セックスドールは淫蜜に濡れる





また1つ、新しい時間が生まれる。

何かに対する信仰があるわけではないが、いつも新しい年を迎える時には

どうしてかそう思う。

人間が勝手に区切った時の終わりと始まりは、ときになぜか神聖な

もののように思えてならない。

もっとも、その神とやらも、聖という言葉や感覚も全て人間が作り出した

ものなのだが。


俺は人間があまり好きではない。

自分がそれ以外の何かであるつもりはないが、毎日愚かしい者ばかりを

見ていたら、人という生き物など、決して良いものとは思えないだろう。


人として命を持って36年。そのうち10年を、俺はこの薄暗い部屋で

過ごしている。

内装だけは、こぎれいに整えてあるが、照明は常に蝋燭の炎と同じ色をした

小さなランプが15個、部屋に散らして置いてある。


窓のないこの部屋は、けれど建物の2階にあり、町の喧騒や、時を告げる

ものの音は聞こえていた。

壁に小さくつけた傷、新たに年が変わるとき、ひっそりとつけてきた傷が

今、10の数を知らせた。



部屋の半分を占めるダブルベッドに寝そべり、部屋に2つある扉の片方が

叩かれるのを待つ。

毎夜、深夜25時。この部屋の扉は、3打のノックを3回というルールに従って

叩かれ、こちら側から1回1打のノックを返して、俺が内側から鍵を開く。

しかし、俺に出来るのは、鍵を開けるまで。

この内開きの重い扉には、内側には把手がついていない。

火事などになった場合の助けは期待できないが、ここにいる限り俺には

何をどうしようもない。


そうして暫く待っていれば、かつかつという足音に続き、部屋の扉が叩かれる。

この部屋の扉は重いくせに、壁も床も厚くはない。

隣の部屋の住人が喘ぐ声が、すべてこちらに筒抜けてくる。

まあ、俺の声だって、隣に聞こえているんだろうが。


規定通り繰り返されたノックに、1回こつんと扉を叩き、鍵を開ける。

それからすっと小さく5歩下がり、扉が開くのを待つ。

重い扉を押し開け、そこに立つのが今夜の客だ。


借財のカタに身を売った。ここはそういう奴らが客を取る場所。

26の年の瀬だった。両親が作った莫大な借金は、当時士官学校卒の資格もなく

軍に入ったばかりの俺には、到底返せる額ではなかった。

俺は両親に身を売らされたのだ。

あの2人は今、東部の田舎に引っ込み、のうのうと生きているらしい。


「今宵一夜のお相手を」


頭を下げ、けれど口調だけは冷めたまま、扉をくぐる男に告げる。

ここには、男を抱ける男しか来ない。

隣の部屋はどうだか知らないが、少なくともここには、俺で性欲処理する男しか

来てはいない。


「また、痩せたな」


開口一番、入って来た男は、何の感情もこもらぬ声でぽつりと言った。


「なんだ、あんたか。ロイ・マスタング」


29歳にして大佐。士官学校卒の錬金術師。エリート軍人。

こいつは俺を嫌っている。俺もこいつを好いてはいないが、汚いオヤジどもよりは

幾分マシだった。

俺がこいつにこんな口のきき方をするのは、こいつがそれでいいと言ったから。

年上の人間に丁寧に話されるのは、職場とホテルだけで沢山だそうで、けれど

男娼の俺に払う敬意も持ち合わせてはいないらしいこいつの、俺に対する

態度はぞんざいだった。


「珍しいな。今日、後ろ使えないのに」


この店では、毎夜客を取らせる代わりに、本番までのセックスは週に2度と

決められている。

薬液を使っての腸内洗浄は頻繁に行えば逆に身体に悪い。

そのため、後孔を使用する日には、店主が自ら薬液と、ついでに、この部屋に

1つだけある収納に仕舞われている『オモチャ』の手入れ用の液体の補充を

持ってやってくるのだ。

複数あるそれらの手入れは、自分でしなければ清潔なものを使うことは出来ない。


後ろを使うのが週に2回というのは、俺にとってはありがたい話であり、あまり

緩みすぎては品質に問題が出るだろうと言い切る店主のことも、そう嫌いではない。

他の店では、虐待と不衛生で身体中が酷いことになっている人間がいると聞くから

