68.所詮ひとり





「まだ、時間はいいの?」

「ああ、そろそろ行かねぇと……」


でも、ふとももが気持ちいいからもう少し、と、裸のまま膝枕をする

俺の腰に擦り寄る彼は、たしかまだ10代の少年。


「こーら、いたずらしない」


裸のままだから、もちろん俺の自身も隠れてはいないわけで、

そこに顔を埋められてしまえば、いたずらされ放題だ。


「んー、だって……」


のこれは萎えてても美味しいから、なんて、つらりとそんなセリフを

投げつけられ、瞬時真っ赤になってしまった。

遊郭に入り数年が経つ俺だというのに、何故か彼の発言にだけは

いちいち過敏な反応をしてしまう。


「あ……んっ! 総悟さん!!」

「いいから いいから」


店では客を苗字に「さん」付けで呼ぶのが普通だが、

彼がそれ嫌がったので、名前の方を読んでいる。

本当は「さん」付けも嫌がられたけれど、こればかりは譲れない。

けじめをなくせば辛くなるのは自分だと、この20数年のうちに知ったから。


完全に反応してしまった俺の自身を、てろてろと舌でいたずらしながら、

彼は安心しきったような顔を見せる。

まるで、子どものように。


「んんっ、あ……だめ、出ちゃう、よ……」


訴えても無駄で、更にきつく吸いつかれ、正座をしたままの脚が

びくびくと痙攣して痛い。


「総悟……さん、も、離し……てっ」


言葉を哀願に変えても、やはりだめで。

結局そのまま彼の口に精を吐き出してしまった。


「あぁっ……ん」

「ん。美味しかった。ごちそうさま」


のそりと身を起こしながら、彼はにやりと笑って言った。


「もう……総悟さんてば……」

「おっと、そろそろ本当に行かないといけねぇや」


立ち上がり、身づくろいをすれば、彼はもうすっかり真選組の

沖田総悟その人で。


「今日も、町の巡回?」

「ああ、今日は土方さんとだ」

「そっか……気をつけて」

「おう」


また来るからと言い残し、彼は部屋を出て行った。


「さて、と……俺も身づくろいしないと……」


身体中が彼との交合の名残で、べとべとしている。

取り敢えず、昨夜脱ぎ散らしたままの襦袢を拾い、ばさりと羽織った。


ふと、南向きの窓から外を見やれば、

丁度彼が外門をくぐって出て行くところで。


「総悟……」


感傷に、つい彼の名前を呟いて、はっと気付いた時にはもう遅い。


「呼び捨てちゃった……」


けじめけじめと自分に言い聞かせたのは、とうの昔に彼に惹かれている

自分を誤魔化したかったからだ。


俺は、これからも彼以外の男を相手にしなくてはならない。

彼は……彼には真選組という居場所があって、

彼を大切にしてくれる人がいる。


「ばか……だなぁ」


たった数度、身体を交えただけの彼に、他の客とどう違うのかさえ

わからないのに、惹かれ惹かれて。


「ほんとに、しようのない……」


つう、と、頬を伝うのは、ぬるく尾を引く一筋の。

叶わぬことと、自覚したばかりの心を消し去るための、涙。


借金のかたに身を売る自分は、所詮ひとりで生きていくしかないのだと、

わかっていたはずなのに。


与えられた熱の余韻をのみ抱きしめて。


涙を拭えば、なかったことにできるから、今はもう少しだけ、泣いていよう。

俺はそうやって生きてきた。

だから、大丈夫。

大丈夫。











〜End〜





あとがき
微エロで収まった!と喜んだものの、その後がまとまらず。
あー……お題がお題だったので、切なく終わらせたかった。
でも微妙に失敗してるのは……スランプだからってことで
許して下さい(言い訳上等/凹)

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