晴れの日は、軒の小陰で休んで。
雨や雪の日は、雨宿り雪宿り。
そして、今日のような曇りの日には……トントン、と扉を叩く音。
「さーん。いますかぃ?」
「どうぞ。開いてるよ」
「おじゃましまーす」
少し寂れた長屋の和室に響く軽やかな音に応えを返せば、
カラリと開いた扉の向こう、少し強い風に髪をぼさぼさにされた彼、
沖田 総悟が立っている。
「入って。今お茶淹れるから」
晴れた日に、軒先に佇んでいたから、何してるのと聞いたら
暑いんで休んでましたと返された。
雨の日に、軒先でぼんやりしていたから、何してるのと聞いたら
雨宿りでさぁと返された(傘を持っていたのにね)
曇りの日に、軒先で座り込んで寝ていたから、お茶でもどうぞと言ったら、
いただきますと返された。
それから毎日、彼はやってきた。
毎日毎日やってきて、一年も過ぎた頃。
好きなんですと、情人になってほしいと、切な目をして乞われ、
同情でなく頷いたのは、の心も傾いていたから。
晴れの日は、軒の小陰で休んで。
雨や雪の日は、雨宿り雪宿り。
そして今日のような曇りの日には、お茶を飲みに来ましたと
扉を叩く、そんな甘い逢瀬の日々。
沖田との毎日。
「お茶菓子買ってきたんで、どーぞ」
「ありがとう。あ、これ……」
「やっぱり、あすこの菓子屋のが一番美味いですよね」
いつも沖田が茶請けの菓子を買ってくるのは、決まってこの菓子屋。
あそこの店主は、きれいなきれいな青年だ。
「総悟は、ずいぶんあの菓子屋を贔屓にしてるんだね」
「美味いですからねぃ」
「まあ……たしかに、おいしいけど……」
沖田の持ってきた菓子を一口食べれば、ほんのりと甘く、
ふわりと紫蘇が香る。
まずいなどとは、嘘でも言えないくらい、おいしい菓子。
「なんでい。さん、やきもちですかい?」
少しばかりむすりとしてしまったに、沖田が小さく
にやりと笑って問う。
「そ、そんなんじゃ……ない……こともない……」
「あれ。素直だ」
そんなにすんなり認められたら、いじめられないじゃないですかと
今度は小さく膨れるから、がついつい笑ってしまえば。
「仕方ねぇ。別の方法でいじめてあげまさぁ」
ふくれたまま、言った沖田が、にじりとの方へ寄ってくる。
「え……ちょ、何? 総悟……!」
戸惑っていたは、逃げ遅れ、あっという間に距離を詰められ
畳に押し倒されてしまった。
「っ……そ……総悟っっ」
きゅ、と袴の上からそこを握られ、まさかまだ日も高いのにと
はパニックに陥る。
「や、まって……待っ……総……っ」
きゅむきゅむと揉まれ、焦り……
けれど、そこが反応して熱を持つ前に、すっと身体が軽くなった。
「え……」
「はいはい。もうしませんよ」
可愛かったんで許してあげまさぁ、と笑って、沖田がの
前髪をかき上げ、額に唇を落とす。
それだけのことなのに、は頬がじわっと熱くなるのを感じた。
「あ。赤くなった」
嬉しそうに言った沖田に、今度はその頬に口づけられ、
羞恥が増していく。
「大丈夫でさぁ。あの人は、土方さんの大事な人です」
「え?」
「あんなののどこがいいんだかと思いますがねぃ」
幸せそうなんで、ちょっとした嫌がらせをしかけている侘びも兼ねて
彼の店で菓子を買うのだと沖田は言った。
「それに……あすこの菓子を食ってるときのさんが」
「僕?」
「いちばん幸せそうな顔するもんで」
「っ……!」
そんなことを言われて、またの頬に血が上る。
これ以上ないと思っていたのに、こんなに血が上ったら、ゆでだこに
なってしまうじゃないかと、何かを誤魔化すようにぼそぼそと言えば、
「ほんとに可愛い人ですねぃ」
相好を崩して沖田が笑う。
さん、と甘く呼ばれ、顔を上げれば、その唇に唇が重なった。
「ん……」
その舌は、どちらも甘い菓子の味がして。
ふわりふわりと幸せが、ただ緩やかに、流れていった。
〜End〜
あとがき
土方さんのことは邪魔するくせに自分もちゃっかり幸せな沖田さん。
ほのぼのでお送り致しました(途中期待した方すみません/笑)
主人公の書き分けが難しいです。
ちょーっと無茶な挑戦しちゃったかなー(笑。
でもがんばります。
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