いたずら。









二人きりの執務室。にっこりと笑ったロイに、キスをされた。

深く口付けられ、とろりとした何かが 流れ込んできた。

これは…唾液じゃない…。


「ん…甘…何?つか、今 職務中…」


飲み込んだ液体は とても甘く、香りのきついもの。

何か酒のようなものだろうか。それにしてはアルコールを感じないが…。


「そのうち わかるよ。それより、この書類を ハボック少尉に持っていってくれないか。」

「…了解。」

「渡したら、ここに 戻っておいで。」

「はぁ?なぁ、ロイ。公私混同するの やめない?」

「戻ってこないと後悔するよ。」

「何言ってんのさ。」


軽く言い返して、ハボックに書類を渡すべく、司令室へと向かった。








  ※   ※   ※








最初に覚えたのは、軽い違和感。

服が身体に触るのが、何だか気色悪い。


歩くのが辛くなる。

一歩進むたび、擦れる服が 変な感覚を呼ぶ。


平静を装って ハボックに書類を渡し、司令室を出る。


「何…だよ、これ…」


戻ってこないと後悔するって、戻れねーよ この状態じゃ!!

むしろ執務室を出たことを後悔している。

幸い廊下には誰もいないが…


膝に力が入らなくなっていく。熱が上がるのが わかる。

ロイの執務室まで…保つのか?

誰か来たら どーすんだよ…。


「あんの アホ大佐…っっ!」


少しでも 自分を保つ為に 口にした コトバに、


「それは、誰のことかな?」


来るはずのない 返事が来た。

ぎくりとして 顔を上げれば…


「…ロイ…。」

「大丈夫…じゃなさそうだね。」

「誰のせい…っあ…」


誰のせいだと 食って掛かろうとしたら、服が思いきり身体を擦った。

油断した…俺の ばか…。


「苦しそうだね。」


そう言って 俺に触れようとする ロイの手を振り払った。


「さ…わるな」


服が擦れるだけでも 辛いんだ。触られたりしたら…


「でも、歩けないだろう?」

「……。」


それは…そうなんだけれども…。


「大人しくしていなさい」

「ひぁっ…」


一気に横抱きにされた。


「ちょっ…ロイ!降ろし…あっ…」

「暴れると 辛いんだろう?」

「っ…」


どうやら 大人しく連行される他ないらしい。

誰に見られるかわからないし、取り敢えず 具合悪いふりしとこ…。


大人しくなった俺に、ロイは満足気な笑みを浮かべた。

俺は 納得して甘んじてんじゃねーぞ…。








  ※   ※   ※








執務室に戻ると、ロイは 俺を二人掛けのソファに下ろして、ドアに鍵をかけた。

何するつもりかなんて 分かりたくないが、

俺の身体の状態が、否応無しに それを求める。


「何…飲ませやがった。」

が素直になる薬だよ。」

「何…だ、そりゃ…」


くそ…息が上がる。

つまるところ媚薬ってやつだってのは わかってるさ。

何となく 聞いてみたかったんだよ。悪いか。


「たまには、から 欲しがってくれると 嬉しいんだが」


…嫌な予感。


は、だって 拒みはしないけれど、望んでもくれないだろう?」


寂しそうに口にするが、その表情は 決して寂しさを訴えるものではない。

逃げ出したい気は満々。しかし身体は言うことをきかない。

きいたとして、この火照った状態で仮眠室やトイレに駆け込むのは、

そこまでの距離を考えると リスクが高すぎる。


かと言って、俺からロイに 強請るなんて、出来るわけがない。

一言「欲しい」と 言ってしまえば それまでなんだろうが…

んなこと言えるかっっ!!