何だかんだ言ってこの店は、身を売る人間に厳しくはないのだろう。

まあ、この店で契約期間をまっとうせずに自殺した奴は、そういう趣味の人間に

高額で売られていくらしいから、そのあたりはどっこいどっこいなのかもしれないが。


「シャワーを浴びてくる。脱いで待っていろ」


俺の言うことには答えず、このいけ好かない野郎は上着を脱ぎ捨てると、

藤で作られたブラインドの向こう、バスルームへ消えた。

ちなみに、そのブラインドの隣にある、この部屋のもう1つの扉はトイレだ。

バスルームもトイレも、プレイに使えるようにと少々広めに作られているのが

気に食わないが、まあ仕方ないことだろう。


脱ぎ捨てられた上着を拾い上げ、客の為にしかないハンガーに掛ける。

入り口付近の壁に掛けておけば、あとは俺が意識を飛ばしてしまっても

客は勝手にそれを着て帰るわけだ。

客が帰るときには、内線しか繋がらない電話で、迎えを呼ぶ。

そうしないと扉が開かないからだ。まあ、それにプラスして、客が俺に

規定外のことをしていないか、チェックする目的もあるらしいが。


あいつの言いなりになるのは癪に障るが、客なので仕方がない。

1枚だけ身に着けていた長めのシャツを脱ぎ、ベッド下の籠へ放る。

さて今日はどんなことをされるのだろうと、想像するのも虚しい。

全裸の身体を上掛けをはいだベッドへと横たえ、この身を自由にされる

覚悟を決める。10年やっているとはいえ、見下され、組し枯れることに

屈辱を感じる程度のプライドはまだ残っていた。

捨ててしまえば、多分もっと楽なんだろうが。


シャワーを浴びて出てきたマスタングは、服を丸めて小さなソファの上に投げた。

そんなことをしたら、服が皺になると思わず言いかけて、

どうでもいいかと口を閉ざした。

裸で堂々と歩くこいつは、俺に対して衒いなどない。

すぐにベッドへ向かってくることはせず、収納を開け、中を眺めている。

尻を使えない日に、あまり来ることのない奴だから、何をするのか

決めかねているのかもしれない。


ここの収納に入っているのは、バイブレーターや、棒などの主に拡張器具と、

スカトロ用のものが少し。SMに使われるようなムチや荒縄の類はない。

なぜなら、店主が商品に傷を残されるのを嫌うからだ。それ系統であるのは、

後の残らないタイプの細長いロープと、低音蝋燭くらいだ。

けれど、俺のところに回される客は、俺をひたすら撫で回す奴や、ただ奉仕を

求める奴が大半なので、器具の使用頻度は高くない。


「っ……!」


マスタングの手にしたものを見て、俺は小さく息を呑む。

頼むからそれをこちらに持ってきてくれるなという願いも虚しく、いくつかの

道具とともに、それはベッドへと運ばれた。


「その顔からすると、何をされるか、わかっているようだな」


使われたことがないわけではなさそうだと、暗い笑みを浮かべる男に、

顔が引き攣るのがわかる。

かたりと音を立てる箱。中身は銀色の、細い拡張器具。

医療用らしいそれを、性具として使われたのは、過去に1度。

まさかあんなところを、弄ばれるなんて、思ってもみなかった。


「まあ、その表情では、慣れているということもないだろう」


箱の中から、一番細いそれが取り上げられ、俺へと向けられる。


「脚を開け」

「っっ……」


命令されれば逆らえない。

ゆっくりと開いた脚の間には、くにゃりと萎えた性器がある。


「あっ……」


どろりと、粘着質な液体が敏感な先端に垂らされる。

しかもそれは、この部屋に常備してあるローションではない。


「な、に……っ」


ぐわん、と耳鳴りがした気がした。

性器の先から、尋常ではない疼きが脳天に突き抜けたのだ。


「心配しなくても、合法の媚薬だ」

「ひあぁぁぁっ」


一気に膨れ上がった性器に、ずぷりと器具が突き立てられ、狭い孔を犯した。

ぐちょぐちょとした液体の力を借りて、どんどん飲み込まされていく。


「ふぐ……ぅっっ」


突き当たりまで押し込まれ、引き抜いてはまた押し込むという動作を繰り返される。


「もう少し、太さがあっても平気そうだな」

