「またマヨネーズですか、土方さん」
「あ?」
不機嫌な声に、とぼけた声が答えた。
「ったく、コレステ値上がりますよ?」
「平気だよ」
「何を根拠に、そんな戯言ほざくんですか」
「戯言ってお前……」
真選組の鬼副長に向かって、ずけずけと言い放つのは、 。
かぶき町のはずれに住む、あめ細工職人。
16で見習いに入り、数年を経た今、一人前として認められて、
菓子の仕事で生計を立てている青年だ。
「というか何でうちに来てメシ食ってんですか」
「いーじゃねぇか別に」
「や、よくないです。特にマヨネーズが」
言いながらは、まだ料理にかけられてはいないマヨネーズを
土方の手から取り上げた。
土方は時折、というか頻繁にの家を訪れては食事をして帰っていく。
今日のように昼の時間に来ることもあれば、夕方来てそのまま泊まって
いくことも少なくない。
「何でだよ。 いいだろ。 嫁んとこにメシ食いに帰ってんだ」
「誰が嫁ですか」
「あ? お前は俺の嫁だろーが」
「身に覚えがないなぁ」
「はあ? 週に2回じゃ足んねぇってか!?」
「何の話をしてんですか昼間から。このオヤジ」
「オヤジだぁ?! 歳なんて2つか3つしか違わねぇだろコラ!」
そんなやり取りの間、土方はの手からマヨを奪い返そうと手を伸ばし、
は取られまいと腕をかわしていた。
「つかマヨ返せ」
「いやです」
「いや、じゃなくてよ」
「いやです」
「返さねぇと襲うぞ」
「昼間っから何考えてんですか。 この助平」
「すけっ……お前なぁ!!」
「はい何ですか」
と、まあそんな具合に、大体の場合、の優勢に会話は繋がって
いくのだが、土方とて負けっぱなしというわけではない。
たまには、ちょっとばかり優位を取れてしまうこともある。
「よし、わかった」
「何がですか」
「今日はマヨは諦める」
「え……」
すっぱり言い切った土方に、が虚を突かれたようにぽかんとした
顔を見せる。
「そん代わり、だ」
じっと土方の目がの目を覗き込むように捕らえた。
「名前を呼べ」
「土方さん?」
「違うわ! そうじゃなくてよ。下の名前を呼べっつってんだ」
さらっと苗字を呼ばれて、ずるりと滑りながらも、すかさずツっ込むのは
さすが真選組のツっ込み役、というところか。
「はあ……」
「そしたら今日はマヨを諦める」
「今日は、ね……」
「呼ばねぇんなら、それ1本かけて食う」
さあどうする、と、土方の目が問いかけてくる。
にとったら、折角作った料理なのだから、出来ればマヨはかけずに
食べてほしい、というのが本音だ。本音なのだが。
「どうした? 呼ばねぇのか?」
にやりと笑って問うてくる土方が憎たらしい。
じりじりと、にじり寄られては、マヨネーズのチューブを取られまいと
胸元にぎゅっと抱え込む。
「だっ……て……」
「だって、何だ?」
ずり下がっていけば、壁際まで追い詰められてしまい、土方の両腕が
とん、との顔の、丁度両脇につかれた。
「っ……」
「呼べよ、ほら。十四郎、って」
ずいっと身体を寄せられて、低音を耳に注ぎ込まれ、はだんだんに
羞恥でのっぴきならなくなっていく。
顔があつくて、視線はうろうろと泳いでしまう。
「呼べって、ほら、」
「っ……と、とう……」
観念したが悔しそうに口を開いた。
と、そこへ。 ガラリと。
「ちーす。 土方さーん。 迎えにきましたぜィ」
「っっっ!!」
タイミング、というのは、いつの世にも難しいもので。
「そっ……総悟っっ」
「何でィ土方さん。 昼間っから乳繰り合ってんじゃねぇやィ」
と言いながら沖田の手に握られた刀が翻る。
「どわっっ!何すんだコラ総悟!!」
ずさっと土方が後退りながら刀をかわした。
「いや、職務怠慢でおしおきを、と思いやしてね」
「人のこと言えた義理かてめっ」
何もそこまで命がけでじゃれ合わなくても、とは思うわけなのだが。
「総悟くん、もう少し手加減してやって?」
「おっとサン。 こりゃ失礼しました」
くるりとに向き直る沖田は笑顔だ。
「いいえ。でも家の中で刀は危ないな」
「と言いつつ貴方はちっとも避けてませんねェ」
「だって総悟くん、俺には当てないでしょ」
「まあ、確かに」
にっこりと、にこやかになされる会話は、そのわりに内容が物騒である。
「って、俺を置いて会話してんじゃねぇよ」
「え、だめですかィ?」
「てーか何で総悟は名前呼びなんだよ!」
「え、何のことですか土方さん」
「男の嫉妬は醜いですぜィ?」
「お前らなぁ!!」
爽快に響く怒鳴り声と、軽快に響く笑い声。
「さ、行きますぜ土方さん」
「まて。 俺ァまだ飯食ってねぇ」
言うなり土方は、取り敢えずマヨは諦めて、かつかつと皿を空にし始めた。
「総悟くん、菓子でも食べて行きませんか」
ただ待ってるなんて暇でしょう、とが微笑めば、
「イタダキマス」
すぱっと即答が返る。
「てめ総悟!ちったァ遠慮しろ!」
ふうわり香る菓子の匂いに、ただ甘だるく、過ぎてゆくは日常のひとこま。
〜End〜
あとがき
ノリと勢いで書きました(爆。
ギャグか。ギャグなのか。どうなのよ(訊くなよ/笑)
きっとこの先も勢いで行くんだろうなーって思います。
よろしければ、お付き合い下さい。
ブラウザ閉じて お戻り下さい。