そんな俺の葛藤を 知ってか知らずか、ロイはソファの上の俺を ころりと転がし、

俺は、ロイに背を向ける形にされた。


「だから、。欲しくなったら 言いなさい。」


と言いながら ロイは、俺を 後ろ手に 縛ってしまった…。

最悪…。


「この状態で 放っとかれんのかよ 俺!! 」

「ん?だって まだ欲しくないんだろう?」

「っ…」


殴りつけてぇ…。

ロイは 俺の頭を ひと撫ですると、執務用の机に向い、書類を捲り始めた。

…本気かよ…。


「な…ロイ、俺 何かした…?」


にっこりと笑ったロイの表情から、何かを読み取ることは 出来なかった。









  ※   ※   ※









ふわふわする。

意識が朦朧とする。

熱い。

あつい。


一体どれくらい時間が経っているのか。

もう 随分 熱に浮かされている気がする。

でも、もしかしたら あれから まだ10分と経っていないのかもしれない。


例えば こんなことを考えていられるだけ マシなのか。

思考を飛ばせば、何を口にするか、もう 分かったものではない。

それとも その方が、ロイにとっても、俺が楽になれる方法としても、良いんじゃないか…?


つか…何で俺は こんなプレイをするハメに?

そう思ったら、腹立ってきた…。


このままでも、仮眠室くらいまでなら 何とかなるんじゃねぇかって気さえしてくるあたり、

もう既に まともじゃないのかも知れないけれど。


「…?」


身体を起こした俺を ロイが 訝しげな声で呼ぶ。

それを無視して、ふらふらと ドアへ 向かおうとしたら、

後ろから 腰を捕らえられる形で 抱き止められた。


「どこへ 行こうと?」

「ど…こだって、いい だろ…っ」

「まさか、他の誰かに その熱を解放してもらおうとでも?」

「ちが…っあ…」

「私には 言えなくても、他の男になら 言える?」

「そんな…ことは…」


ない、と 言い継ぎたいのに、

ロイに触れられたところから 熱が伝い、もう それどころではない。

俺の身体は、思ったより焦れていたらしい。


「っ…あ…あ、あっ」


ロイの手が、自身を 服の上からニアミスしただけで、果ててしまうほどには…。


「可愛いな、


後ろから抱き締められたまま、軍服のズボンの上から、

そこを確認するように触られて、耳元に囁かれる。


濡れた下着が気持ち悪いのに、まだ 熱は収まらない。

下着が 受け止め切れなかった それが、足を伝う その感覚に、

膝の力が 完全に抜けた。

崩れ落ちるかと思えば、それは ロイの腕によって支えられる。


「い…やだ。ロイっ…もう…」

「もう…何だい?」


このやろう…。

何が何でも 言わせる気らしいロイは、俺の身体を支えたまま、服を脱がせ始めた。

多分、俺を逃げられない状況に追い込むため。

って!ソックスだけ 残すのやめろよ!!


「おやじくさ…っ!」


と言ったら、内股をなで上げられた。

薬の入った身体には キツイなんて もんじゃない。


そのまま ソファに うつ伏せに倒され、膝を立てられる。

あまり考えたくないが…この体勢って、丸見えなんじゃ…


「まだ 欲しくならない?」


後孔を 指でつつかれ、身体が震える。


「ふ…あっっ…やっ!」


ロイの指は、そこを つついたり、軽く押したりするばかりで、入ってこようとはしない。

中を探られる快感を知らなければ、こんなに焦れることは ないんだろう。


「う…んっっんっ」

「強情だな。」


ロイは 小さく溜息を吐くと、後ろを弄る指はそのままに、前に手を伸ばしてきた。


「ひぅ…っ」


ぐい と、先端を擦られて、2度目の精を吐き出す。

白濁が ソファを濡らすのを目にしてしまい、羞恥に また熱が上がる。


薬は まだ抜けていないらしい。

疼きが治まらない。身体の奥が 熱い。

ロイとのセックスに慣れた身体は、吐精しただけでは 疼きを解消することが出来ないんだ…。


「あ…っ!やめ…っっ」


イったばかりの過敏な身体を ゆるゆると擦られる。


。言ってごらん。どうして欲しい?」


耳元に囁く声音は優しい。が、その指先は とても意地悪で…。

ちくしょう 理性がなんだ!


