君の帰る場所





くんっ!! 」


焦ったようなリナリーの声に呼ばれて振り返ろうとしたら、

ゴッという音がするかと思うほどの衝撃が後頭部を直撃した。


「…痛い」

「ちっとも痛そうに聞こえないんだけど…大丈夫?」


ぱたぱたと リナリーが駆け寄ってきて、後頭部にへばりついた

衝撃の元凶を引き剥がしてくれる。


「ああ なんだ、ティムキャンピーか」


後頭部をさすりながら確認したそれは、アレンがいつも

連れているゴーレムだ。

と、いうことは。


「アレン、帰って来たんだねぇ」

くんて、ほんっとマイペースよね」


俺の言動に何を思ったのか、リナリーが感心したような

呆れたような溜息を吐いた。


「マイペース?」

「マイペース」


今の私の心配は どこ行っちゃったのかしらね、と

拗ねたように言って笑う。

ああ、そういえば今 頭にティムが激突してくれたんだっけ。


「ごめん リナリー、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


くすくすと笑いながらティムを俺に渡して、リナリーは元来た方へ

戻っていった。と、ティムが俺の手から抜け出し、飛んでいく。


「あ、おい、ティムキャンピー!」


条件反射というか 逃げるものを見ると つい追ってしまう本能というか、

俺はティムのあとについて走り出していた。


行き違う人に頭を下げ 挨拶しつつ走っていくと、

ティムの向かった先には、アレンがこちらに背を向けて立っていた。

コムイと何か話しているが…深刻そうではない。

このまま声をかけてしまおうと、加速した。


「アレン!」


そのまま減速せずに抱きつく。


「うわっ」


ちょっと勢いがつき過ぎていたらしい。

アレンが よろけて、2人まとめてコムイに支えられた。


…何で君はアレンくんのことになるとそう…」

「お帰りアレン」

「聞きなさいよ、支えてあげてるんだから」


呆れたようなコムイの声に、自分の体勢を知る。

アレンが、コムイの胸に顔を押し付けるような形になって、

苦しそうにもがいていた。


「あ、ごめん。アレン、大丈夫?」


慌てて身を起こすと、


は、本当にマイペースだよね…」


コムイが ぽつりと言った。


「マイペース?」

「マイペース」


兄妹に揃って同じことを言われると何か複雑だ…。


…抱きつくときは、もう少し加減して欲しい…」


立ち直ったアレンが、少し涙目で俺を見た。本当に苦しかったらしい。


「ごめん…」


エクソシストってのは、一度外に出ると なかなか帰ってこないから、

会えるとつい嬉しくなって勢いがついてしまう。


「ああっ、そんな しゅんとしないで下さいっ」


しおしおと俯くとアレンが少し慌てた。


「黙って立ってたら、キレイな お兄さんなのにねぇ…」


どうもこうイメージ崩す性格してるよね、と

そのやり取りを見たコムイが苦笑をくれる。


「悪かったね、こんな性格で」

「悪くないよ。おもしろいからね」

「面白がられてるのか 俺」

「うん、そう」


あっさり肯定されて ぷっと膨れると、アレンが苦笑しながら

俺の手を取って引き寄せた。


「わっ」

「ただいま帰りました、


その腕に抱き締められ、額に小さくキスを落とされる。


「ん、おかえり」


それだけのことで、機嫌を直して大人しくなる俺に、コムイは呆れ顔だ。


「まったく…それで僕と1つしか違わないって言うんだから びっくりだよ」

「自分だって やること為すことキテレツなくせに」

「目上の人は敬いなさいって」


アレンの腕の中から言い返すと、もうコムイからは苦笑しか出ない。

と、通路を ばたばたと走ってくる音が聞こえる。


「ん?」

「室長!コムイ室長っっ!いつまで遊んでるんですかっ!」


この声は、リーバー班長だ。


「あー…呼ばれてるねぇ…」

「呼ばれてるんだから行って下さい」


敬えと言われたから、言葉を ちょっと丁寧にしてみたら、


「君も行くんだよ、


にーっこり笑って、すぱっと言われた。


「さー、科学班出動だ!」

「いや、です。」


アレンに抱きついたまま、しつこく「ですます」口調でいれば、

がしっと コムイに襟首を掴まれた。


「だめ、仕事片付くまで いちゃつくの禁止」

「ぐぇっ」

「じゃ、アレンくん、またあとでね」

「あ、はい」


そこで ぱっとアレンが手を離してくれちゃった ものだから、

俺は そのまま ずるずるとコムイに引きずられる。


「さー、お仕事 お仕事」

「横暴だーっっ」


わたわた しながら引きずられる俺に、アレンは苦笑しながら

手を振っていた。何だか腹が立ったから、笑いながら俺を引きずる

コムイの脚を、げしっと 蹴っ飛ばす。

けれど、俺の八つ当たりにもめげず、コムイは俺を

デスクまで運んでしまった。








  ※   ※   ※








「室長、ハンコください」


上がった書類の束を持ってコムイのところへ行く。


「…にっこり笑って言うことかい?」

「俺の笑顔は嫌い?じゃあ泣きつこうか?」


リーバー班長みたいに、と言うと、コムイはちょっとばかり青くなった。

盗み見たリーバー班長は、実際ちょっと涙目だったが、

泣きつくというより、噛みつきそうな勢いで書類と格闘していた。


「…急ぎの書類かい?」

