月冴ゆ夜の囚われ人





ぐちゅ、と 嫌な音がした。


「ぁぐっ…ぅ…っっ」


同時に呻いた青年は、全裸で鎖に繋がれ、錆付いたパイプベッドの

硬いベッドマットの上に仰向けに転がされた状態で、

両脚を大きく広げさせられていた。


股関節が軋むほどに開いた脚の間。

いやらしいクスリで強制的に勃起させられたペニスには、

たった今、太い棒が先端の小さな孔を割って

押し込まれたところであった。

直径1センチメートルほどの棒が、彼の尿道を ずぶずぶと犯す。


捕らえられ、ここに連れてこられて繋がれて、次の瞬間から始まった、

性器への虐待は、酷いほどの痛みと、わずかに、けれど決定的な

快感を彼に与え、彼の彼たる矜持を砕き壊そうとするかのように

行われ続ける。


「ひぎ…っぁあ……や…め…っっ」


犯される尿道は、裂けてしまうのではないかという恐怖を彼に与えるが

しかし薬の作用によって、柔らかに溶かされた その孔は、むしろ

悦んでいるかのように ひくつき、棒を飲み込んでいる。


「あ、あーっあーっっ」


ぐりぐりと中を擦られ、声を上げれば、棒を握る男が にやにやと笑う。


「いい声で啼くねぇアンタ…、だっけ?」


そそられるよ、と嘲う男はエンヴィーと言ったか。

突然現れた この男が何なのか、に理解する術はなかったが、

時折 男の話にまざる「鋼のおちびさん」という言葉が指すものが

自分の恋人である彼のことだということだけは わかる。


これは一体何の因果なのだろうかと思えど、大事なところに

残酷なほどの辱めを与えられている現状に、

求める答えを見出すことは望めそうになかった。


「オレのものに なりなよ、


可愛がったげるからさ。

言って後孔に指を伸ばしたエンヴィーの瞳に映るものを見て取って、

は ぞくりと身を震わせる。


「ふ…ざげるな…っ」


その瞳に映し出される自分の肢体は、汗と体液にまみれ、

涙に濡れた顔は痛みと快感に歪み、その口元は物欲しげでさえある。


「う…く…っっ」


べっとりと いやらしい成分を含んだ潤滑油に濡れた指が、

の後孔に沈む。

痛みの無い違和感が、腰の奥に溜まる重い熱を ゆるゆると煽った。


ぐ、ぐ、と 奥へ奥へ入り込む指を、身体が本来の機能に従って

排泄しようと蠕動運動を繰り返すが、蠢いてしまった分、

指の当たり方が変わり、もどかしい快感に苛まれる破目になってしまう。


「んんぁっ…ふ…ぅ」


抱かれ慣れた身体は、もっと感じる場所を弄り回して欲しいと、

堪える理性を崩壊へ誘おうとする。薬の作用が それに拍車をかけた。

抗い抗ってなお理性を苛む快感に、の意識は虚ろに混濁していった。



久しぶりの逢瀬だった。

愛しい年下の恋人に、エドワードに会うことができた今日という日は、

とても幸せな日であった。幸せな日で、あったはずなのに。


時間の無い中で身体を重ね、それでも十分に満たされて、

連れ立ってホテルを出たのが昼を過ぎたあたり。

アルと待ち合わせているという図書館まで歩いて、

小さくキスをして別れた。


次に会える時には、きっと身長を追い越すからと言うエドに、

楽しみにしていると笑って、手を振って。

そして、一人、辿る帰路は、ほくほくと温かいものであった

……はずなのに。


『やあ』


路地から するりと現れた男が笑みを浮かべた瞬間、

のすべては、エドの恋人であるという その一点を理由に、

人間という それから突き落とされた。

身体を攫われ、嗅がされた薬は、意識を奪うものであり、

意識を取り戻した時には 既に身体は淫蕩な反応を示していた。



「ひ…っぐぁ…ぁぁっっ」


虚ろな目で、ただ理性を保とうとしていたを現実に引き戻そうとしてか

エンヴィーの手が、尿道に突き刺さった棒を引いた。

排泄感を与えられ、またそれを押し込まれて、痛みと快感に

意識を引っ張られる。


男の目は、理性を崩せと促してくる。

意識は保ったまま、理性を崩壊させ、もっと淫蕩になれ、と。

自分の支配下に すべて堕ちろ、と。


「おしり、柔らかくなったねぇ」

「あ…ぅっ」


ぐにに、と 中で2本の指を広げられ、中が冷たい空気に触れて、

ぞくりと の身が震えた。


「ああ、そっか。おちびさんの おちんちん、咥えてきたんだっけ」


おしりで いっぱい気持ちよくなってから来たんだよね、と笑いながら

エンヴィーは 後孔と尿道に含ませたものを 同時に動かす。

ぐりぐりと、前立腺を 両側から嬲るように。


「それなのに、こんなに感じちゃうんだ?ねぇ、?」


殊更優しく、けれど蔑みを含めてエンヴィーが囁く。