「…しい…っ」

「ん?」

「ほしい。ロイが…欲しい。」


残っていた理性を 蹴り飛ばして。

ソファに うつ伏せたまま、望みを口にした。


「も…い…れてっ」


言ったと同時に、つぷり と ロイの指が 埋め込まれる。


「あ…」


慣れた身体は それだけで、ロイを受け入れることを望む。

くちゅり、と 音を立てて 掻き回される そこは、物足りなさを訴えてやまない。


「な…ロイっ…も、いいから…っ」

「慣らさなくて 平気かい?」

「いい…から、ロイ…のが、欲し…っ」


ずるり と、引き抜かれる指に、背筋が震えた。

抱き起こされ、ソファに腰掛けたロイの 膝の上に、

ロイに背を向ける形で 下ろされる。


入り込んでくる 熱。


「ふ…あっ…あ…ついっ」


俺自身の体重で、かなり奥まで 受け入れることになる。


「ん…ふっ…ロイ…もっと…」


頭が、ふわふわする。気持ちいい。

良すぎて、どうにかなりそうな、そんな感覚。

もう、自分が 何を言っているかなんて、わかっちゃいない。


「ロイ…好き…だからっ」

?」

「大好き だから…。んっ…離さないで…おねが…っ」

…」


奥に叩きつけられる熱を感じながら、俺は 3度目の熱を 解放した。








  ※   ※   ※








「だるい…」


3度 達しても まだ完全に引いてくれない熱に、

ソファに横たえた身体を動かすことさえ 億劫だ。


「まだ 辛いなら、もう1度くらい イっておくかい?」


囁かれて、誘惑に 負けそうになるけれど、


「だめ。」


上げたくない腕を上げて、ロイを押しのける。


「俺、まだ 仕事終わってない。これ以上やったら 本気で動けなくなる。」

「そんなこと、気にする必要は…」

「あるに決まってんだろ。」


睨みつければ、ロイは 仕方ないといった風に、放ってあったYシャツに手を伸ばし、俺に着せ掛けた。

って…結局 脱がせてもらえなかったソックスと相俟って、ものすごく嫌な感じだ。


と。コンコン、とドアがノックされる。


「ぅげっ」

「大佐ーぁ。書類 持ってきたんスけど…」


ハボックだ。ハボックが来た。来ちまった!


「鍵なんて閉めて、何やってんスか大佐ぁ」


だるい身体を起こし、落ちている下着を拾おうとして、

そういえば 汚していたんだったことを 思い出した。…最悪…。

泣きたくなりながら、仕方がないから 直にズボンを履く。

…スカスカする…。


それを確認してから、ロイが 鍵を開けに立った。

Y シャツのボタン…閉めた方がいいな。


しかし、この状況を誤魔化すのは 少々キツいな…。

よし。ここは 寝たふりで!

ぽすっと、ソファに倒れ込むと ほぼ同時に、ハボックが入ってきた。


「あれ?…?何で こんなとこに…」


と、入ってくるなり俺を認め 呟く。


「ああ、少し 具合が悪いらしい。」


白々しい…。お前のせいだよ と、ツっ込みたい気は満々だ。

ハボックは、本当に書類を提出しに来ただげらしく、すんなり 司令室に帰っていった。


「たぬき寝入りかい?」

「うさぎ寝入りとは 言わないな。」


捻くれた切り返しをしたら、ロイが あからさまに溜息を吐いた。

…何だよ。


「さっきまでは、ものすごく 可愛かったのにな…」

「は?」


さっきとは 何ぞや?


「離さないで、って 言ったろう?」

「俺が?」

が。」


何だそれ…全然覚えてないんだけどっ!!


に そこまで言わせることができるとは…薬というのも たまにはいいな。」

「っっ…いいわけ あるかーっっ!! 」



その後、ロイが俺に媚薬を飲ませたのが、ほんの悪戯心だったことを知り、

何だか ものすごく頭にきたから、

俺は 1週間、ロイと 口をきいて やらなかった。













〜End〜





★あとがき★
テーマが「媚薬」から「焦らし」に変わってしまっているような気が…。
コレ、書いてて めちゃくちゃ楽しかったです(笑。

7777HIT ありがとうございました。


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