「それはコムイが判断してくれていいけど」

「じゃあ、そこに置いていって」

「埋めないでね」

「…信用ないなぁ」

「あるわけないよ」


クロス元帥からきたアレンの紹介状を書類に埋めたことは

まだ記憶に新しいのだから。

かっくん と落ち込んだコムイに、落ち込んでる場合じゃないだろ、と

また笑顔を向けて デスクに戻った。


俺の頭には 早く片付けてアレンに会いに行く、という それしかなかった

…のだけれど。


「終わらない…」


あと たったの5枚。されど5枚。

資料が足りずに なかなか終わらせることが出来ない書類が

俺の目の前に広がる深夜。

コムイもリーバー班長も、すでにデスクを離れている。


「これは過去事例がないと ムリだ…」


今から資料を探して書き上げるとなると、あと数時間はベッドに懐けない。

アレンに会いに行くのも おあずけだ。

けれど、これを朝までに終わらせてしまわなければ、コムイはともかく

リーバー班長を困らせることになってしまうのだから仕方ない。


「さて、やりますか」


引っ張り出してきた資料を ばらばらと捲りながら

がりがりと ペンを走らせていく。


1枚、2枚と上げていけば、それだけの時間は さらりと過ぎてゆき、

3枚、4枚、夜も白み始める頃になってようやっと 終わりが見えた。


「ま、こんなもんかな」


ペンを放って伸びをする。

俺を苦しめてくれた5枚の書類を まとめてリーバー班長の机に置き、

一言メモを添えて仕事は終わりだ。さて どうしようと考えて、

部屋に戻るのも億劫になっている自分に気付いた。


「いいや、ここで寝よ」


デスクの椅子に だらりと身を投げて、仮眠を取ってしまおうと目を閉じた。


「だめですよ、こんなところで寝ちゃ」


と、ふわりと 背後から温もりに包まれる。


「え?あ、え?アレン!?」


うしろから抱き締められて首筋に彼の息がかかる。


「な、なんで…!?」


もう朝になろうという この時間は、けれども

人々が起き出してくるにはまだ早い。


「こんなところで 寝ちゃだめです」

「あ、ねぇ、ちょっと…っ」


ぎゅうぎゅうと 抱き締められて少し苦しい。


「眠れないんですよ」

「…アレン?」

「眠れなかったんです」


囁くように言われて首を傾げる。

今まで何度もベッドを共にしてきたけれど、アレンの寝つきは

悪くなかったはずだ。今回外に出たことで何かあったんだろうか

と 心配になっていると、


「抱きまくらがないと、眠れないんですよ、僕」


なんて、さらっと言ってくれた。


「へ!?」

「だから…寝るなら、僕のベッドにして下さい」

「…俺は 抱きまくらか」


ちょっと本気で心配になっただけに、返す言葉は半目の溜息付きだ。


「って、あれ?アレン?ちょっ…ねぇ?」


ぎぅ、と俺を抱き締めたままのアレンは、

俺の苦情を聞くことなく、すよすよと 寝息を立てていた。


「こら、ここで寝るなって言ったの自分だろ?」


腕を上げて、アレンの頬をつつく。ふにふにと しばらく つつき続けて

アレンが目を覚ますのを待った。


「ん…」

「アレン、ほら、寝るならベッドに行こう?」


こんな体勢で寝たりしたら、2人とも起きた時には

身体がぎしぎしになってしまう。


「もう抱きまくらでも何でもいいから。ほら、立って」

「あー…ごめんなさい…。だー、と思ったら つい…」


うつらうつらと目を擦りながらアレンが起き上がる。


「ったく…抱きまくらくらい自分で調達してきたらいいのに…」


立ち上がりながら そう言えば、


「いりませんよ そんなの」


すぱっと即答されてしまった。


「は?でも ないと寝れないんだろ?」

「僕の専用抱きまくらは、だから」


はい?と思うのと同時に、自分が ぼんっ、と赤くなるのを感じた。


を抱っこできるのに、どうして枕を買わなきゃならないんですか」

「だ…抱っこって…」

「愛してます、…」

「アレン…」


赤くなった顔に、さらに熱が上がるのを感じて、でも それが嬉しいと

思えてしまったから、立ったままの俺にアレンが腕を伸ばし、

抱きついてくるのに 身を任せた。


「って…ちょっと?アレン?」


任せた、はいいんだが…


「こら、そのまま寝るなーっっ」


俺の肩口に額を預けて、アレンは また すやーっと いってしまった。


「ああ もう…」


アレンの身体を抱えて部屋へ戻る、なんてのは デスクワーク派の俺には

ちょっと荷が重いわけで…


「引きずってっちゃうかな」


ぽつりと一人語ちて、けれど そうも出来ないまま苦笑して天井を見上げた。

こんな状況にあっても、彼の安心できる場所になれている自分が嬉しい。

苦笑を浮かべたまま、そっとアレンの髪を梳いた。


「さて、どうするか」


遠くで、誰かの目覚まし時計が 鳴る音がした。

















〜End〜





あとがき

お待たせ致しました!それはもう大変長らく…(滝汗。
アレン夢なのにコムイ出すぎてすみません(笑。
ほのぼの書くはずがノリがコメディ調になってしまって…(汗。
ああぁぁぁ。リクエストにお応え出来ているといいのですが…

60000HITありがとうございました!

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