夏の日




「うぁーづーいぃぃ」


だるぁりと文机になついて、今夏の暑さに文句をたれれば、


「うるせえ黙れあつくるしい」


上司にぎらっとした目でにらまれた。


「だああぁぁっでえぇぇあぁぁづぅぅぅいぃぃぁぁ」


でもめげない。

暑いのは暑い。

だからめげずに文句を言う。

わけわかんないだろう?

俺だってわけかわってねぇ。

それっくらい暑い。

暑いのは苦手だ。


「ああああもう! 山崎ィ! こいつに水ぶっかけとけ!!」

「いやあぁぁん。土方さんてばきっちくぅ」

「山崎! やっぱ熱湯にしとけ」

「あああぁぁごめんなさいごめんなさい水がいいな僕お水がいい」


もう言ってることわけわかんねえ。

暑くて頭なんかまわってねえ。

ああ、あつい。

あついあついあついあついあついあつい。




「なんれすか」

「うるせえ」

「あれ。声に出てました?」

「あんまりうるせえと無理やり黙らすからな」


え、無理やりってなに?

なにされちゃうの俺。

いやあん土方さんってばこわーい。




「はい?」

「どうやら無理やり口を塞がれたいみてえだな?」

「あれ?」


どうやらまた口に出ていたらしい。

無意識だよ俺。

暑さっておそろしい。


「って、なんでこっち来るんですか土方さん」

「あ? 黙らすって言っただろうがよ」

「いや、いらないです、なくても黙ります」

「遠慮すんな」

「する!」

「させねえ」


逃げようとしたら、足首を掴んで引き倒された。

顔から畳につっこんだんだけど。

いたいんだけど。

つうか。

え。

なにこれどういう状態?


「ひ、ひじかた、さん?」


俺の真上に土方さんの顔。

つうことはなにか?

俺、土方さんの下にいんのか?


「え、ちょっ、まっ……」


待ってはもらえなかった。

とっさに目を閉じた。

閉じたがわかる。

ふさがれたのは口。

塞いでいるのは……


「んんぅ、うーっ」


土方さんの、くち。

なんでどうしてどうなってこうなった。

ちょっとまて。

ぬる、って。

舌か。

舌なのか。


「ん、んぐ、ぅうんっ」


目を開けてみれば、目の前に顔。

土方さんの顔。

うっかり見とれてしまっていたら。

手が。

土方さんの手が。


「んぅーっ?!」


ちょちょちょちょちょっ!

どこさわってんだ!!

もがいてもはずれない拘束と格闘すること数分。


「昼間っから何やってんでィこのセクハラオヤヂ」


冷たい声と。

冷たい水が。

思いきりよく降ってきた。


「ぷぁっ」


解放されたけど、ぐしょぬれだなぁ。

あ、でもちょっと涼しいかも。

とか思っていると、俺の上から土方さんが退いた。


「てめぇ、なにしやがんだ総悟!!」

「山崎からのプレゼントでさぁ」


怒鳴りつけたときには、沖田さんはもういなかった。

声だけが聞こえる。

すばやいひとだ。




「…………」



「はい」

「次はこんなんじゃ済まねえからな」

「……はい?」

「俺の理性に喧嘩売るなら、覚悟しとけっつってんだ」


それはなにか。

これ以上ってことか。

……俺ってもしかして。


「ね、狙われてる、んですかね?」

「あ?」

「いえ、なんでもない、です」

「あたってるよ」

「は?」

「狙ってんだよ」


にやりと、笑った。

だから。

次は。

逃がさねえよ?

そんな声が聞こえた気がした。

暑いからかな。

暑いからだな。


「あつ……」

「続きしてえのか?」

「いやいやいやいや」

「じゃあさっさと着替えてこい。んで仕事しろ」

「はぁい」


言いながら自分も着替えに立つ土方さんを見送る。

ああ、俺も立たなきゃ。

でもなあ。

立てないんだなあ。

腰が。

抜けた。


「狙ってんだってさ」


狙われてんだってさ。

俺が。

土方さんに。

確認したとたん、くらっときた。

温度が数度、上がった気がした。


「……あつい」


顔が、熱かった。

あついのは、苦手だ。








end