「、最近キレーんなったなぁ…」
「は?」
昼休みの屋上。唐突に呟いた侑士に、俺はパンを食べる手を止めた。
「侑士?頭、おかしくなったか?」
いきなり何を言い出すんだと問う顔が引き攣っているのが自分でもわかる。
一緒にメシを食っていた岳人は、飲んでいたジュースで咽ているし、
宍戸と鳳は ぽかんとしている。俺たちの他に人のいない屋上には、
きっと漫画だったら カラスが飛んでいるだろうってな空気が流れていた。
「なんでやねん。俺は至って正常や」
「ああそうか、おかしいのは元からか」
「正常やって言うてるやん…」
聞く耳持って、と侑士が脱力する横で、咽すぎて涙目になった岳人が
八つ当たりよろしく 胡坐をかいた侑士の膝を びしばしと叩いている。
「つぅか忍足、お前それ跡部に聞かれたら…」
「確実にロンドの的ですね」
破滅しちゃいますよ、と笑う鳳に 少しばかり場の空気が冷える。
「あー…がんばれ侑士」
「何や、今日は えらく冷たいな」
「侑士が変なこと言うからだろ」
「変なことやない。事実や」
「って、お前はを口説いてんのかよ!」
ずばっと言い切ってくれた侑士に、今度は咽なかった岳人が びしっと
突っ込みを入れる。
「ちゃうわ。俺は岳人一筋や」
「っ…!」
勢い言い返す侑士は言葉の内容なんか考えていなかったんだろう。
岳人の顔が かぁっと赤く染まったのを見て、侑士も赤くなった。
「何やってんだよ お前ら…」
「いいなぁ…あ、俺は宍戸さん一筋ですよ」
「いらねぇこと言うなバカタレ」
場の空気は 何だかピンク色になってきている。
なんで告白大会になってるんだと吐息すれば、はっと侑士が我に返った。
「いや、事実 の人気は上昇中なんやって」
「はぁ?」
侑士曰く、男子テニス部の練習中の声援量の話らしい。
最近 景吾に向けられるそれよりも俺に向けられるものが多いと
侑士は言うんだが…
「んなわけ あるかよ」
「は人気ナンバー1やで」
「ナンバー1は どうがんばっても景吾だろ」
「いやー、は人気あんねんて。男に」
「ぶっ」
男にかい!と突っ込みたい気と、「男に」というところに含められた何かに、
まさか、という気持ちを持つのとで、ギクリと身が強張る。
「なぁ 」
「な、何だよ」
「…ほんっまにキレーんなったな」
「し、知らねーよ」
「跡部と…付き合い出してからや」
じわりじわりと追い詰められていくような感覚。
景吾と付き合っていることを、俺は こいつらに隠していない。
というか、部室で景吾に抱きつかれているところを見られているから、
隠しようがなかったのだけれど。
「な、。跡部と どんなエッチしとるん?」
なんて事を聞くんだと赤面するのを抑えられず、しかも嫌な予感として
想像のついた問いだったために、咄嗟に何言ってんだと怒鳴って
切って返すこともできない。
「なぁ、教え…っがっっ」
教えて、と 俺に にじり寄るより先に、侑士の頭に雷が落ちた。
否、飛んできた。
「いっっっっったぁ…っ」
「自業自得って言葉を知ってるか、忍足」
頭を抱えて蹲る侑士に、高圧的な声が降りかかる。
「っ!景吾っっ!」
「人のモンに言い寄ってんじゃねぇよ」
俺の背後にまわり、肩に腕をまわして引き寄せながら、
景吾が不機嫌に言い放った。
「だからって何投げつけてんだよ」
「缶だ」
景吾の腕から逃れようと もがきながら問えば、返ってくるのは
実直な答え…なのだが…
「って、中身入っとるやないか!」
なんとか復活した侑士が喚く通り、その缶のプルトップは引かれていなかった。
「そりゃあ飲む前に投げたからな」
平然と言い返す景吾に悪びれた様子は無い。少しはやりすぎたとか思えよ、
なんて、思っても口にすると このまま早退させられてベッドに引きずり込まれる
ようなことになりそうだから、口は閉じておく。
景吾に対する鬱憤は、全部まとめて週末に、が鉄則だ。
うっかり週の中日にやったりしたら、学校に来られなくなるからな。
なんてことを そのまま侑士に言ってやれば彼の聞きたいことに答えてることに
なるんだろうが、言ってやる気は毛頭無い。あってたまるか恥ずかしい。
「ひどいわ跡部、俺は ただちょーっと…」
「ちょっ侑士、何を…っんぅ!」
「ちょっと、何だ」
何事か言おうとする侑士に 嫌な予感を覚えて、言葉を遮ろうとすれば、
背後からまわされた景吾の掌が俺の口を覆い、その声が先を促してしまう。
「ん、んーっ」
言うな、言うなよ侑士!頼むから!! なんて俺の願い虚しく、
「が どんなエッチされてんのか 気になっただけや」
最近キレーになったからな、とかなんとか恥ずかしげもなく
さらりと言ってのけてくれた。
ああもう いやだ。恥ずかしい。
ギャラリーも居た堪れなくなってきたらしく、宍戸は鳳の膝枕で
昼寝を始めているし、岳人は我関せずといった顔でジュースを啜っている。
「他人の性生活に口だすんじゃねぇよ」
一瞬目を見張った景吾が、呆れたように息を吐き
言い放ってから にやりと笑った。
「まあ、知りたきゃ今からここで実演してやるが?」
「んんっっ!」
言葉と同時にシャツの上から乳首が摘み上げられる。後ろから抱きかかえられ、
口を塞がれた状態では逃げようがなく、俺の身体は びくりと跳ねた。
「んー、んっっ!!んぅー」
やばい、やばいって!弱いんだよ そこは!
