揺りかご 幻想





ゆらゆらとした感覚が身体を包む。


(あったけぇ…。)


暖かくて、ひどく安心する。


(どこだ?ここ…)


目を閉じ、膝を抱えた状態で 揺蕩っているような 感覚。

母親の胎内は、もしかしたら こんな感じなのだろうか。


(気持ちいい…なんか、すげぇイイ…)


身体を包む暖かさと、体内から ゆったりと掻き混ぜられるような心地良さ。

全身が、甘やかなものに溶け出していくような、そんな感じ。

と、頭の奥が 重苦しくなった。


(ああ、そうか…)


自分は泣いているのだ。悲しいんじゃない。嬉しいわけでもない。

ただ、涙が溢れる時の じん、と痺れるような感覚が、気持ちよくて仕方がない。

泣くことが こんなに気持ちいいなんて 知らなかった。


悲しくない涙は、ある種 性的な快感を持っているらしい。

零れるたびに 胸の奥が熱くなる。


羊水の中で守られているようで、けれど 伴う快感は、確実に腰の奥に溜まる。

その矛盾が ひどく不安定で、それすらも 心地良い。


(あったけぇ…気持ちイイ…すげぇ…シアワセ…)


ぐずぐずと 蕩けていく。

世界が、俺が、全てが。

愛しい、愛しい もの。

愛しい すべてのものと…一つになる。

溶け合って、ひどく大きな、大きな一つになる。

小さな、小さな一部になる。


心地良い浮遊感。

快い一体感。

気持ちいい酩酊感。


(シアワセ…だ。)


溶けゆく自分を 引き留める術もなく、温もりに 全て預けて、思考を放り出す。

揺蕩う カラダ。

揺蕩う イシキ。

みんな、みんな 放り出して…

俺は、俺になるんだ…。








  ※   ※   ※








「ん…」


目を開ければ、目尻を濡らす それが、つと こめかみへ伝う。


「あー…何か…」


何か、すごい夢を、見ていたのだと気付くには、うつつは あまりにも

頼りない闇に包まれていた。

これは、現実…。そう、俺は今、目を覚ました。


何だか、途方も無い夢を見た気がする。

あれが 俺の願望に沿ったものだとしたら、結構 笑える。


戦う毎日は好きさ。料理を作る毎日も。

レディたちに恋を請う毎日も、そりゃ玉砕ながら、な、それでも好きだ。


なら…どうして、あんな夢を…?

と、思ってみたところで、否定材料も肯定材料も、どこにもありゃしねぇ。


(ま、いーけどな。イイ夢だった、ってことで。)


しかし、随分半端な時間に目が覚めたと、時計を見れば、

もうすぐ日付が変わろうかという頃だった。


ふと苦笑して、違和感を覚えた。

頭は覚醒しているのに、身体は まだ夢の感覚のままだ。何で…


「げっ」


何で、じゃなかった。あろうことか俺は後から抱き締められたまま眠っていた。

誰に?誰にって…これ、ゾロじゃなかったら、俺個人的には 由々しき問題だ。


今夜は島に着いて、久しぶりに全員で陸に上がり、宿を取った。

で、俺は ゾロと相部屋を言い渡されて…んで、ヤって寝た。ってことは…


首筋にかかる寝息が、ゾロのものであると確信し、俺は ほっと息を吐いた。

ゾロにゃ絶対言えねぇけど、こいつにだから捧げた貞操、

誰彼構わず食い取られてたまるかってんだ。


と、黙思に少し力が入った途端、ぞくりと 腰が震えた。


(……入ってる…。)