その囁きさえも、理性を突き崩すための誘惑であり得るほどには、

の心は壊れ始めていた。


「や…あぁ…んっっ」


やがて、甘く、声が上がった。

蕩けきった、快楽への服従ともとれる その声は、悶えるの口から

唾液と共に溢れて止まらず、尿道を犯されるペニスは びくびくと震え、

後孔は とろりと絡みつくように 柔らかな性器に変わる。


「やっと 堕ちた?」


の変化を見て取って、エンヴィーが嬉しそうに笑う。


「気持ちいいだろ?」

「……」


まだ あえかな理性を残し、そこに しがみついていたを、

エンヴィーは容赦なく突き落とす。

答えずに身を震わせたのペニスを、潤滑油で べたべたに濡らした

手で握り取り、扱き上げたのだ。


「…っっぁああっ!あーっあーっっ」


本来男性が感じてしかるべき快感。

孔を掻き回されるのではなく、直接にペニスの表面に感じる快楽を

与えられる。久方ぶりに感じる男性的な快感。

後孔を、そして尿道などという場所を犯されたままに それを得ている

という事実に、倒錯的なものを覚え、の理性は焼かれていく。

裏筋を辿られ、くびれを摘まれて扱かれる。

亀頭を揉まれて、内部の棒が それによって蠢く感覚に、

の理性は、終に ふつりと切れた。


「く…ふぅ…っっふ…ぅ…っ」

「気持ちいい、だろう?」

「ん…い、い…きもち、い……っっ」


素直に答えを零したに、今度こそ堕ちたことを確信したエンヴィーは、

満足そうな笑みを浮かべると、の耳元に口を寄せ、

服従を促す言葉を並べる。


「気持ちいいって、どこが?」

「ぁ…お、ちんちん…が……っ」

「外?中?」

「ふ…っぁ……そと…っ」

「だけ?」


言いながらエンヴィーは、意地悪く、つい と棒を動かす。


「んぁぁっ…なか、も…きもちい…っ」

「おしりは?」

「ん…ん…っ おしり…の、なか……いい…っ」

「いいんだ?」


こりこりと前立腺を揉まれ、は涙を零して喘いだ。


「いい、すき…そこ、すき……」

「おちんちんと、どっちが好きなのさ?」

「やぁ…っん、どっちも…どっちも…好きぃっ」


言わされるがまま、言葉が零れていくのを、もはや止める術もなく、

というより、重ねられる問いの意味を把握することさえ出来ずに、

は 身体も心も強引に捩じ伏せられていく。


「こうされるのは、好き?」


ずずっと、尿道の棒を抜かれ、また入れられる。

抜き差しを繰り返されて、もうすっかり綻んだ孔は、

棒が入り込むたび 嬉しそうに絡みついていった。


「ああっ…あー、んっ…す…き…っっ」

「好きなんだ?気持ちいいから?」

「いい、きもちいいっ」


ずっ ずっ と抽挿され、のペニスが ぴくぴくと震える。


「どういう風に、気持ちいいのさ」

「や…んっ!」

「答えなよ」

「…お、おしっこ…してる、みたいで…」

「で?」

「だ…だし…続け、てるみたいで…あっ」


気持ちいい、と 縋るように喘ぐの目には、もはや快楽を与えてくれる

エンヴィーに、それを強請る色しか浮かんではいなかった。

壊され、服従させられて、落とされていく


彼は もう二度とエドワードに会いに行くことは出来ないだろうと

エンヴィーは嘲う。

手に入ったという確信。


もっと、もっと壊して、快楽に捕らえて、閉じ込めて犯し続けたい。

鋼の錬金術師から取り上げた、美しい この人形に対する執着は、

むしろエンヴィー自身が逆に捕らえられてしまっているのではないか

という恐ろしささえ感る。


笑みを深くした彼は、の後孔に潤滑油を継ぎ足し、グロテスクな

形をした玩具を、そこへ押し当てた。

男性器の形を模した、けれど いやらしい突起に表面を覆われたそれは、

の手首ほどの太さがあった。


「ひ…ぃあ…っ」


メリ、と音がして、の後孔が悲鳴を上げる。

潤滑油のおかげで裂けはしなかったが、入り口の襞は すべて のびきり、

太いものを受け入れていく。

痛みも異物感も酷く、は苦しげに呻いた。


「っぐ…ぅ…ぁ…」


こうなってさえ、エンヴィーの身体に性的な変化はない。

この嗜虐は、確かに快感ではあれど、エンヴィーにとって性的な意味は

持ち得なかった。あるのはただ、執着のみ。


「ああ、痛い?」


苦痛に顔を歪めるを見下ろし、問う声は嘲いを含み、

その手は止まることなくを犯す玩具を押し込み続ける。


「おちびさんのは、こんなに大きくないか」


くすくすと嘲いながら、押し込んだ玩具が、の前立腺に当たるように

ぐっと方向を変え、エンヴィーは にたりと笑う。


