あけまして ハッピー?





「あけまして おめでとうございます」

「本年も どうぞ よろしくお願いします」


ぺこりぺこりと頭を下げあって、顔を上げれば目の前には

愛しい恋人がいる。


新年1月1日。

昼過ぎにパン工場へ挨拶に行き、次はショクパンマンの家に

挨拶に行って、最後に恋人であるカレーパンマンのところへ来た。

時刻は、もう夕方も いい時間だ。


招き入れられた部屋の中、上着を脱いで壁のフックに掛け、

促されるままソファへと腰を下ろす。


「え、じゃあ、おれのとこ 一番最後?」


あたたかいカフェオレを出してくれながらカレーパンマンが

意外そうな顔で言い、それから少し 拗ねた顔になった。

どうやら一番最初に来ると思っていたらしい。


「あのねぇ……自分の行動 省みてから拗ねてくれる?」

「なんだよ、それ」


言ったら 更にぷぅっと膨れたカレーパンマンに、僕はちょっとだけ

呆れ顔になる。


「ここに一番最初に来たら、他の所に挨拶行けないでしょ」

「なんで」

「なんで、じゃないよ」


まさか、本気で わかっていないのだろうか、この男。


「すーぐ ベッドに連れて行こうとするくせに」


ここに来たら、もう一度出かけるなんてこと、

できなくなるに決まっているから。

きっと今日だって、もう外に出してはもらえないだろう。


「そんなこと ないだろ」

「あるから言ってるの。じゃあ今からパン工場に行く?」

「なんで?」

「ん?さっき行ったら ごはん食べにおいでって誘われたの」


行く?と再度問えば、途端にカレーパンマンが勢いよく抱きついてきた。


「わっ」


ソファの背もたれに押し付けられるようになって、ちょっと息苦しい。


は行きたいのか?」

「ん?」

「おれと、2人じゃ 嫌なのか?」


ほら、やっぱり。こうなるんだ いつも。

これを わざとやっているんじゃなかったら、僕は感動すると思う。

一体どっちなのか よくわからないから、感動も何もないのだけれど。


「はいはい、わかったから どいて」

「わかったって……何が」

「いいよ もう。今夜は泊めてくれるんでしょ?」

「それは もちろんだけど、わかったって、何?」

「なんでもないよ。いいから、ほら どいて」


夕飯の仕度しなきゃ、と言って ぐいっとカレーパンマンを押しのける。


「あ、夕飯なら 俺が作る!」

「え、作るって……おせちじゃないの?」

「いーから、座っててよ」


ふつう正月と言えば おせち料理なんだけど……

一体何を作ってくれると言うのか。

うきうきと台所に向かうカレーパンマンが やけに嬉しそうなので、

取り敢えずは 任せることにした。








  ※   ※   ※








「って、お正月にカレー……?」


30分後、台所から漂ってきた香りに、思わずソファを立ち

カレーパンマンの元へ来てしまった。

だって今日は元日だよ……?


「カレー、嫌いか?」


なんて、僕がカレー大好きなことを知っていて聞いてくる

カレーパンマンは ちょっと小憎たらしい。


「んー……」

「え、悩むの!?」


答えずに唸れば、カレーパンマンは面白いくらいに慌てた反応をくれた。


「ふふ。大丈夫、ちゃんと好きだよ、カレーパンマン」

「え、何、それはカレーが?それとも おれがっ?」

「さあ、どっちでしょう」


くつくつと笑いながら、カレーをまぜるカレーパンマンに、

そっと背中から抱きつく。


?え、ちょっと、どうかした?」


振り返ろうとするカレーパンマンを ぎゅうっと腕に力を入れることで制して、

その背中に ぴたりと額を押し当てたまま、ほっと息を吐いた。

どうしてか、カレーパンマンに くっついていると、ほっとするんだ。

だから、ぎゅっと抱きついて、強く抱きしめれば 離せなくなる。


「大好きだよ」


どちらが、とは告げないままに 零した言葉は、やけに甘ったるい

響きでもって、僕の鼓膜を震わせた。

カレーパンマンの耳にも、同じくらいの甘さで届いているだろうか。


期待と不安で、ちらりと覗いた先、カレーパンマンの頬は、ほんのりと

赤く染まっていた。


そのことに少し嬉しくなりながら、カレーパンマンの背に抱きついたまま、

彼が僕の真意に気付いたにしろ、気付いていないにしろ、今年の初エッチは、

ちょっと激しくなりそうだな、なんて、思ってみたりしている僕だった。











〜End〜





あとがき

独占欲の強いカレーパンマン。
主人公を振り回しているようで実は振り回されている
彼はきっと えっちの最中も 主人公に甘やかされて
しまうことでしょう(笑。

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