路傍の乱雑して生えている草がさわさわと揺れていた。 枝が絡み、秋特有の気候に木々はその厳つい表情をさらに厳しくさせていた。 空は雲が少なく本来の青さをもっと稀薄にしたような色でこれから来る冬を待っていた。 人の多さもまちまちで、それが少し寂れた公園ならなおさらだった。 本当に、すばらしい秋晴れである。 しかし、目の前にいるのは自分にとって不快なものでしかなかった。 今日は厄日だ、彼は今日という日を厄日にした神を呪った。 憂鬱な水曜日 「ブラックハヤテ号、中尉が待っている。散歩は終わりだ。」 そう言ってもブラックハヤテ号は歩く足を止めなかった。 むしろ、速くなった気がする。 ロイはため息をついて空を仰いだ。 見事な快晴である。 しかし、それが秋ならば、強く寒い風は付き物だ。 視界の端にある街路樹がその青さをさらに引き立てていた。 もう一度ため息をついてブラックハヤテ号に呼びかけようとすると、いきなりその毛玉が動いた。 動くのは当たり前なのだが、驚くほどの速さで何かに引かれるように駆けていったのだ。 慌てて追いかけても、もはや黒い物体と化したかなた前方のあの犬は、角を左に曲がっていってしまった。 確か、その先は公園だったはず。 その公園で遊んでいるだろう子供達は、犬が好きな子供もいるが、苦手な子供だっているだろう。 苦手な子がいたときの惨状を思い浮かべ、ロイはまたため息をついた。 そして、のろのろと足を動かし、ブラックハヤテ号を追いかけた。 たかが犬のせいであの飼い主様に銃をぶっ放されるのも嫌だったが、子供の親にしかられるのも嫌だった。 自分は一応、無関係なのに。 公園に近づくと、いっそう足取りは重くなった。 先ほど自分で想像した惨状が頭から離れなかった。 一応最悪な状況としての想像だったが、可能性がどれほどあるかわからないので、それがさらにロイを憂鬱にさせた。 正直、めんどくさい。だからと言ってここで帰ると、あのご主人様がこの額に風穴を開けるのは目に見えていた。 だが、公園で近づいてくれば来るほど、あの犬の鳴き声が聞こえた。 吠えているのか懐いているのか判らない吠え方で。 そろりと顔を出すと、ジャングルジムの下で、一生懸命何かに向かって吠えていた。 人はいなかった。 安堵のため息を漏らし、ジャングルジムに近づいて今だ吠え続けるブラックハヤテ号を抱き上げた。 それでもまだ吠えるブラックハヤテ号の視線をたどる。 上に、何かいるらしい。 つ、と向けた先には、人。 涙目で、必死に一番高いところでバランスを保っていた。 こちらに向かってパクパクと何か言おうとしているが、声にならないらしい。 「失礼、私の知人の犬でね。噛んだりはしなかったかな?」 人好きする笑みを浮かべて喋りかけると、ふるふると首を振り、 「なんでもいいからどっか行ってクダサイ…!!その犬を連れて!!」 と絶叫した。どうやらよほど苦手らしい。 コレは面白い。 ここで食い下がると彼はどうするのだろう。 思い立ったら即行動。 「しかし、もし怪我をしていたらこちらの責任問題だ。責任は取るつもりでいる、だから降りてきて教えてはくれないか?」 「わわわわわわわわわかったからその犬、どっかにやってくれよぉ!」 もともと涙目だったのが一気にぼろぼろと大粒の涙がこぼれ始めた。 これはまずい、と焦ってブラックハヤテ号にリードをつけ、近くの木に縛り付けておいた。 それでも彼は降りてこなかった。 「もう平気だと思うが。」 「うううううるさーぁい!怖いモンは怖いんだよ!!」 顔を真っ赤にして怒る彼が、ひどく幼く見えた。 年齢はたしか23歳のはずなのに、その行動のせいでその年齢より幼く見えるからおかしかった。 そう言って彼は飛び降りた。 私の、腕の中に。 「なかなか大胆だね、。」 「人生には思い切りも必要って知らないのオジサン。」 「おじさ……っ!?」 「お前が悪い。」 「………すまなかった」 先日の約束に、自分は仕事ができたからといきなりキャンセルしてしまったことを思い出した。 そういえば会うのは久しぶりになるかもしれない。ブラックハヤテ号に感謝だ。 「新手の嫌がらせかと思った。いきなり他人行儀で喋るし。」 横目でブラックハヤテ号を伺い、すねるように言った。 「君の反応が面白くてね」 「サイッテー」 そう言って、久しぶりに彼の唇に触れた。 は、よく行く店のバーテンダーだった。 うまいカクテルを作ってくれた。 実際は新製品をただ実験したかったらしいが。 それがきっかけ。 よく喋るようになって、店以外でも会うようになって。 自然に付き合うようになった。ただそれだけ。 甘く漏れるの声を久しぶりに聞きながら、公園のベンチへと誘った。 この一週間の仕事は多かっただのどうの、この前行った中央では旧友がうるさかったこと、 中尉はあいかわらず銃をぶっ放してくることなどをとにかく聞いてほしくて私ばかりが喋り続けた。 その間の相槌や笑い声や心配が嬉しくて、ますます私は調子に乗った。 時間が経っていると気づいたのはブラックハヤテ号の周りに子供が集まってきていると気づいてからだった。 風もかなり冷たくなってきていた。 「これはあの中尉サンに間違いなく怒られるね」 くすくすと楽しそうに笑いながら言われても、こちらとしては全然楽しくないのだが。 から口付けを落とし、そういえば、と付け足した。 「俺、昼間働いてるところ教えてなかったよね?」 そう言ってメモ帳を取り出し書き込んでいった。 破った次のページをみると、何に使うのか判らない名前がずらりと行列をなしていた。 私が凝視していたのに気づくと彼は苦笑して 「昼間働いてる飲食店の料理の材料だよ」 そう言った。 そして踵を返し、 「俺、水曜日は必ずそこにいるから!それとそこの犬もちょっと好きになったかも!!」 投げてよこした紙には、彼の就職先だろう地図と住所が書かれていた。 「私が良く巡回で通るところじゃないか…」 偶然なのか必然なのかわからないがとにかく嬉しく思って、帰り道を急いだ。 月曜日は週の初めで憂鬱で、金曜日は週の終わりだから疲れがたまる。 水曜日はこれまでとこれからの狭間だから、あんなに一昨日 昨日頑張ったのにまだ3日もあるのかと憂鬱になった。 少なくともこれからは、水曜日だけは憂鬱になることはなさそうだ。 毎回巡回の後で中尉の鉛球が飛んでくることはまず間違いないだろう。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ロイ+ブラハの甘めなお話だと思います(死)リクエストにお答えできているでしょうか・・・? あぁぁぁ文才がほしいです・・・。遅くなってすみませんでした(土下座) あんなに素敵なものを貰っておきながらこの程度か自分・・・。 こんなクソいサイトに相互リンクしていただきありがとうございました。 愚か者ですがこれからもどうぞよろしくお願いします。 04、12/08 宮城朔也