エドがにキスをした。
しかもロイの目の前で。
「んーっ ちょっ…エドっ!! 何す…っ」
何するんだ!と言いかけたが ぴしっ と 固まった。
恐る恐る 横を見れば、
「た…大佐…?」
不機嫌オーラ全開のロイ。
その視線の先には エド。
「………」
「………」
「えーと…あの…」
ばちばち と 散る火花の渦中で 戸惑う。
と、エドが の手を取って走った。
「逃げるぞ !! 」
「えっ わっ エド?! ちょっとっっ!! 」
「鋼のっ!! 」
後ろから ロイの叫ぶ声が聞こえるが、お構いなしに エドは走る。
もちろん、の手は しっかり握ったまま。
※ ※ ※
「エドっ!! こら!どこ行くんだよっ」
しばらく 走らされ続け、さすがに息の上がってきたが
握られている方とは逆の手で エドの三つ編みを、くんっ と引いた。
「あでっ」
ぐきっ と 首を後ろに引っぱられ 足を止めるエド。
「何すんだよ 〜」
「それは こっちのセリフ!手ぇ離せ。」
「やだ。」
「やだ じゃない。」
きっぱり言われて、しぶしぶ手を離すエド。
「戻るぞ」
「え…」
「何?」
「来ると思うけど…」
「は?何が?」
「鋼のっっ!! 」
ずさ─────っと、横滑りしながら 廊下の角から現れたのは ロイ。
「ぅげっ 大佐!?」
「ほーら 来た」
ずだだだだっ と 走ってくるロイに、思わず背中の壁に ぴたりと張り付く。
エドは 既に 走り出している。
ロイは、の前を通過し、かなりのスピードで エドを追いかける。
「…まわりが見えなくなってるな…。」
エドとロイが走り去った廊下には、ぽつりと呟くと、
呆気に取られるギャラリーが残されていた。
※ ※ ※
残されたは、取り敢えず 戻って仕事をしようと、司令室へ取って返した。
「あれ?。大佐は?」
ドアを開けると、ハボックが 仕事の手を止めて 振り返った。
「エドと追いかけっこ中。」
「だそうっスよ、中尉」
は、ハボックが言葉を向けた方に目を遣る。
「ホ…ホークアイ中尉…」
いらしたんですね…と、頬を引きつらせながら 半カタコトで言うの目に映るのは、
ぴりぴりと 触ったら火傷しそうな空気を纏った ホークアイ中尉。
「大佐は…どこへ行ったんでしょうね…。少尉…?」
書類を書く手は止めないままに、ゆらりと視線をよこす中尉に、
「つ…連れ戻して来まっす!! 」
結局、回れ右をして 司令室を出るしかない であった。
※ ※ ※
一方、追いかけっこの方は。
「しつこいなー。大佐ー、疲れねぇ?」
「疲れたのなら、大人しく捕まりたまえ。」
「やなこった。」
ばたばたと駆け抜けていく二人を、みんな呆然と見守っていた。
右へ曲がり、左へ曲がり、上へ行って 下へ行って。
それなりに広い東方司令部内を、全力疾走に近いスピードで
走り回る 国家錬金術師二人。
「あ、いた。大佐!そろそろ 司令室に戻っ…」
ロイを探しに来たの前をも、どたばたと通り過ぎていく。
「あー………。楽しそうだね───…」
追いかけっこが 始まった理由など、彼らは とうに忘れ去っているんだろう。
ああ そうさ。きっとそうに違いない。
「………俺に どうしろってのさ…。」
猛スピードで走る彼らを止める術は、果たして見つかるのであろうか。
いや、見つけなければならない。
ホークアイ中尉が 仕事を片付けて 探しに出てこないうちに。
そう。司令部内に 銃声が響くまえに…。
※ ※ ※
「ーっ」
どうしようかと考えながら廊下を歩いていたが、
呼ばれて振り返れば ハボックが 走ってくるところだった。
「どうしたんだよ?仕事 一段落した?」
「あぁ、一通り片付けてきた…って、そうじゃなくて。」
「何かあったの?」
「大佐が、さっき 司令室の前を走っていったんだけど」
「中尉に撃たれた?」
「ちがうっ!! 発火布使ってるんだよ!大将追っかけながら!」
………んなアホな。
「発火布って……発火布ですよね…?」
「そう。」
