好きで好きで好きでたまらない子が、
自分にだけは なぜかつれない。
─俺ってば 何かした!?
カレーパンマンは煮詰まっていた。
「あら、カレーパンマン。こんにちは。」
カレーパンマンがパン工場を訪れると
丁度 外にいたバタコさんが、笑顔で声をかけてくる。
「あ、バタコさん…。ちーっス。」
しかし、答えるカレーパンマンの声は重い。
「どうしたの?元気ないわね。」
「んー。、来てる?」
「来てるわよ。」
「ありがと。」
バタコさんの問いに答えることなく、
カレーパンマンは パン工場の中へと入っていった。
「どーしちゃったのかしら…」
少しだけ心配そうなバタコさんの視線が
その背を追っていることにも気付かずに。
※ ※ ※
「こんにちは、ジャムおじさん。」
「ああ、カレーパンマン。こんにちは。」
カレーパンマンがドアをくぐると、
ジャムおじさんがパン生地を捏ねていた。
「くん、奥からカレー粉を持ってきてくれないか。」
工場の奥に向かってジャムおじさんが声をかける。
「あ、はーい。」
答えて ぱたぱたと足音をさせながら、
が カレー粉の入った瓶を抱えてきた。
「これでいいんですよね?」
「ああ。ありがとう。」
「じゃ、僕 アンパンマンへの用事が済んだので行きます。」
「しょくぱんまんの 所かい?気をつけて行くんだよ。」
「はい。じゃ、また。」
戸口で 突っ立っているカレーパンマンに、
通り抜けざまに軽く会釈をして外に出ると、
は ぱたぱたと駆けて行った。
「ジャムおじさん。アンパンマン、中にいるの?」
「ああ、いるよ。」
「じゃ、あいさつしてくる。」
あまりにも素っ気無いの行動に
少しばかりショックを受けながら、
カレーパンマンは 工場の奥へと向かった。
「よぉ、アンパンマン。」
「やぁ、カレーパンマン、いらっしゃい。」
開いていたドアを こつこつと叩きながら言ったカレーパンマンを
振り返るアンパンマンの手には ワインレッドのマフラーがあった。
「お、何それ。いい色じゃん。」
「え?」
カレーパンマンが何気なく そう言うと、
アンパンマンは 驚いたように彼を見つめた。
「あ?何だよ。」
「いや、何でもないよ。」
「そっか?」
何となく引っかかる感じだったが、特に深く追求することもなく
カレーパンマンは 他に気を移した。
「あれ?お前 もしかして マント変えた?」
新しいよな、それ。と 言われたアンパンマンのマントは、
色合いこそ 以前とは変わっていないが、
その生地は新品も同様だった。
「え?あ、うん。」
「お?もしかして 手袋もか?」
「そうだよ。」
目ざとく気付くカレーパンマンに
アンパンマンは 小さく溜め息を吐いた。
「何だよー、いいなー。バタコさんに 作ってもらったのか?」
俺も作ってもらおっかなー、などと言っているカレーパンマンに、
しばし逡巡したような様子を見せたアンパンマンは、
諦めたように溜め息を吐いて 口を開いた。
「だよ。」
「へ?」
「これはから もらったもの。」
マントと手袋と、そして マフラーを指してアンパンマンが言う。
「は?…何だよ それ…」
呆然としたように呟くカレーパンマン。
「や あのさ、自分だけがもらってたんじゃないからって そんな…」
「もらってない。」
「へ?」
「俺…もらってねぇよ、そんなん。」
「え…」
カレーパンマンの言葉に、今度はアンパンマンが呆ける。
どういうことだろう。
が カレーパンマンに あげないということの方がおかしい。
(だって、は…)
「なぁ。」
「ん?」
カレーパンマンの声によって アンパンマンの思考は中断された。
「もしかして、しょくぱんまんも…もらってんのか?」
「それは…」
そうだと 頷いてしまえるものなら、そうしてしまいたい。
「もらってんだな…」
ぼそりと呟いたカレーパンマンの声にアンパンマンは
あちゃー、と 声に出さずに 額に片手を当てた。
「ちょっと、カレーパンマン?」
何故 自分だけ、という思考が ぐるぐると頭の中を巡る。
カレーパンマンの目が、少し尋常じゃない色を灯し始めた。
「何で…」
それから、ぶつぶつと 小さく何事か呟くと、
カレーパンマンは だっと駆け出した。
「ちょっ…カレーパンマン?!」
呼び止める アンパンマンの声も聞かずに。
※ ※ ※
「!! 」
日の傾き始めた帰路。
自宅まで ほんの数十メートルのところで、
は 自分を呼び止める声に 振り返った。
「え…」
その声の主は。
「カレーパンマン…」
怒っているのか 肩で息をして、
ずかずかと に 近寄ってくる。
「何…どうしたの?」
