a failure




「……激甘……」


うえぇ、と顔をしかめて、口に含んだものの味を逃がそうと舌を出す。


「え、何? 次元、チョコレート嫌い?」

「嫌いじゃねぇよ、でもな」

「何?」

「これはやりすぎじゃねぇのか」


ばこっと冷蔵庫を開け、次元はペットボトルの水を煽る。


「ちょっと!直接口つけないでって言ってるでしょっ」


開けっ放しの冷蔵庫を少々乱暴に閉めながらが怒れば、


「ああ悪ィ」


ペットボトルのことだか冷蔵庫のことだかよくわからない、

へろりとした謝罪がある。

ちっとも悪いと思ってないねと睨むに、そうでもねぇよと返しながら、

次元は凶悪なほどに甘い固まりを摘み上げた。


「お前これ、何入れた?」

「え?」

「板チョコに、何入れて作った?」

「あれ? 手作りってバレた?」

「お前ねぇ……」


の言葉に、魂が抜けてしまうのではないだろうかと思うほどに

深く溜息を吐いた次元は、


「こんなん店で売ったらクレーム殺到だバカ」


べちりと、しかし痛くはない程度にの頭を叩いた。


「あは。ちょっと愛が重すぎた?」

「愛ってお前これ、病気になるぞこの甘さ」


笑って誤魔化すなと渋い顔で告げれば、はぷっとふくれた。


「愛はいくら重くてもいいけどな、俺の歳を考えてくれ」


世間一般には身体を壊しやすい年代であると、少なからず自覚のある次元は

ふくれたの頬を指先でつつきながら言った。


「……それ、自分で言っててむなしくない?」

「っこの……」


茶化すの首を、がっつりホールドして、ぎりぎりと締め上げる。

もちろん手加減はしているが、は痛いと喚いて暴れた。


「ひど……っ」

「どっちがだ」


解放されて涙目で次元を睨みあげれば、先に言葉の暴力をはたらいたのは

どっちだと、睨み返される。


「はぁい、ごめんなさぁい」

「お前のそれだって、ちっとも謝ってねぇよ」


わざと甘ったれた声を作って抱きつけば、ふっと嘆息して次元が頭を撫でてくる。

それが心地良くて、はくつくつと笑った。


「ごめんね」

「あ?」

「チョコレート。作り方とか、よくわかんなくてさ」


うっかり板チョコをなめらかにするための生クリームに砂糖を入れたのだと

少ししょんぼりしながら白状したに次元は、撫でていた頭を軽く

ぽすぽすと叩いて応えた。


「多量の塩を投入されるよかマシだろ」


砂糖と同量の塩がどれだけの威力を発揮してくれるのか、一度でも失敗したら

もう二度とはやらないだろうというそれにならなくてよかったと、茶化す響きで

けれど慰めるように言われてしまえば、はもう軽口もたたけない。


「……おいしいって、言ってもらいたかったのにな」

「誰だって最初からうまくできやしねぇよ」

「でも……」

「来年は、期待してるからよ」


今度は間違えるなと、の髪を梳く次元の手は優しい。


「あれ?来年も一緒にいてくれるの?」

「ん? 何で俺が別れてやんなきゃなんねぇんだ?」

「……ばか」

「おう。ばかでいい」


ぎゅうっと抱きつけば、同じ力で抱きしめ返される。


「おれ、しあわせだ」

「そりゃよかったな。じゃ、そろそろいいか?」

「え?」

「抱かせろ。3ヶ月ぶりだ」


耳に注ぎ込まれる甘く低い声に、の腰はそれだけで砕けた。


「チョコもいいけどな、俺の一番の好物は、お前だ」

「……知ってるよ、そんなの」

「じゃあ、いいな? 今日は手加減しねぇ」

「ん。好きにして」


もう、好きなように食べ散らかしてくれていいと、は次元の腕に身を委ねる。

どちらからともなく口付ければ、次元の口の中に残っていたチョコレートの甘さが

そのままキスの味になった。

しかしそれもやがて、互いの舌を舐めあううちに2人の唾液に溶けて消え、

ただ甘ったるい酩酊だけが、2人を包んでいくのだった。











〜End〜





あとがき
突発で書き始めたら意図せぬ方向にキャラが動いてくれまして。
主人公、もっと大人な子になるはずだったのに……あれ?
取り敢えず、バレンタインなので甘さだけ、お届けできればいいかなぁ、と。

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