったのまでは見ています。」
「こんな時に…!!」
頼むから、外になんか いてくれるなよ!
「車を出せ!手のあいてる者は 全員大通り方面だ!!」
大通りなら、ここよりは 司令部の方が近い…な。
「司令部に連絡しろ。中佐が待機しているはずだ。」
…大丈夫、だな?
「司令部で 手のあいている者も総動員させろ!」
今は を、信じるしかない。
雨は まだ………止まない。
〜End〜
あとがき
前半 少しノリが戻ったな〜…。
暗いだけの話に 俺が 耐えられなくなりまして(苦笑。
ヒューズさん 登場!主人公とは中央の数少ない飲み友達。
そういえば…お題の「戦友」って あまり考えてなかったような…
えーっと…。まぁ…感覚的に、そんな感じで(逃走。
地理的なところは…よくわからないので でっち上げてみたり。
大通りとの位置関係 アバウトです。
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