雨の中、二人





しとしと、静かに。
蒼い雫が堕ちてゆく。
果てのない天から。
昏い雲の隙間から。
俺達は世界から隔離される。
俺達は世界から拒絶される。

雨の中。
俺達以外、誰も存在していない。

、濡れますよ」

肩を抱き寄せられて、傘の中、二人。
隣りに目をやれば、王子様のように整った顔立ちの食ぱんまん。
彼は俺の同居人。
二人で買い物に出かけたのは良いけれど、途中で雨に降られてしまった。
家を出る時は、雨なんて降りそうになかったのに。
近くのコンビニでビニール傘を買って、帰り道。
二人で傘に入って、つまり、俺達は相合い傘をしているわけだ。
普段は食ぱんまんのことを変態と罵っている俺だけど、やはり好きな相手とこんなことをするのは緊張してしまうわけで。

さっきから、心臓がどきどき、止まらない。

雨の所為だろうか。
食ぱんまんがいつも以上に格好良く見えてしょうがない。
雨に濡れた髪が、きらきらと艶めいている。
憂うような目が、雨を反射して透き通っている。
肩を抱いた手が、俺を雨から守っている。
傘を持つ手には、微かな水滴。
全てが、彼を引き立てているよう。

「…食ぱんまん?」

気が付けば俺は、食ぱんまんの視線に晒されていた。
その視線が何処か色めいていて、俺の心臓は思わず高鳴る。

「何?」

そんなことを隠しつつ、俺は聞いた。

「いえ」

食ぱんまんは、そう言って微笑む。
いつも見ているはずのその笑顔にすら、俺は。

「濡れるって、何だか淫らだと思いまして」

それがなら、尚のこと。
素敵な笑顔で、そう返される。
どうやら彼の中身は相変わらずらしい。
雨のおかげで、こんなにも素敵な王子様だと言うのに。
相変わらない王子様に、俺も爽やかな笑顔で返事を返す。

「この変態」

相変わらずの、日常。










---END



柊様へ。
へ、変態食様ですが、お気に召して戴ければ幸い…!