響く銃声。
泣き叫ぶ 声。
逃げ惑う 人。
自らが流した紅に身を埋め、身動き一つ しない人々。
それを眺めているのは 自分。
一際大きく泣く声が 耳に届く。
見れば、少女が 薄汚れた ぬいぐるみを抱き締めて泣いている。
─ママ!ママーっ!!
あれは 隣の家の子だ。と、認識した途端、
その少女も また、数発の銃声と共に、紅に身を沈めた。
その光景に、騒ぎ立てることもなく。
ただじっとしている自分。
銃口が自分に向けて吠え立てることは ない。
知っているのだ。自分は、それを。
つう、と 滴が一つ頬を伝う筋になる。
手を出すことの叶わない世界。
そう。これは 夢だ…。
ふわりと 唇に温かい感触。
眠りを 妨げるもの。
「ん…」
しかし、決して不快ではないそれに、は ゆるりと 目を開けた。
「大丈夫かい?」
ぼんやりと見上げた先に、少し心配そうな顔をしたロイを見つけ、
は、ぱしぱしと 目を瞬く。
と、頬を伝う冷たい感触に、ロイの言葉の意味を知る。
「ん…平気。夢、見ただけだから。」
答えるに、けれどもロイは 心配げな表情を隠さぬまま
その頬に唇を這わせる。
昨夜の情事の痕を色濃く残した互いの身体が、
まるで吸い付くように相手の皮膚に しっとりと馴染む感覚に、
涙を拭っていたロイの唇が いつしかのそれに重ねられた。
「また…あの夢を?」
「うん。」
が見た夢は、過去の現実。
ただし、自分は その中を逃げ惑う一人だったのだけれども。
10歳の時 戦争孤児になったは、
幸い大きな怪我はしておらず、逃げ延びることが出来た。
逃げ延びて、それから 旅をした。
いろいろな場所を流れ歩いた。
必要な金は、身体を売れば稼げることをは 知っていたし、
それを実行してしまうほどに 自棄にもなっていた。
毎夜 見る夢。
人の死ぬ夢。
追われる夢。
悪夢に付きまとわれながら、それでも生きている自分に
疲れ始めた頃、このイーストシティに辿り着き、
そして ロイに出会った。
は 18歳になっていた。
最初は買われただけ。
数度目に会った時、金も溜まってきたから また旅に出るのだと
抱かれた後の身体で 気だるげに語ったを、
ロイは掻き抱くように 引き止めたのだった。
好きなのだと、愛していると、抱き締められ、
はそれを受け入れた。
ロイと暮らし始め、悪夢を見る回数が減った。
「まだ、辛いかい?」
ゆっくりと の髪を梳きながら、口付けを落とすロイは、
まるで 彼自身が その夢に捕らわれてしまったかのように
苦しげな表情を見せる。
「大丈夫。ロイ、大丈夫だから。」
そんな顔をして欲しくないと、は 腕を伸ばし、
ロイの頭を その胸に抱き寄せる。
「辛いんじゃないよ。悲しいだけ。だから…」
貴方が そんな顔をしないで。
自分はロイに救われているのだからと
告げるの口調は穏やかだ。
「…」
ロイが顔を上げると、視線が絡む。
ふっと 笑んだにつられるように、ロイも ふわりと笑顔を見せた。
「ロイが俺を安心させてくれた。眠らせてくれた。」
ふわふわと 溶けてしまいそうな程に柔らかい、声。
「ロイを愛して、俺は過去から解放されたんだ。」
の その声に、ロイは ゆっくりと目を閉じ、
の唇に キスを落とした。
「、愛しているよ。」
「うん、ロイ。ありがとう。」
「もう少し 眠ろうか。また、夢を見そう?」
「ん。もう 平気。見ても いい夢だよ、きっと。」
微笑みながら、二人は また ゆるゆるとした眠りに落ちていく。
互いの温もりを その肌に感じながら。
が 夢に涙しなくなるまで。
ロイがの涙に 心を痛めなくなるまで。
いつか本当に幸せになれるまで、
二人は抱き合って眠るのだろう。
傷が癒えた その時に、思いきり 抱き締め合えるように。
〜End〜
あとがき
「人の温もり」を感じるもの、というリクエストだったのですが…
リクエストに副えているのでしょうか…(不安。
あったかい感じが少しでもすればいいな、と思います。
12345HIT、ありがとうございました。
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