「あんたはもう、オレのものだよ」

「ひぁ…っっぅ」

「オレの、オモチャだ」


ぐりぐりと前立腺を抉られ、は絶頂する。射精を必要としないそれは、

立て続けにを襲い、酷いほどの快感に自我の壊れた その身体は

木偶のように為されるがまま いやらしく乱れる。





ぐい、と 止めのように一つ大きく前立腺を突き上げて、

同時に囁かれた名前は、まるで呪詛のようにを絡め取る。


ひときわきつい絶頂に、見開いた目に、映った 男。

彼の、名前は……


「エン…ヴィー……」


その口から零れた、甘く濡れた 名前。

その瞬間、エンヴィーは、勝ち誇ったような 笑みを浮かべた。








  ※   ※   ※








「…っかしーなぁ…」

「どうしたの?兄さん」


との逢瀬から数日後の夜。

公衆電話の前で、受話器を手に エドが首を傾げている。


が電話に出ねぇんだよ」

「出かけてるんじゃない?」

「昨日も掛けたんだぞ?」

「兄さんの間が悪いんじゃない?」

「いつも夜ならいるのになー」


連日連夜、出かけるような人間ではないはずなのにと

つぶやくエドは知らない。


「また後で掛けるか」

「あんまり夜遅くはダメだよ?迷惑だから」

「わーってるよ」


愛しい彼との再会が、二度とは叶わぬことを。








  ※   ※   ※








「最近、お気に入りの玩具がいるそうじゃない?」

「んあ?なんだ、ラストか」


のいる部屋がある場所からは少し離れた街。

声をかけられて くるりと振り返ったエンヴィーは、呆れたような顔をして

立つラストに にたりと笑って見せた。


「可愛いよ?おちんちんに指入れたげると悦んで啼くの」

「どんな遊び方してるのよ……じゃなくて」

「何?」

「あんまり深入りしないでちょうだいね」

「わかってるよ」


わかってるさ、と エンヴィーは嘲う。余計な心配をするラストを。

自分の思う通りに壊れたを。そして、ラストの心配が、

杞憂たり得ないと自覚してしまっている自分自身を。

エンヴィーは、嘲った。








  ※   ※   ※








ギ、と音を立て、ドアが開く。

ベッドの上に身を起こしたは、入ってきた人物を認めて、

ふわりと微笑んだ。

光を宿さぬ瞳で、彼を見つめながら。


「あ…ぅ……」


シーツを巻きつけただけの裸の身体は、ところどころに紅い鬱血を

艶かしく残している。

その腕が、すっと持ち上げられ、彼を呼んだ。


「ん?何、どうしたの」

「あ…」


きゅ、と の手が、近付いた彼の その長い髪をつかむ。


「また、食ってないの」


ベッドサイドの小さなテーブルに載せられた料理は既に冷めていて、

しかし一切手をつけられた様子はなかった。


「食いなよ、死なれても困るし」


いや、いっそ死んでくれた方が、自分も解放されるのかもしれない。

そう考えても、やはり 今はまだ、この綺麗な玩具を手放す気には

どうしても、なれなくて。


「ほら、口開けて」

「ん…」


硬くなってしまったパンを小さくちぎり、開けさせたの口に放り込む。

咀嚼して飲み込むのを見届け、また口を開けさせる。

従順に、は 口を開ける。

何の感情も見せずに、ただ 暗い微笑を浮かべて。


「エン…ヴィー」

「ん?」

「エンヴィー」


こうして が彼を呼ぶのは、


「何?」

「エンヴィー」


セックスがしたい時の、合図。


「どうして欲しいのさ」

「お…ちんちんに、ゆび、いれて…?」

「好きだね」

「ん…すき…」


が口にするのは、快感を求める言葉だけ。

悦楽を強請り、自ら堕ちるための言葉だけだ。


「あぁ…あー…っっんっ…エン…ヴィー…」


望む通りに与えられ、は 暗い笑みの中に快感と、

あえかな光を浮かべる。

乱れる肢体は妖艶にくねり、更なる快感を要求する。


逃げられないのは どちらか。

捕らえられたのは、果たして、どちらであったか。


果ての無いような悦楽に、艶美な快感に、満たされた この部屋で、

捕らえられたのは……。



月の冴え冴えと光る夜、どこか遠くで、電話の音が、

受話するものを求めて、鳴り続けていた。















〜End〜





あとがき

愛なしエロ。のつもりがエンヴィーが絆され気味。
主人公の自我崩壊のきっかけが温かったかな、
と思わないでもない。うーん。つか崩壊自体温い……。
次はもっと……かな、なんて。

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