「や……っ」

「嫌? ここは嫌だとは言っていないようだが?」


ぐい、と顎を捉えられて、そこを見せられた。

ぬぷ、と音を立てて棒を引き抜かれた小さな口が、ひくりと振るえ、きゅっと窄まる。

そしてまた、ゆるっと開いて震えた。


「あ……」


あまりにも卑猥なそれを見せ付けられ、まるでそこが自分から切り離されたもので

あるかのように感じる。


「入れてくださいと強請れ。そうしたら優しく入れてやる」

「っ……入れ、て……下さ……」


客の命令は、規定に反しない限り絶対。

自分にそう言い聞かせて、口を開いた。が。


「どこに、何を?」

「っ……!」


意地の悪い目で返されて、更なる言葉を要求された。


「言わないのなら、ぶち込んでやるが……」

「……俺の……尿道……」

「尿道? 色気がないな」

「っ……お、しっこの、穴にっ」

「まあいいだろう。で?」

「いやらしい、おもちゃを、入れて下さいっ……あぁっぅ」


言い切ると同時に、ぐに、とさっきよりも太い器具が尿道口を割り、

時折くるくると回されながら、奥まで咥えさせられた。


「よく飲み込むじゃないか。慣れているのか?」

「そ、な……ない……」


否定を信じたのかどうかは知らないが、マスタングは冷静な目のまま、

棒が突き刺さったままの性器にローターを近づけてきた。


「よくしてやろう。気は遣るなよ」


言うが早いか、ローターが亀頭に押し当てられる。


「っあぁぁっっ!」


弱い所に振動を送られ、媚薬に濡れた性器は苦しい快感を生んでいく。

じりじりとローターが全体を這うように動かされ、そこがじんじんと痺れてくる。


「ひぐっ!ぅあっ、あーっっ」


ローターが、尿道に入っている棒の先に押し付けられた。

あまりの衝撃に、全身が引き攣れるような錯覚を起こす。


「気持ち良さそうだな」


ふっとバカにしたような笑みを浮かべるマスタングを、けれど睨み返す余裕などない。

こんなにされたら、尿道が壊れてしまうのではないだろうか。


「か、はっっ」


ようやくローターが外され、棒を引き抜かれて、しかし小さな口は中に道筋を

つけられたまま、ぱくぱくと開閉しているのが、見なくても分かる。

と、急に腕を掴まれて、床に下ろされた。力の入らない膝は立ってくれず、

ぺたりと内腿を床につけるようにして座り込んでしまった。と。


「っあ!?」


そこから、じわりと。


「あ、あ、あ……や……ぁっ」


決壊。

自分の意志では止めることの出来ない感覚に、俺は目を見開いたままただ身体を

震わせるしかない。

溢れるものが止まって、ようやく、自分が失禁したことを思い知った。

ベッドマットを汚すような行為は規定違反だったなと、ぼんやりと思う。

だから自分が床に引き摺り下ろされたのだ。


「汚れたな」


今度は無理矢理立たされ、バスルームへ連れて行かれる。

びちゃびちゃに濡れた脚が気持ち悪い。そこを濡らしているものが何なのかなど

考えたくもない。


「シャワーを浴びていろ。ここを片付けさせる」


あの失禁のあとを、他人に片付けさせるなんて、と思ったところで、どうしようもない。

脚には力が入らないし、あそこはじくじくと変に疼いている。


「ここを出る頃には綺麗になっているだろう」


そう言って戻ってきたマスタングは、俺がただ打たれていただけだったシャワーを止め、

バスタブに湯を張り始めた。


「湯が溜まるまでに、イかせてもらおうか」


つい、と唇を撫でられる。口でしろと言われているのだ。

バスタブの淵に座るマスタングの脚の間にしゃがみ込み、雄臭いそれを口に含む。

先端を啜り、舌を出して全体を舐め、それからめいっぱい口に含む。

喉奥で締め付けるやり方も、いつの間にか覚えた。

もう、多少乱暴に突っ込まれたくらいでは、えずくこともない。

吸い上げ、手で扱きながら舐め、袋を優しく揉む。

顎が疲れて、しかし今口を離せば、イかせるまでにまた時間がかかってしまうであろう

ことを知っているから、だるい顎を何とか動かす。


「ん、ぐ……ぅっ」


