唐突にやってきた次元は、しばらく泊めろと言って、の部屋へと
上がり込むと、それ以外は何を言うこともなく、リビングのソファを占領し、
ふて寝を決め込んだ。
「……一体何がどうしたわけよ……」
次元の一連の動作を、ただ唖然と見守るしかなかったは、しかし
そう呟くだけ呟いて、答えを待たずにリビングを離れた。
「ルパンと喧嘩でもしたかな」
あの一味は、団結すればすごいくせに、よく仲間割れをする。
いい加減に譲り合うことを覚えろと言いたいが、ルパンも次元も五ェ門も
職人気質というか何というか、自分がこうと決めたことは、それが間違い
だとわかるまでやめないのである。
次元のあの様子から、今回はどうやらルパンが突っ走っているようだと
あたりをつけ、は、取り敢えず次元の気持ちが治まるまで放って
おこうと思った……のだが。
「次元……いつまでいるわけ?」
次元が来てから、2週間が経とうとしていた。
その間、1度もルパンや五ェ門から連絡はなく、気になったは
不二子に事情を聞こうとしたのだが、彼女もまた何らかの仕事中らしく
携帯も繋がらなかった。
「じーげーん! 仕事は?」
今回の仕事に関して次元は何を問うても答えない。
そんなに腹の立つことがあったのなら、いっそぶち撒けてくれれば
いいのにと思うが、しかしその憂さ晴らしやら八つ当たりなどは
すべて身体の方へとぶつけられていた。
といっても暴力ではない。いや、ある意味暴力的とも言えようか。
次元が来たその日から、毎夜毎夜、は情人の下で喘がされて
いるのだった。
逃げようとして失敗し、押し倒されて組み敷かれる。
そんなことがもう2週間弱、理由も語られず繰り返されているのだから
たまったものではない。
そして、今夜もまた。
「ちょっ、次元! やっ……」
少しでも話を聞こうと近寄っていた腕を取られ、ソファへと押し倒される。
「毎日毎日、もういい加減にし……んんっ」
言いかけた言葉は、次元の唇に塞がれ、押し返そうともがいた手は
両手とも指を絡めて押さえつけられた。
触れ方は優しいくせに、キスは口答えを咎めるように荒く、
口腔に突っ込まれた舌は、強く口内を擦ってを呻かせる。
「んぐ、ふ……ぁ、もっ……やだっ」
「何が、いやだって?」
の脚の間に置かれていた次元の膝が、ぐっと動かされ、
の脚の付け根を押す。そして、にやりと。
「キスだけで、勃ってるくせに」
「っ……ばかっ」
次元に触れられるだけで嬉しくなってしまうにとって、それは
仕方のないことであるというのに、あんなキスをしておいて
この言い草は酷い。
「も、やだ……つかれたっ……帰ればかぁっ」
2週間近くもこんな風に嬲られ続け、身体はさておき、心の方が
悲鳴を上げた。
こんな八つ当たりの混じりの抱き方、許せたのは精々最初の3日だ。
2週間重ねた我慢が決壊し、とうとう泣いてしまいながら、しかし
嫌いだ別れるなどとは言わないあたり、すでに絆されてはいるのだが。
「お、い……泣くなよ……」
いきなり泣き出したに焦って、次元は、ぱっと両手を離し
身を起こした。
それでもぐずぐずと泣き止まぬを見下ろして、次元は自分が
いかにこの年下の青年に甘えきってしまっていたかを知る。
いや、そもそも、彼が年下であるということすら、自分はすっかり
忘れてしまっていたのではないか。
「ああ……くそっ」
苛立ったように吐き出された次元の言葉に、の肩がびくりと揺れる。
それを、セックスを拒否したことへの苛立ちと思い込み、はさらに
じわりと目に涙を溜めた。
「あー、違えよ。お前が悪いんじゃなくてな……」
いつも気丈なこの青年の、ここまでぐずぐずになった泣き顔を知らない
次元は、けれど、その甘ったれたような姿を煩わしいと感じることは
微塵もなく、とてもとても愛しいものだと認識した。
「……悪かったよ」
バツが悪そうに呟いて、次元はを引き起こすと、その胸に抱き込み
自分の膝にのせてソファに座りなおした。
「泣くな、」
さらさらとした黒髪を梳いて、膝の上であやすように揺する。
まるで、小さな子どもをあやすようにそうされて、は
カっと耳まで赤くなった。
「や、め……離っ」
「さねぇよ。大人しくしてろ」
じたばたともがき、胸を押して突き放そうとするを、次元は
腰と頭をしっかり抱えて、さらにきつく抱き込む。
「なに、も……さいてーっ」
「最低でけっこうだ。暴れんな。泣き止め」
「命令すんっ……すんな……っ」
「するよ。しねぇと困ることになる……お前がな」
よくわからないことを言われて、はむずがるように首を振り
