3.熱帯夜





(……あつい)


湿気がからみついて、うまく息が吸えない。

夏というのはこれだから、と思うが、だったら今していることをやめればいいのだと、

どこか遠くで理性が呟くのを聞き流していれば世話はない。


「ん……ふ、あ」


真夏の夜。くそ暑いのにエアコンはない。

古い扇風機が時折、ぶん、と小さく音を立てながら回ってはいるものの、窓を閉め切って

いるので、気休め程度にしかならない。

窓をがっちりと閉めているのは、まさか開け放ってはできないことをしているからで。


(いき、できない)


2人で密着して激しく動いていれば、部屋の中の不快指数は上がって当然である。


「じ、げん……っ! も、や……くるし、い」


はふはふと息をつきながら、べったりとくっついて意地悪な動きをする男に訴える。


敵に追われ、アジトを抜け出して、急遽手配した壁の薄いボロアパートの一室。

こんな時に何やってんだと思うが、生命の危機に瀕すると、やりたくなるってのはあながち

嘘ではないらしい。まあ、やったところで男同士なわけだから、結ぶ実はないわけで、不毛と

言われればそれまでだが、そこはやはり気分の問題というか。

ようは状況に欲情しただけなのだが。


枕の下に2丁の銃。意識は相手と、それから外へ。

闖入されることを想定した状況での集中しきれないセックスは通常あり得ない熱をくれる。


(ああ、ばかなんじゃなかろうか)


自分も、次元も。

くそ暑いのに窓を閉め切って、すっぱだかで。

汗と体液にべとべとの身体をすり合わせ、けれどイく瞬間えさえ、きっと相手に集中しきる

ことのないセックスをしている。


これなら、服を着たまま、あわただしい感じにヤった方が、数倍涼しいだろうなと、

ぼんやりとする頭で考える。


(あー、でも……踏み込まれた時、下だけ裸ってまぬけか)


いや、まっぱでぐちゃぐちゃの身体で銃を構えても格好なんかつかないのは重々承知しているが。


「あ? 何笑ってんだ?」


唐突に降ってきた次元の声に、は自分が笑っていることに気づいた。

うっかり想像しておもしろかったんだからしょうがない。


「ったく、ちったぁ集中しろよ」

「やだなぁ、自分だって、集中なんか、してないくせに」


一フレーズごとに突き上げられて、声が途切れる。


「お前は、気ぃ、散らしすぎ、なんだよっ」

「あ、んっ、ちょ……次元! きつ、いって! ぅあぁっん」


突きながらしゃべるな。つか、しゃべらせるな。

そう訴えようとしたら、いきなり動きを変えられて、前立腺から奥までを抉るように突かれた。


(ちょっとまて! 声! 声がおさえられない!!)


外に聞こえたらどうしてくれるんだと、が睨みつければ、にやりと笑った次元は同じ動きで

をせめ始める。


「ちょ、こらぁ、ばか ぼけ あほんだら、っあぁぁっ」

「おま……っ、そこは、さっきみてぇに可愛く喘ぐとこだろうよ」

「うる、うるさい、よっ、も……だまって、さっさとイけっ、つぅの!」


暑いし 苦しいし 感じすぎるし、なんか外で、がこ、とか聞こえた。

イってる場合でもイかせてる場合でもないのかもしれないが、そこはそれ、相手が次元なので

どうとでもなる気がする。

というか、外に殺気がない。がこ、とか聞こえるあたりで、もういろいろ何か違う気がする。


「って、だから! 集中しろってんだろうが。なかすぞ」


言うなり次元は、の足首を持って大きく広げると、自分は身を起して膝立ちになる。


(あ、すずしい)


密着していた身体が離れ、濡れた身体が空気にさらされる。

息苦しさは軽減された。が、しかし。


「なんっ、なんて、かっこ、させん……!」


全部丸見えのあまりにもあんまりな格好に、は抗議の声を上げた。


「うるせえ、だまれ。イかせろ」

「なに、その、横暴!」

「お前が、イけっ、つったん、だろうが」

「こんな、こと、してっ! 腰、いため、ても、しらな……あ、んっ」

「だまん、ねぇと、このまま、ハメ撮り、するぞ、コラ」

「カ、メラ、なんか、ない、しっ」

「そこに、ケータイ、あんだろ」

「俺のじゃん!」


がつがつと、腰を動かしながらの怒鳴り合いに、息のあがりと発汗量が尋常じゃないことに

なってしまっている。


(イく前に、ぶったおれるんじゃ、ないかなぁ、これ)