暫くして、口内の熱がどくりと膨れ上がった。

びくっと震えたそれから、喉の奥に苦い粘液が放たれる。

零さずに飲み込む術も、とうの昔に覚えてしまっているから、溢れそうになるそれを

けれど全て綺麗に飲み込んで、残滓までも啜り上げた。


「まあまあのタイミングだな」


言われて目をやれば、バスタブの湯は、三分の二程度まで溜まっていた。


「口をゆすげ。精液臭い」


誰の精液のせいだと、口には出さず睨み上げ、けれど逆らうことはせずに

湯を出して口をゆすぐ。


「来い」


2、3度湯を吐き出したところで、さっさとバスタブに入っていたマスタングが呼ぶ。

ここに入れと、ゆったりとしたバスタブの中、伸ばした足の間を指され、

俺は多分、苦虫を噛み潰したような顔をしてしまったのだろう。

マスタングが、面白そうに口元を歪めた。


「客に見せる顔じゃないな」


今までに他の客から、これを要求されたことがないわけではないし、後ろから

抱きかかえられ、恋人のように振舞わせろと言われたことも少なくはない。

しかしまさか、マスタングからこれを求められるとは思っていなかった。

だってこいつは俺を嫌っているのではなかったか。

組み敷かれるならまだしも、腕の中におさまることなど……


「さっさと来い、湯が増えない」


再度せかされ、しぶしぶと湯に身を沈める。抗うように向かい合わせて入ろうとしたら、

腕をつかまれ、背中を胸に預けるように倒された。


「手間をかけさせるな」


言いながら、腰を引き寄せられ、がっちりと胸に抱き込まれてしまった。

尻に、1度放出して落ち着いた男のモノが触れているのが妙に生々しい。

と、マスタングの手が、俺の性器に伸びた。


「さっきは、随分と気持ち良さそうだったな」


くい、と湯の中で先端の穴を少し押し広げられ、敏感すぎる粘膜が、

揺れる湯に弄られた。


「っ……」


息を詰めると、肩口でふっと笑う気配が伝わってくる。


「お前の尻の中は、いつもひどく熱いが……」

「あっ」


前から回した手で、尻の狭間を探られ、蕾をつつかれる。

もう片方の手は、性器の先端をくすぐっていた。


「この先端の小さな穴は、どうなんだろうな」


じわりと、滲むような声を耳に注がれ、尿道口に人差し指の先が食い込む。

ぐぅっと入り込むように押され、痛みに脳が痺れた。


「ひっ……ぅ」

「特に今は、出した後だから、さぞかし熱く……」

「っあぁ!っっ……い、やぁっ」


言葉で煽られながら、ずぷん、と入れられる感覚がある。

後孔に指が沈んだのだが、囁かれていた内容のせいで、脳が、その小さな穴が

貫かれたように錯覚してしまったらしい。

見開いた目からぼろぼろと涙が零れるのを止められず、身体はひくひくと震えた。


「くくっ、そんなに期待したのか?」


俺の反応が期待通りだったのだろう。マスタングは愉しそうに笑った。


「これからは、ここを開発してやろう」


笑いを含んだまま、マスタングはゆるゆると小さな入り口を擦った。


「私の指を押し込んで、熱さを確かめてやる」


言いながら、俺の後孔に含ませたままの指を前立腺につき立ててくる。

感じて尻が解けると、いつの間にか硬くなっていたペニスの上に引き降ろされた。

尻の狭間に熱を押し付けられ、それが揺すぶられるたび、俺の性器までをも擦る。

ばちゃばちゃと、揺さぶられるのに合わせて撥ねる湯を見ながら、

ぼんやりと考えるのは、さっきのこいつの言葉。


これからは、と言ったそれを、俺は内心で笑い飛ばしていた。

これから、なんてないのだ。俺はあと1日もせずにここを出るのだから。

10年ここにいた。本当は利子分であと5年はここにいる予定だったが、

残り5年分に色を付けた金額で、俺を買う奴がいるそうで、俺はそれを受けている。


たとえあと5年働いてここを出ても、俺に出来ることは何もないからだ。

暗闇生活で正常を失った視覚は、もういくら徐々に光に慣らしたところで、ほとんど

回復するものではないらしい。

サングラス無しでは外も歩けないし、資力も、この狭い部屋にずっといたのだ、

