月色memories





「すっかり寒くなったな」


夜、見張り台の上。夜食を持ってきたサンジが、ふるりと身を震わせた。


「ああ、冬島が近いからな」

「丁度良く、カレンダー通りだ」

「あ?」


ふわりと軽く笑んだサンジの、伏し目がちの表情が、澄んだ空気に冴えた

月の明かりに照らされ、色素の薄い睫毛が、その光を絡め取って震える。


「11月だろ、今」

「あ、ああ。そうだな」


そうだ。今は11月。そして今日は、己がこの世に生れ落ちた日であると

ゾロは知っていた。

前の島から、今向かっている島までの航海は、結構な日数を要しているため

今日の夕食は質素であったが、それでも自分の好物が多めであったことも。


「おめでと」

「おう。……ありがとう」

「どういたしまして」


そんな短いやり取りが可笑しかったのか、くつくつと笑ったサンジが、

けれど一瞬後には、ふと笑みを消し、どこか懐かしいように月を見上げた。


「いろいろあったなぁ」

「ん?」

「ここまで来るのにさ」

「ああ、あったなぁ」


月を見上げるサンジの儚いような表情に魅入られながら、ゾロもまた

懐かしむように目を細めた。


「でっけぇ傷、ここにこさえて」


ふっと口元を緩めたサンジが、とん、とゾロの胸の傷跡を、揃えた指先で押す。


「死にそうになりながら、戦って」


出会って間もない、あれはそう、初めて互いが命を預けあった戦いの記憶。


「あんときゃ、お前が30秒もたすっつったから信じたのによ」

「もたしたじゃねぇか。ルフィは助かったろ?」

「ああ?タコが来たろーがよ」

「予防線は張っといただろ」

「でも俺はビビったんだよ!……あ」


ぱん、とサンジが両手で自分の口を押さえた。


「なんだ、ビビったのか」


にや、とゾロが笑う。サンジは自らの失言に悔しげに顔を歪めながら、

けれど諦めたように肯定した。


「ああそうだよ。ビビったよ。放っとけ」


今だから。こんな関係になった今だから認められることだと、

それはサンジも、そしてゾロも知っている。


「放っとかねぇよ」

「ああ?」

「好きだからな」

「っ……!?」


真面目な顔で告げて、いきなりの台詞に一気に赤面したサンジを見て、

ゾロは笑う。


「お前は本当に、不意打ちだの率直だのに弱いな」

「うるさい黙れマリモ」


ぐっと腕をつかまれ、引き寄せられて、ゾロの胸に顔を埋めてしまいながら

サンジは悪態をつく。


「つか夜食!冷めちまうからさっさと全部食え!」

「お前のメシは冷めてもうめぇよ」

「っっ……!!」


耳元に囁かれ、もうこれ以上ないと思っていたのにサンジの顔が赤みを増す。


「っ……あたりまえだバーカ」


ゾロの胸から顔を上げ、けれど真っ赤な顔をしたまま、サンジは

ぶつけるようにゾロの唇に自らのそれを重ねた。

歯が当たって痛かったけれど、ゾロが噛み付く勢いで返してくるから、

キスはそのまま深くなり。


「朝まで、ここにいろよ」


合間に囁いたゾロの言葉に、


「最初っからそのつもりだっつーの」


サンジがそんな風に返すから、祝いの夜は、冴え冴えと、

しかし濃密な空気を纏って、更けていくのであった。












〜End〜





あとがき
久しぶりにゾロサンが書きたくなったらジャストタイミングで
ゾロの誕生日。今回はほのぼので祝ってみました。

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