実際、の意識は、そろそろ飛びそうだ。


「じ、げんっ、外……はっ?」

「いねぇよ、なんも。キケンなもんは。いーからほら、イけって」

「ん、んんっ、ぅ、あぁ、っっ」


ぐちゃぐちゃと音を立ててせめられ、腰の奥がびりびりと甘くしびれていく感覚に、切ないような

痛みに近いうずきが走る。


「あ、も……イ……くっ」


言うが早いか、白濁がの腹に飛び散り、次元を受け入れた穴が、ぎゅうっと収縮する。


「っ……」


きつくなったそこを、もう2度突いて、次元もの中に自身を解放した。

ねっとりとした空気と、甘く重い疲労感が身体を包んでいくこの時間が、はとても好きだ。

そして次元は、その甘さに包まれたを見るのが好きだった。


が。

がこっ、とまた聞こえた外からの音に、を包んでいた甘さは立ち消えてしまう。

動き出そうとしたをけれど次元は抱きしめて離さず、気をそらすなというように口づけてくる。


「ちょっと、次元……なぁ、外……」

「いいから、放っとけ」

「なんで、だって……んんっ」


いくらキスでごまかそうとしても、はすっかり正気付いてしまっている。

外が気になってしょうがないのだ。


「ああもう、わーったよ。待ってろ」


諦めたような溜息をつき、下着とスラックスをはくと、次元は銃も持たず玄関ドアへと近づく。

は慌てて落ちている服を身につける。べとべとで気持ち悪いが仕方がない。


、窓開けとけ。籠ってる」

「え? あ、うん」


言われて窓を開けるとほぼ同時に、次元もドアを開けた。


「よぉ。悪いな邪魔したか?」


外にいたのは、赤いジャケットの男。


「ルパン……!」

「だから放っとけっつっただろう」

「あ、ひでぇな次元ちゃん。気ィつかってやったのに」

「離れてろよ、だったら」

「いやぁ、の声が色っぽくて……ぶっ」


言いかけたルパンの顔に枕がヒットした。

投げたのはもちろんで。

しかし懲りないルパンは


「こんだけ壁薄いんだから、窓開けてても同じだったろうよ」


などと、さらりとのたまった。


「そっ……なっ……」


二の句が継げないに、にやっと笑ったルパンが何かを放り投げる。

受け取ってみればそれは、鈍い銀色の鍵だった。


「次んとこ、そこな。5日後にはいてくれ」


小さなメモを次元に渡し、ルパンは、じゃーなと言って立ち去った。


「ああもう……」


さっきから外で、がこがこやっていたのはルパンだったわけで、次元はわかっていたわけで、


(そりゃ殺気もないわけだ)


は一気に脱力した。


「さてと、そんじゃまあ」

「え、なに? もう行く?」


ドアを閉めて戻ってきた次元に手を取られ、もう動くのかとが目を瞬かせれば、


「あ? 何言ってんだ?」

「は? 何って……」

「いいから脱げ。全部」

「はぁ?」


次元は、なにかとんでもないことを言い出す直前の、にやーっとした企み笑顔を見せた。


「な、なん、で……せっかく、着たんだけど……」

「身体も拭かずにだろ? それに、尻ん中も、やべえんじゃねえのか?」


言われた言葉に、ぎくりとして逃げようとするも、先ほど取られた手が、いつのまにか

がっちりと握られている。


「窓っ! 窓開いてるっ」

「今さらだろ。きれいにするだけだし、気になるなら声抑えてりゃいいだけだ」

「っ……ばかーっっ」


叫びつつ、しかし結局抗いきれないは、ぺろりと服を剥かれ、必死で声を殺すことになる。

その横で、ぶん、と古い扇風機が、我関せずとばかりに、ぬるい空気をかき混ぜていた。













〜End〜





あとがき
こんなに色気のないエロは本番ヤってても微エロにカテゴライズしていいはずだ。とか、
よくわからんことを考えながら、気づいたら書き上がってた感じです。うん。半端。
しかし、まだ快適温度のこの季節に(爽やかに5月だね)こんなお題にチャレンジする
自分がよくわかりません。
夏の湿気のねっとりした感じが出ていればいいなぁ。
臨場感が欲しい方は、夏にもう一回読んでみてやってくださいまし。
ねっとりしててうざいと思って頂けたら、ちょっと嬉しいかも(笑。

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