「あの、火ィ出るやつですよねぇ…?」
「そう。」
「…………………放っといていいですか。」
「や、だめだろ。」
だめっすか、と小声で呟いたは、
「どちくしょ─────」
と叫びながら、用具倉庫の方へと走っていった。
「がんばれよー」
もう聞こえてはいないだろう声援を送ったハボックは
のんびりとした足取りで 司令室に戻った。
そこにホークアイ中尉が残っていることを、心の すみっこの方で祈りながら。
※ ※ ※
どん と、音がする。
「のわっ!」
エドの錬成した壁を、ロイが焔の衝撃で壊していくためだ。
「わーっ!何してんですか大佐ーっっ」
「壊れるっ!建物こわれるっっ!! 」
ギャラリーから悲鳴が上がる。
しかも 走りながら やるもんだから、もう そこかしこから
顔を青くした男たちの 叫び声が聞こえるのである。
「…わかりやすくて助かった。」
ふう、と 一息ついて は前方を見据える。
悲鳴の聞こえる位置から、通り道を予測したは、
司令部の端の廊下にいた。
大きな窓の並ぶ その廊下。
そのまま走ってくれば、二人は必ずここを曲がって来るはずだ。
と、案の定。エドが走り込んで来た。
壁を錬成しようと パン、と手を合わせたところでに気付いた。
「っ!?」
は、自分に背を向け床に手をつこうとするエドの襟首を引っ掴み、
勢いで 後ろに放った。
「どぁっ!何すんだよ!! 」
エドが怒鳴ったところへ、ロイが右手を構えたまま、
角から 勢いよく 姿を見せた…瞬間。
ばしゃぁっ
一瞬にして、世界が静かになった。
何が起こったか分からない、という顔の ロイ。
「…?」
ロイは、を見遣り、ああ と思った。
彼の手にあるものは、バケツ。
自分の前髪から滴ってくるのは、水。
「後片付けは、お二人で どうぞ。」
ロイに水を ぶっかけたは
にっこり笑って、二人に 後始末を促した。
※ ※ ※
日中、二人のために奔走したは、結局 自分の仕事を
定時までに終わらせることができず、残業する破目になった。
今まで 後片付けをしていて、仕事を全くしていない ロイと一緒に。
「たーいーさっっ」
「何だい?」
「手ェ 離して下さい。」
腰に回されたロイの手を ぺちぺちと叩きながら
書類を書く手は止めない。
ロイは、のデスクの隣(ハボックのデスクだ)に、
自分の仕事を持ってきて、に ちょっかいを かけている。
「もう!いい加減に 自分の仕事して下さいよ!! 」
「つれないな。」
「仕事中ですから。」
やりとりの間も、の ペンを動かす手は止まらない。
「。」
「何ですか、大佐。」
「二人の時くらい、名前で呼んでくれないか。」
私たちは恋人同士だろう?と、の耳元に囁く ロイ。
「はー…わかりました。ロイ、仕事して下さい。」
「そんな君が 大好きだよ。」
言いながら ロイは、に口付けようとする。
と、の方が一瞬早く、ロイに口付けた。
「んっ!?」
突然のことに 驚く ロイ。
が しかし、そこは ロイなので、そのキスを深めようと
の後頭部に 手を回した。
しばらく貪って、唇を離す。
「は…ぁ…」
「…」
そのまま、雰囲気で行為に持ち込もうとするロイから
は、立ち上がることで逃れた。
「?」
「俺も、大好きだよ。ロイ。」
「っ」
大好き、と 口にして言われたロイは 嬉しさに
に抱きつこうとした。
が。
「俺 仕事終わったんで、お先に失礼しますね。」
「え…」
「おやすみなさい。また明日。」
にっこり笑って は、司令室のドアを閉めた。
その夜、ロイが しょんぼりと仕事を続けたハボックのデスクには、
翌朝、ちっちゃい水溜りが あったとか…。
〜End〜
★あとがき★
ギャグ、ということで…ノリよく頑張ってみたつもりです。
笑ってやって頂けると嬉しいのですが…。
6161HITありがとうございました。
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