いいはずがない。


だから、俺はヒヒジジに飼われてやることにした。

相手のことは聞かされてはいないが、どうせ金持ちのクソ野郎のうちの誰かだろう。

迎えが来るのは今日から明日に日付が変わる頃だという。

今日、この仕事が終わったら、いつもの睡眠の後には、店主との打ち合わせがある。

その後は、時間をかけて身を清め……


「っあ……っっ、ひぅ、あっあっ」

「上の空だな。それが客にとる態度か?」


かりかりと性器の先端を引っ掛かれ、思考に沈み込んだ意識を引き戻される。

敏感な部分に強い刺激を与えられて、後孔がひくひくと反応する。

まるで男を欲しがるように……


「は……あ、ぁ」

「お仕置きが必要だな」

「っぅ……んっっ」

「上がったら、もう少しここを弄ってやろう」


ぐいっと、また尿道口が押し開かれ、俺はひくりと息を呑む。


「今、自分からお願いすれば、少しは優しくしてやるが?」

「んっ……ひぅっ」

「さあ、どの穴を、どうして欲しい?」


囁かれ、屈する。

尿道を酷く責められるのは、先程のこともあって、恐ろしい。


「……おしっこ……おもらし、した……はしたない、穴を、」


男の期待に沿えるよう、わざと自分を貶めて、


「貴方の指が、入るくらいに……広げて、下さ……」


思っていもいないことを、最後はしかしさすがに尻すぼみになりながら、

何とか口にのせる。


「上出来とは言えんが、まあいいだろう」


ふっと笑ったマスタングは、俺の尿道口を擦りたてる手は止めぬまま、

性器を2本まとめて握り、強く扱く。

暫くして満足したのか、勃起したままの性器をそのままに、

さっさとバスタブから出て身体を拭いてしまう。


「手伝って欲しいか?」


問われ、言外にお前も早く出ろと言われているのだと気付く。

首を横に振り、バスタブから出ようと足を上げた途端、ぐらりと揺れた。


「手間をかけさせるな」


耳元で声がする。どうやらマスタングに抱きとめられたらしい。


「放っといてくれてよかったのに」

「可愛くないな」

「あんたの前で可愛い必要があるのか?」

「可愛くしていた方が得、とは思わないか?」

「あんたが媚びられて嬉しいならするが?」


マスタングの両肩に手を当て、身を起こしながら顔を見れば、俺の言葉に

くっと面白そうに口元を歪めていた。

そのまま何も言わず、俺を引き上げ、軽く身体を拭うと、ベッドへと引き摺っていく。

床は綺麗になっていて、ついでのようにシーツも取り替えられていた。


「あ……っ」


ベッドに倒され、脚を開かれる。

さっき途中で放られたせいで、俺の性器はまだ硬いままだ。

そこに押し当てられるのは、俺を苦しめる拡張器具。


「力を抜いていろ」

「っ……」


ずぷりと突き立てられ、それから今度は、中を広げるように大きく回される。

そうして俺が意識を飛ばすまで、そこを弄り弄られて。

覚えているのは、尿道に酷く熱いものを注がれたという感覚。

マスタングのモノから放たれた白濁が、棒をぬかれたばかりのそこに

注ぎ込まれて……そこから先は、もう何もわからなくなった。








  ※   ※   ※








目を覚ましたときには、男の姿はなく、べっとりと濡れた身体が申し訳程度に

シーツで覆われていた。

シャワーを浴びて、身づくろいをする間、下半身は痺れきっていて、重だるい

その感覚に、動くのが億劫になる。

そのうち店主がやってきて、身請けの準備が始まった。

今後俺がするべきことを淡々と店主が告げたあと、風呂に薬液を入れた湯が張られ、

身体を磨くための、真新しい布が用意される。


3時間かけて湯に浸かり、身体を磨く。

この身体は明日にはもう自分のものではなくなるのだと、この禊で思い知る。

どんな人間が俺を買ったのか、店主は俺に教えなかったが、それが誰であれ、

今までないも同然ながら一応自分のものだった自分の所有権が、今日限り、

自分の手を離れることに変わりはないのだ。


途中幾度か水分を補給しながら、長い入浴を終え、バスルームを出ると

