「あつい」
呟く。
聞き咎められないように。
小さくつぶやく。
「あっつ……い、なぁ……」
さけびたいほど暑い。
でもがまん。
さけべない理由は。
「」
「……はい」
頭上に降ってくる声のせい。
目を閉じててもわかる。
このにくたらしい上司のせい。
「なんか言ったか?」
「いえ。なにも」
縁側。
休憩。
だらりと寝そべる俺のとなりに
なんで腰掛けるんだこの人は。
俺がうだうだするのがうざいなら
離れて座れってんだよコノヤロー。
「土方さん」
「あ?」
「なんでここにいるんですか」
「いちゃ悪いか?」
「……いえ。べつに」
顔も見ずに答える。
悪い。
悪いよ。
俺に安息をくれ。
「」
「なんですか」
「ほれ」
「……?」
差し出されたもの。
器。
ガラスの。
中身は。
「あ。スイだ」
かき氷。
しかもスイ。
「好きだろ」
「……大好きです」
俺の答えに満足したように
土方さんが笑う。
「ほれ、起きて食え」
「あ、ありがとう、ございます」
「食ったら休憩終わりな」
「…………」
「おいこら返事は?」
「はい」
起きあがると、器を渡される。
冷たい。
きもちいい。
「」
「はい?」
呼ばれて顔をあげたら
「んっ」
かぷりと口を食われた。
「なっ……」
「あつい、っつったからな、さっき」
「……いってません」
「んん?」
「……いいました」
言ったけど、騒いじゃいない。
理不尽。
どうやらかなり不服が顔に出たらしい。
「なんだ? もっとしっかり塞いでほしいか?」
「いやいやいやいや」
「じゃあ、さっさと食って仕事に戻れ」
「……はぁい」
この上司は言った。
俺を狙っているのだと。
俺のなにを狙ってるのかって
そりゃまあ唇……
にとどまるわけもなく。
危機なのだ。
貞操の。
「どうしろっつうのよ」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ、なにも」
しゃりしゃりと氷をかきまぜ
口に運ぶ。
甘い。
うまい。
「」
「はい」
「俺は先に仕事に戻るが」
立ち上がりつつ土方さんが言う。
「あと5分で食い終えて来なかったら」
にやり、と笑う。
どうなるかわかってるよな?
そんな声が聞こえた気がした。
暑いからかな。
暑いからだな。
「……あつ……」
「なんだ? 今襲ってほしいか?」
「いらないです」
「じゃあさっさと食え。んで仕事しろ」
「はぁい」
言いながら仕事部屋へと引っこんでいく土方さんを見送る。
ああ、なんだかとっても。
「めんどくさいのに好かれたなぁ」
しゃくしゃくと、氷をまぜる。
甘い、甘いスイ。
「……あまい」
うまい。
ああ、また顔が熱くなってきた。
だからさ。
あついのは、苦手なんだってば。
end