陶酔、酩酊、ひどく心地良い感覚。

『彼』という甘美な存在に、自分は泥酔しているのだと思う。


ベッドの上、疲れて眠るを見つめながらロイは

日中の出来事を思い出して、ふっと苦笑を零した。






luscious





「ハボック!タバコくれ」


盛大な自動車事故が起こった事故現場。

東方司令部の面々が駆り出され、あらかたの撤収作業が終わった頃、

は自分のタバコを司令部に忘れてきたことに気付いた。


「ダメっスよさん!事故現場ですよここ」

「もう油も片付け終わってるだろが」

「ったって…」

「司令部に戻ったら返すから。頼むよ」


ぱん、と目の前で両手を合わせて、は上目遣いにハボックを見上げる。

ロイと同じくらいの身長のだったが、線の細さのせいか

どうしても華奢に見えてしまい、持ち合わせる不思議な色香も手伝って、

そんなポーズを取られてしまえば、大抵の人間は ついつい ふらっと

言うことを聞いてしまう。


ふぅ、と溜息を吐きながらハボックはタバコを取り出し、に1本渡すと、

自分も1本口に銜え、マッチを出して火をつけた。


「ハボックー、俺にも火」

「はいはい」


つけて、と言われて マッチ箱をひっくり返すが、中身は出てこない。


「ありゃ、参ったな」


どうやら今ので最期だったらしいと ハボックが頭を掻いた。


「あー…じゃ、これでいいや」


言っては、ぐっとハボックの襟首を掴んで引き寄せ、タバコの先端を合わせる。

口付けをするような そのやり方に、ハボックは目を白黒させて慌てた。


それを見ていたのはロイ。首を傾いでタバコの火を受けるの、

顎から喉にかけてのラインに目が釘付けになる。

同時に、ひどいほどの嫉妬を感じてロイは、つかつかと2人のもとへ歩み寄った。


!」

「ん?ああ、ロイ。おつかれ」

「ああ、お疲れ…って、そうじゃない!」


ついノリツッコミ状態になってしまいながら怒るロイに

はタバコを銜えたまま びくっと身を引く。


「な、何?どしたの?」

「近い」

「は?」

「近いと言ってるんだ」


きょとんとした顔で首を傾げるの肩を掴んでぐいと自分の方へ引き寄せる。

そんなロイの行動に、その場に一瞬の沈黙が落ちた。


「って、火ぃもらっただけだっての」


呆れたようには息を吐き、目を据わらせる。

ハボックは、もう何も言えずに ただ突っ立っていた。


「火なら私が…っ」


勢い発火布を握り締めるロイに、の目は さらに細められる。


「せめてさ、そこで出すのは マッチにしない?」


タバコに火を点けるだけなのに そんなものを引っ張り出すなと

額を押さえたが、ハボックを見上げる。


「タバコ、ありがとな。司令部に戻ったら返すから」


笑顔の、けれど有無を言わさぬ その一言の意味を的確に読み取って

ハボックは ちゃっと敬礼をすると、さっとその場から離れた。


…」


ハボックが離れていくのを見送って

行儀悪く銜えタバコでロイを振り返った。


「このバカタレ」


振り返るなり冷たく言い放たれる言葉は、の機嫌の悪さを示していた。


「つまらないことで、目くじら立てるなよな」

「つまらないことじゃないだろう」


あまりにも冷たいの雰囲気に憮然となりながらロイが反論する。

の その何をやっても甘さの滲む所作が、自分以外に曝されるのが

嫌なのだと呟けば、は呆れきったように紫煙を吐き出す。


「じゃあ何か。俺は外に出たらだめなのか」


その言葉に つい頷いてしまいそうになって危うく堪えたロイは、

そこで頷けば拳が飛んでくるだけでは済まないことを知っていた。


彼は、守られるだけの存在と扱われることをひどく嫌う。先日も、

僕が君を守りたい、だから軍なんて危ない所にいるのはやめてくれ、

などと抜かして彼に求愛した男が、腹に一撃を喰らって昏倒した。


有無を言わせぬ一発は素早かった。

その場に居合わせたロイが、自分のものにちょっかいをかけるなと