ソコに力が入っちまうまで気付かなかった。

この野郎、突っ込んだまま寝やがったのかよ…。


萎えていても存在感のあるソレは、情交に慣れた身体に ひどく甘い痺れを寄越す。


「あー…もう。ばかやろ…」


取り敢えず、何とか抜こうと試みるも、うまく力が入らない。

支える腕には力を入れねーといけねぇのに、アソコからは力を抜かないとならねぇ。

…ムチャ言うなっつの。


「んあ…?」


何とか抜こうと、一人 格闘していたら、ゾロが目を覚ましちまいやがった。


「何だ、目ぇ覚めてたのか。安眠妨害だぜ?」

「っ…るせぇ。妨害されたくなきゃ、抜いてから寝やがれ。」

「ああ?キモチイイんだから しょーがねーだろ。」

「なんっだそりゃ。」


ゾロは まだ寝ぼけ眼だ。

まぁ、見張りやってても寝る男だからな。


「ん?何だ…お前、泣いたのか?」

「へ?」


突然 そんなことを言われ、図星だった俺は びくりと 固まっちまった。


「濡れてる…。怖い夢でも見たか?」

「あほたれ。何で俺が そんなもん…」

「じゃ、寝てる間に 痛くしちまったか?」


少し、ゾロの声が曇った。優しく俺の腰を擦ってくる。


「いや…、そーじゃねぇよ。」

「じゃ、何したんだよ。」

「…夢、見たんだよ。」

「ん?」

「すっげぇ…イイ夢。」


シアワセで、あったかくて、ほんと、すんげぇ いい夢…。


「ふぅん。…そりゃ、良かったな。」

「…おう。」


うっかり照れちまった。何だぁ?ゾロの奴、らしくなくねぇ?

赤くなって俯いた俺は、すぐに その顔を跳ね上げることになった。


「ぅん…っあ…っ」


身体の中に入りっぱなしだったゾロの自身が、ぐん と勢いを取り戻しやがったせいで、

俺は ぐぐっと 背を反らして喘ぐ羽目になっちまった。


「ちょっ…ゾロ!何…っ」

「ワリ。そんなつもりで 入れてたんじゃなかったんだが…」


お前が可愛い顔するせいで…などと 言ってのけて、

ゾロは そのままの体勢で 俺を揺さ振り始めた。


「ん…っぁ…あぁっ」


内側から イイところに直接的な刺激がくる。

与えられる角度が、苦しいくらいの快感を引き起こす。


前も同時に扱かれ弄られて、下半身が ひくひくと 痙攣した。

目の前の絶頂に 縋り付こうとした時、ゾロに耳を食まれた。


「んっ…!何…?」

「誕生日、おめでとう。サンジ………愛してる。」

「なっ…ああっちょっ…まっ…あぅっ」


突き上げられながら視線を上げれば、生理的な涙に濡れた視界に写った時計は

午前0時を回っていた。そうだ。今日は、俺の 誕生日。


「覚えて…たのかよ。」

「覚えてちゃ、悪いかよ?」

「…いや。悪くねぇ。」

「そうか」

「おう」


満足そうに笑う気配がして、俺の内を掻き混ぜる動きが 速くなる。


「あ…あっ」


その動きが、ちょっと乱暴なのは 多分、愛してる、なんて

言っちまったことへの 照れ隠しだろう。


そうか…ゾロが らしくねぇのも、あんな夢を見たのも、誕生日 だったからなのかもな。


背中から抱き締められて、体内を掻き混ぜられて…。

さっき見た夢に類似した感覚に、こりゃ もしかして 俺は

かなり重症なんじゃないかと思う。

結局 俺は、こいつといる時が 一番幸せなわけか と、気付かなきゃよかったと

思ってしまうようなことに気付いちまったから。


オールブルーの海も、こうして 俺を 包んでくれるかな、なんて

ゾロにゃ絶対言えないようなことを思いながら 俺は、

ゾロがくれる 甘い律動に、身を任せたのだった。











〜End〜



あとがき

ハッピーバースディ サンジくん!
二度目のお祝いは しっかり微エロで、
すっかり 当サイト色に染まりました(笑。
今回一番書きたかったのは最初の夢の場面。
ストイックなエロを目指すべく頑張ったのですが…
どうも玉砕したらしいです(苦笑。

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