RAIN



ざぁっ と 音を立てて、薄暗い空から 大量の水が落ちてくる。


「雨だねー」


窓から 外を眺めてが呟く。

返答を求める響きではない。


「ああ。雨だな。」


取り敢えず 独り言のトーンで相槌を打つ ロイ。


「んー。すげぇ量…」


ざあざあ と、まるで際限など無いかのように、後から後から落ちてくる 水。

は、先ほどから もう小一時間、窓に張り付いたままだ。




「んー?」


呼んでみても、おざなりな反応しか返ってこない。

外の明るさから 時間を判断することは出来ないが、

時計を見れば、針は午後6時を指している。


昼を過ぎて 振り出した雨は、時間が経つにつれて どんどん強くなり、

その音に嫌気が差したロイは さっさと仕事を片付けて、

の待つ自宅へと 帰ってきた………のだが。

暖かく迎えてくれるはずの恋人は、「お帰りー」と言ったきり、雨に夢中なのである。


、腹が減らないか?」


夕飯には まだ少し早いが、取り敢えず問うてみれば、


「夕飯なら 仕度してあるよー」


相変わらず 外を見たまま 答えを返される。


 風呂に…」

「風呂なら沸いてるよー」


一緒に入らないか と言う前に、間延びした答えが返ってくる。


「………」


ロイのことは 完全に 二の次なである。

しかし、当然ながら ロイがこの状況に甘んじることを快く思うはずもなく。


、そんなに雨が好きかい?」

「んー」

「私よりも?」

「んー?んー…」


おざなりな返事をするの背後に近寄ると、

そのままを抱き込むように腕を回した。


「わっ!…ロイ?」


急に 後ろから抱きしめられて、慌てる


「どうしたのさ、いきなり…」

「いきなり じゃない。」

「は?」

「ずっと 呼んでいた。」


何度も声をかけただろう、と 呟くように言われ、


「…ロイ…もしかして 拗ねてる…?」

「……」


明らかにムっとした表情のロイに、は苦笑した。


「ごめん ロイ。悪かったって。」


謝りながら ロイの胸に 軽く体重を預ける


「ローイ?」


まるで拗ねた子を あやすように呼ばれて、

ロイはを抱きしめる腕に力を入れた。

きゅっ と、きつくなった腕に戸惑うを、


「ロイ?」


ロイは ぎゅううううっ と、さらに抱き寄せる。


「ちょっ…苦しっ…ロイっ!」

「……」

「ロイっ 苦しいってば…」


ぽすぽす と ロイの腕を叩いて抗議すれば

ふと、抱きしめる力が抜ける。


「もー、何なのさ…って ロイ!! 」


振り向いて文句を言おうとしたのシャツの裾から、

ロイの手が 潜り込んできた。


…」


ぐいぐいと たくし上げられ、ロイの手は そのまま胸の飾りに触れる。


「あっ!ちょっとっ ロイ!ねぇっ 夕飯は?」


このまま持ち込まれては堪らないと、言ってみるが、


「後でいい」


あっさり かわされる。


「風呂…せっかく沸かしたのに 冷める…っ」

「それは『バスルームがいい』ということかい?」

「ちが…っ!」


言い合っている間も、ロイの手は止まらない。


「なら、大人しくしてなさい。」

「んんっ」


ざあざあと 降り続く雨の音も 耳に入らなくなっていく。





ロイはを抱き上げると、そのまま 寝室へと運んだ。

自分以外に 意識を向けなくなったに、

満足気な笑みを浮かべながら。








  ※   ※   ※








「おなかすいた…」


1R終えて、の第一声。

ムードも何も あったものではない。


「もう8時だね。夕飯にしようか。」


ロイがバスローブを差し出す。


「んー。腰だるいー。動きたくないー。」


受け取ったローブに のろのろと腕を通したは、


「でも、腹は減っているんだろう?」

「うん。だから…連れてって。」


抱えてダイニングまで連れて行け、と言うように腕を伸ばす。


「わがままだな」

「甘えていると言え。」

「はいはい。」

「何その どーでもよさ気な返事。」


抱き上げようとするロイの首に 腕を回しながら ぷっと膨れる


「君だって、さっき そうしたろう?」

「………」


まさか そんなに気にしているとは思っていなかったは、

つい ロイの顔を まじまじと見てしまった。

その反応に また少し ムっとする ロイ。


「雨に 妬いたのか…?」

「悪いかい?」

「え…いや…」

を雨に取られていた時間は、寂しかったよ。」


ちゅ、と 額に口付けられ、は頬を染めた。


「私より雨が好きだ、というのも 否定してもらえなかったしね。」

「え!?何それ!違うよ!! そうじゃない」

?」

「俺が雨を好きなのは、ロイが好きだからだよ」

「…?」


何を言われているのか わからず、ロイの頭上に疑問符が浮かぶ。


「だって、雨が降ってたら、ロイが危険な所に…戦争の最前線に行くことはないだろ?」

…」

「ロイに焔が使えなかったら、俺は不安にならないのにな…。」


の、ロイに しがみつく手に力がこもる。


「なんてね。ちょっと思ってみただけ。ロイは今まで通り、お仕事 頑張って下さい。」

…。愛してる」

「………俺も。」


どちらからともなく 口付ける。

ゆっくりとした キス。


「ん…。」

…もう一度…」


そのまま 流れで 行為に持ち込もうとするロイ。


「ダメっ!」

「なぜ?」


即答で止められ、少し悲しそうな顔をするロイには、


「夕飯、せっかく作ったのに 食べない気か?」


俺の作ったメシが食えないってのか?! というような勢いで 言い放つ。


「…わかったよ。続きは 食事をしてから ゆっくりね。」

「何が何でも シたいんだ?」

「悪いかい?」

「………悪くない…かも。」





ざあざあと 音を立てて降る水に、世界の音は閉ざされて。


ここには 君と二人きり。

聞こえてくるのは 水の音と 君の音。


水の音は きっともうすぐ 聞こえなくなる。


僕に触れる君の手と、君に触れる僕の手と。

その温もりが 全てになる。





二人だけの   雨の夜。












〜End〜





あとがき
10000HIT越え ありがとうございます。
お礼夢…と言っては何ですが、DLFです。
[ソース表示→名前を付けて保存]で お持ち帰りして下さい。
お持ち帰りの報告は特に必要ありません。
この あとがきは 削除可です。


ブラウザ閉じて お戻り下さい。