言葉を投げる暇すら与えずに沈めてしまったのだから、

一応恋人と認められているロイとしては ちょっと立場が無い。

は そんな青年だった。


「そんなことは言っていない」

「じゃあ何」

「いや、だから、その…」


もっと自分の色香を自覚してほしい、とは 今まで何度も口にして

その度に蹴り倒されてきた言葉だ。

今それを言えば、火のついたタバコが飛んできそうで恐ろしい。


「はっきりしないなぁ…」


言葉を探すロイに は、すぅっとタバコを思い切り良く吸って、

そのまま口付けた。


「っ…!?」


首を引き寄せられ口付けられて、こんな往来でキスなどさせてくれた例のない

が、そんな行動に出たことに混乱したロイは、次の瞬間 激しく噎せ返った。


「げほっ…ごほげほっ…!っっ…」


タバコの煙を口移しに飲ませられ、変な痛みに涙が滲む。


「はっきりしないのは 腹立つんだよ」


そう言うとは まだ息の落ち着かないロイを放って、さっさと行ってしまった。

はっきり言えば殴り飛ばすくせに、そんなことを言う。

少しばかりが憎たらしくなり、ロイは あの向う気の強い彼を

ベッドに引きずり込んで、苛め倒して泣かせたい、と真剣に思った。








  ※   ※   ※








「それを実行していたら世話ない、か」


呟いて、の髪を撫でる。ぐったりと身を投げ出して眠る彼は、

つい先ほどまで、快感に甘く啼き声を上げていた。


ロイは、同時刻に仕事の明けたを強引に自宅へと連れ帰り、

真っ直ぐに寝室に向かうと、彼の身体をベッドへ放り込み、その腕を

後ろ手に縛ってしまった。


抵抗して暴れようとするの下肢から服を剥ぎ取り、有無を言わせぬ強さで

彼自身を掴み取ると、きつく揉みしだきながら、後孔へと指を伸ばした。

泣きながら懇願するまで許さない、と笑って、ロイの指は濡れたものを

その孔に塗り込んでいく。


すぐに じん、と痺れ始めた その場所に、は自分のそこに 何か

いけないものが塗り込まれたことを知った。

自身を愛撫され、後孔が疼くのを は 奥歯を噛み締めて耐えた。

耐えたが、ロイは残酷だった。


媚薬を塗り込んでおきながら、その孔には触れもしなかったのである。

自身にのみ直接的な愛撫を施され、時折は乳首や唇に悪戯されながら

は 徐々に自我を崩していった。


数度、前のみへの刺激で精を吐かされ、それでも後ろに伸ばされぬ指に

耐え切れず、ついにはロイの思惑通り、啼いて許しを請うていた。


そんな行為の間中、ロイは の甘さに酔いしれていた。

屈辱に歪んだ唇も、口惜しそうに見上げてくる目も、耐え切れず零れる吐息も

すべてが極上の甘さをもって、ロイを支配した。


が意識を手放してようやっと、ロイは自分が彼に酔っていると言うほどに

溺れていることを自覚したのだった。


「愛しているよ、


どうしようもないほどに、と眠る彼の耳元に口付けながら囁いて、

自分も眠ってしまおうと寝の体勢を作った。


を抱き寄せ、ケットを肩まで引き上げる。

そうしてさえ身じろぎ一つしない彼に ロイは、しまったな、という顔をした。

これでは、明日のの体調は良好であるはずはなく、機嫌は最悪であろうと

気付いてしまったからだ。


「参ったな…」


呟きながら、まぁいいか、と思う。

が元気になったら蹴りの1発2発、甘んじて受けようと、あっさり心は決まる。

怒った彼の小言までもが、ロイにとっては甘やかなのだ。

これはもう中毒だな、と苦笑しながら腕の中の温もりを抱き締め、

ロイは眠りに落ちていった。













〜End〜





あとがき

100000打越え ありがとうございます。
DLFお礼夢、第一弾ロイ夢です。

えーと…主人公、殆どしゃべってないじゃない…って
感想が一番に聞こえてきそうで恐ろしひです(苦笑。
自分の好きなタイプの主人公を書こうとして、またしても
玉砕。成長して無いんじゃん!(涙。

ブラウザ閉じて お戻り下さい。