というの問いかけには答えず、
がしっと 両手での両手を取ると カレーパンマンは、
「、好きだ!」
と言い切った。
「へ…?」
その剣幕から、てっきり何か怒らせるようなことをしたのだと
思ったは 間の抜けた声を出した。
「好きなんだよ 。」
「え、あの…」
「は 俺のこと、嫌い?」
「そんなことは…」
しっかと手を握ったまま詰め寄ってくるカレーパンマンに
おどおどと 答える。
すっかり状況から 取り残されている。
「でも、俺のこと 避けてるだろ?」
「それは…」
「嫌いじゃないなら 何で?」
「あの…」
「俺、お前を怒らせるようなことした?」
「そうじゃなくて…」
が答える隙もないくらいに
カレーパンマンは言葉を繋げる。
「やっぱ 俺、に嫌われてるのか?」
「あーもう!」
唐突に、が叫んだ。
握られていた両手も振り払う。
「埒が明かない!ってか人の話を聞け!! 」
言うとは、カレーパンマンの右手を がしっと 掴んで
ずかずかと 歩き出した。
「え…?」
急なことに戸惑うカレーパンマンを
半分引きずるような形で が向かったのは、
そこから数十メートル程の所にある 彼の家だった。
※ ※ ※
「お茶淹れてくるから座ってて。」
「手伝うよ。」
「いいから 座ってろ。」
すぱっと言われて、カレーパンマンは大人しく ソファに身を沈める。
の家に着くなり、やはり つれないと言える態度を取られて
カレーパンマンは 少し落ち込んでいる自分を否めない。
「嫌われてなくても、好かれてもないよなー…」
ぽつりと言って、その言葉の虚しさに
寂しくなってみたりする カレーパンマンである。
「そこ。人の家で 盛大な溜め息吐かないでくれる?」
そんな言葉をかけながら 戻ってきたの手には、
右手に紅茶セットの乗ったトレイと、
左手には 大きな紙袋。
カレーパンマンが座っているソファと
テーブルを挟んで向かい合わせたもう一対のソファに
紙袋を置いて、お茶を出していく。
「取り敢えず言っておくけど、僕 君のこと好きだから。」
「え………ええぇぇぇっっ!?」
あっさりと しかも「取り敢えず」程度の軽さで言われるような
ことなのか、と カレーパンマンの内心は盛大に動揺しつつも
意外と冷静だった。
「で、これなんだけど。」
カレーパンマンの横に立ったが、
ずいっと カレーパンマンに向けて突き出したのは
先程の紙袋。
「何?」
「いいから、中 見て。」
「え、ああ、うん。」
カレーパンマンは ぎこちなく それを受け取ると、
袋の中身を見て、フリーズした。
中に入っていたのは 新しいマントと 手袋、
そして、淡いオレンジ色の マフラーだった。
「これ…」
「アンパンマンたちにも あげたんだけど…」
それは知っている。
それが きっかけで 自分は ここへ来たのだ。
「カレーパンマンにも 普通に あげたかったんだけど…」
そう。自分だけがもらえなくて、嫌われている、と思ったのだ。
「渡せなかったんだ。」
「何で…」
「だって…緊張しちゃって…さ。」
「それって…」
うつむき加減に告げるに カレーパンマンは、
都合のいい期待はするなと 自分に言い聞かせていた。
「ずっと…好きだったから。」
「何…が?」
そのせいで 変な受け答えをしてしまった。
は 呆れた風にカレーパンマンを見た。
「…カレーパンマンが、に決まってない?」
流れ的に。と言うは、呆れたような表情を残しながら
その頬は かすかに赤く、
彼がまだ少し緊張していることを窺わせる。
「…」
感極まったように その名前を呼んで、
カレーパンマンは すくっと立ち上がると、
傍らに立っていたを ぎゅっと抱き締めた。
「もう…最高。、大好きだ。」
「ちょっ…苦しっ!カレーパンマン!! 」
「あ、ごめん。」
「いいよ。僕も 大好きだから。」
の 先程よりも 少し赤みの増した頬に、
カレーパンマンの理性が飛んだ。
「ーっっ」
「ちょっと!! 苦しいってばっっ!! 」
ぎゅうぎゅうと 抱き締められ、
カレーパンマンごと は ソファに倒れ込む。
「可愛い、…」
と 耳元に囁かれ、は 真っ赤になって
覆い被さる カレーパンマンを 睨み上げた。
〜End〜
あとがき
久しく擬人化書いてなくて、感覚忘れてます。
これ 危うく赤マーク付くとこでした(爆。
長くなったんで止めましたけど(笑。
カレーパンマンが へたれてしまったせいで、
激甘にはならず。
次こそは激甘に…って、次はあるのか…?(苦笑。
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