ベッドの上に相手方が用意したという服が置かれていた。


「……悪趣味……」


そこにあったのは、純白のドレス。ガーターのついた白いストッキングと、

これも白い手袋。下着はない。


「ブーケがないのが、せめてもの救いか?」


それ以外に着るものもないので、取り敢えずそこにある全てを身に着けた。

そのまま、日付が変わるまでベッドの上で待つ。

やがて。やってきたのは店主だった。

相手は仕事の都合で迎えには来られないらしかった。

ここから相手の家まで、どんな強い光源があるかわからないために、

目隠しをして行くのだという。

付き添うのは店主のみ。その店主は、俺の格好を見て、似合うなと微笑んだ。

嬉しくはなかったが、店主の顔を見るのもこれで最後かと思えば、否定の言葉も

吐く気がしなかった。


目隠しをされて、店主に支えられながら車に乗る。

10年ぶりの外の空気は、シンと冷たく、けれど心地良いものだった。


しばらくして、目的地に着いたらしい車が止まり、店主は俺を車に残し、

家を確認に行った。どうやら相手はギリギリで帰り着いていたらしく、

俺はあっさりと車から降ろされ、店主の手から誰とも分からぬ男の手へと

引き渡された。別れ際、店主は小さく「元気で」と言った。

ああ、本当に俺はあの店を出たのだと、歓喜、寂寥、様々な感情が溢れる。


目隠しをされたまま、男に手を引かれる。男は喋らない。

腰を抱かれ歩かされれば、相手が自分より長身の、細身の男だと知れた。

とん、と身体を押され、倒された先は、多分ベッドだろう。

スプリングがギシリと音を立てた。

そうして唐突に、ドレスのスカートが捲り上げられる。

視界を奪われたまま、セックスに持ち込まれようとしているのだ。

こいつは一体誰なのだろうと考えているうちに、性器にぬるりと液体が垂らされ

扱かれて、強制的に勃起させられた。


「っ……ぁ」


小さく声を上げれば、相手がくつりと笑った気がして。そして……


「っあ!あーっ、あーっっ」


いきなり、尿道口が割られ、硬く冷たいものに隘路を犯された。


「ひ……はっ……あ、あっっ」


いきなりこんなことをするなんて、思い当たる人物に、まさかと思えど否定もできない。


「……マスタング……?」


呼ぶと同時に目隠しを外される。


「花嫁衣裳は、お気に召して頂けたかな」


何故、どうして、こいつが俺を買うんだ。

ひらけた視界のその先に捉えたのは、ロイ・マスタング。


「お前のためにあつらえた」


言われて視線を向けた先、俺の性器には深々と、硝子で作られた大輪の薔薇が

突き刺さり、花を咲かせていた。


「まあ、すぐにこれでは細くなるだろうが」

「か、はっっ」


ぐりっと、容赦なく薔薇を回され、衝撃に息が詰まる。


「不服そうだな、

「っ……!」


初めて、名前を呼ばれる。その響きに、俺は、この男に支配される運命を知った。

尿道を犯され、射精のない快感を植えつけられる。俺は、オンナにされるのだ。


「私の名を呼べ」


短い命令。呼べばもう、逃げられないのだと悟り、しかし……


「ロイ・マスタング……ロイ」

「上出来だ」


くっと顎を持ち上げられ、口付けられる。


「これで、お前は私のものだ」


囁かれた言葉が脳に染みていく。

尿道をぐりぐりと犯されながら、痺れた頭が俺に告げる。


また1つ、新しい時間が生まれる。

俺の、俺のためだけの時間が……

逃れることの叶わない、永遠にも似た……


「さあ、。今度こそ、うまく強請れるだろう?」


決して好きではないはずの、男の声が甘く響く。

俺は、服従の言葉を吐くために、ゆっくりと、口を開いた。















〜End〜





あとがき

長い!会話がない!エロが淡々として微妙!そして伏線消化できてない!
長くなりすぎるので設定2、3削って短くしました(涙。
ぐだぐだですみません。
頑張りますので、どうぞ今年もよろしくお願い致します(礼。

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