次元の手を退けて、彼の顔を見遣った。
「それだよ」
「え?」
「お前のそんな顔、初めてだからな」
抱きつぶしたくなる、と囁いて次元はの頭を視界から外すように
自分の肩口へと押し付けた。
「だから、はやく泣き止め」
「……せよ」
「あ?」
「何があったかくらい、話せ、ばか」
話してくれなきゃ泣き止まない、と、ぐずれば、
「襲っちまうぞ」
と返されたので、
「逃げてやる」
と脅した。
この場合の逃げる、が次元の腕の中から、などという小さな意味では
ないということを、次元は即理解したようで。
「あー……わかったよ」
話さなければ本当に手の届かない場所まで逃げられると悟った次元は
溜息をつきながら、ことの顛末を語った。
曰く、今回の仕事は、ルパンにも五ェ門にも女が絡んでいて、ただでさえ
やりづらかったのに、そのどちらもが騙され、女にブツを持ち逃げされた、
ということらしい。
「あー……それは……うん」
ルパンは根っからのフェミニストで、とくに弱っている女性には甘く、
五ェ門は惚れたといえば、過ぎるほどに本気になる男であるからして、
が女絡みの失敗談を聞いた回数は少なくない。
「でも、いつものことっちゃ、いつものことじゃ……」
もうすっかり涙も止まったが、ちらと顔を上げて問えば。
「だからだよ」
今回はいつもより少しばかり……否、かなりでかい仕事だっただけに、
もういい加減、愛想も尽きたと吐き捨てた次元は、再びの
後頭部を押さえ、自分の肩口に押し付け、視線から逃げた。
「もう戻りたくねぇんだ」
しかし、そう言った次元の、がっちりと頭の後ろにまわっている手が、
わずかに震えたのを感じ、は小さく溜息をついた。
「うそつき」
「あ? 誰が嘘なんか……」
「次元」
名前を呼ぶ声は静かで優しいのに、次元の言葉をきっぱりと遮る
強さを持っていて。
「次元が、ルパンたちに呆れてるのは本当だってわかる」
「ああ」
「でも、『戻りたくない』は、本当じゃない」
次元の肩口から顔を上げ、じっとその目を見据えて、は言葉を紡ぐ。
本当じゃないと言い切られ、何故かと目顔で問う次元に、は
小さく笑って答える。
「自分に素直でいられたら、誰も悩んだりしないさ」
「そりゃあな」
「でも、素直になるべき自分を見つけるのは難しい、だろ?」
ルパンと五ェ門に呆れている次元。彼らの元に戻りたくないという次元。
どちらも本当に次元が思っていること。
「そう、自分で見つけるのは難しいんだけどさ、俺にはわかるよ」
けれど、次元がその後者を心の底から思ってはいないことなど、
傍から見れば丸わかりだ。
だって次元は、いつまでもふて腐れていたから。
「もし、次元が、ルパンたちを見限るつもりなら」
黙って効いている次元の頬に、ぺたりと手をあて、こつりと額をぶつける。
「次元は、さっさと一人で次の仕事をしてるはずだろ」
それをしないってことは、まだルパンたちに未練があるんだろう、と
笑うを、苦い顔で、けれど眩しいものを見るような目で、次元は
じっと見つめる。
「さて、じゃあ……その女たちの特徴を聞きましょう」
「あ?」
唐突に、切り替わった話に、次元が首を傾げる。
「最近、似たような話を聞いたからさ」
多分同じ奴らだろうからと、次元から身体を離し、は部屋の隅の
デスクに置いてあるパソコンを立ち上げた。
「情報代はディナーデートでいいよ」
そう言ったが、デートの行き先として告げた店の名前は。
「超高級レストランじゃねーか!」
「だから稼いで来いって言ってんの。ほら早く、女の特徴!」
「……わーったよ」
気付けば年下の恋人に甘やかされているな、と思いながら次元は
パソコンに向かうを、そっと後ろから抱きしめた。
「ありがとよ」
小さく小さく呟かれた言葉に、一瞬目を瞠ったは、けれどすぐに
ふわりと笑い、
「どういたしまして」
自分の前に回された次元の腕に、そっと左手を添えた。
数日後。
ルパン一味は、の調べだした組織に乗り込み、鮮やかな手際で
仕事をこなした。
そうして、がっつり稼いだ次元が、ついでだから高級ホテルのスイートも
取ってやったからなと、を掻っ攫いに来るのは、それからまた
数日後のことだった。
〜End〜
あとがき
お題は毎度無理矢理な入れ方で……
進歩しませんねー……(凹。
頑張ってはいるんですけれど(苦笑。
次のお題はまた難しいんですが……
頑張りますのでよろしくお願いします。
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