ああ、天井が、まわっている。
「んぐ、ぅ、あ……痛っ……」
ガンガンと突き上げられ、顔の両脇で自分の膝が揺れるのがわかる。
彼の抱き方はいつもこう。
優しかったことなんて一度もない。
色町のはずれで身体を売る俺を、たまに買いにくる彼の名前は土方といった。
いつも黒っぽい着物をだらりと着て、ふらっと店に現れる彼が何者なのか、
俺は知らない。
最初に、彼を知らないと言ったら驚かれた。
テレビは見ないのかと訊かれたから、ここにはテレビはないと答えた。
有名なのかと訊いたら、そうではないと返され、では何なのかと問う前に
押し倒され、無駄口は打ち切られた。
とっくに慣れた身体は多少の無茶に簡単に壊れることはないが、
痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。
身体を二つ折りにされたような状態で揺すぶられては、上手く息を吸うことも
叶わず、苦しさに涙が浮かぶ。
涙にぼやけた天井が、揺すぶられる動きに合わせてぐらぐらと揺れる。
呼吸が苦しいせいで、さらにそれがまわって見えて。
「」
不意に名前を呼ばれ、気付けば土方の動きが止まっていた。
「どうか、なさったんですか? 土方さん」
「……しいか?」
「え?」
聞こえなかったと問い返せば、少し苦い顔をして、土方は言い直す。
「俺に、抱かれるのは、苦しいか?」
唐突に何を、と思ったが、その目があまりにも真剣で、苦くて、
茶化して流せる雰囲気ではなかった。
「いいえ」
笑って、答える。
苦しくないと言えば、それは決して真実ではないが。
この言葉もまた嘘ではない。
「俺には、貴方がそういう顔をなさっていることの方が苦しいですよ」
そう。そうなのだ。
いつの間にか俺は彼に惹かれ、身売りに相応しからぬ感情を
抱くようになっていた。
決して、口にすることはできないけれども。
「そうか」
「そうです」
土方の確認に、笑顔を崩さぬまま答えれば、彼は一瞬泣きそうな顔をして
それから、ふっと笑った。
そして、その日、初めて俺は、彼の優しい抱き方を知った。
突然何故、と、土方に問うこともできず、されるがまま慣れない愛撫に
翻弄され、声を上げて……。
彼の肩越しに見る、この天井が揺れないことが、心地良くて同時に怖い。
(くせに、なりそうだ……)
甘い律動に身を任せ、ひどく不安定な気持ちで、俺はまわらない天井を
じっと見上げていた。
〜End〜
あとがき
また身売りモノかとつっこまれそうですが(笑。
そしてまた1回しか名前呼ばれてませんが(爆。
楽しんでいただけましたら幸いです。
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