じわじわと下腹部に熱が溜まり始めて、こんな状態だというのに
身体は景吾の手を拒めない。
やめてくれと哀願を込めて景吾に縋るような目を向けると、
ふっと景吾の笑みが深くなった。
「この先を見たいか?なぁ忍足?」
「ん…ふゃ…ぅ」
スラックスの上から景吾の手が そこを撫でる。
とっくに兆していたことを知られるのと、それを他人の目に
曝していると感じてしまうのとで、恥ずかしさにぐるぐるになり、
もう抗うどころではない。
目を開けていることすら辛くて、ぎゅっと目を閉じれば
溜まっていた涙が目尻を伝って零れた。
「忍足?」
返事をしない侑士を景吾が楽しそうに呼ぶ。こいつ ほんとに性格悪いっ!
何とか目を開いて、周囲をうかがえば、侑士は真っ赤になって固まっていて、
岳人も赤面したまま呆けている。
鳳は、自分の膝枕の上で耳を塞ぐ宍戸を欲情を堪えたような表情で見ていた。
あー…煽られちまったんだな、と考えて、煽ったのが自分の痴態であると
思い至れば居た堪れない。
「んんっ!んーんぅ!! 」
もう本当に やめてくれと 口を塞がれたままの頭を横に振れば、
ようやく口元を覆っていた景吾の手が外された。
すぐさま振り向いて抗議を飛ばす。
「い…いかげんにしろ!遊んでんじゃねーよ 景吾っ!! 」
「ん?見られてするのは嫌か?」
「嫌に決まってんだろ!つか お前らも止めろよっ!! 」
まだ ぼけっとしている侑士に向けて、取り敢えず八つ当たる。
ここにいる面々が被害者なのはわかっているが、
照れ隠しくらいさせろってことだ。
ほんっとに 恥ずかしかったんだからなっ!
「なんだ、外でヤると感度が上がるから てっきり…」
「わわわわわっ!! 」
何を言ってくれるんだ この男はっっ!
「外…」
ぽそりと落ちた声は岳人のもの。
振り返れば、呆けたまま俺を見ていた岳人と目が合って、
合った途端に ぱっと逸らされてしまった。
「っ…!」
改めて、自分がどんな恥ずかしい姿を曝したのか、どんな恥ずかしいことを
バラされたのかを思い知らされた。
ぐわっと顔に熱が上がるのを感じて、まだ背後に引っ付いている景吾の腕から
その身体を突き放すようにして逃れた。
「もう お前 俺の半径1メートル以内に近づくな!」
びしっと宣言を突きつけて、教室に戻ってしまおうと歩き出す。
「自業自得って言葉、知っとるか?なぁ、跡部」
自分を取り戻したらしい侑士が、先ほどの景吾のそれを真似た
からかいの言葉を彼に向ける。
「ああ、知ってるさ」
その言葉に、景吾が笑う気配が伝わってきて、ずかずかと屋上の出口に
足を向けながら、むっとして聞き耳を立てた。
「あいつを俺から離れられないようにしたのは、俺だからな」
「は?」
「半径1メートル以内に近づくな、なんて、言ってられなくなるってことだ」
何を言ってるんだと思おうとして、ぎくりと身が凍る。やばい、と思った。
「ちょっ…景吾っっ」
ばっと振り返って、その言葉の続きを言わせまいと、
口を塞ぎに行こうとするが、間に合わない。
「距離がゼロになるだけじゃ」
「景吾っっ!」
「足りねぇよなぁ、?」
お前は堪え性がないからな、と笑いながら、彼の口を塞ぐことに失敗した
俺の腕を取って、引き寄せてしまう。
マイナス何センチが好きなんだったかな、なんて
意地悪く聞いてくるのは やめろ!…頼むからやめてください。
もう何も言えなくなっているギャラリーの中で抱き締められ、
こいつには敵わないと、俺は もう涙目だ。
こんなやつに惚れた かわいそうな俺が、缶でも何でもこの男に向けて
投げつけてやりたいと思ったとしても、バチは当たらないと思う。
〜End〜
あとがき
景吾さん!なんて破廉恥な!とか叫びつつ書きました(笑。
ギャグ以外の何ものでもないですねー。はっはっは。
これって一応微エロになるんでしょうか…。微妙なところ。
お礼が こんなんってどーよ、って感じですが、
100000HIT ありがとうございました!
ブラウザ閉じて お戻り下さい。