好きの しるし





「おーっス、やってるかー?」


12月5日、少し冷たい風の吹く日中。

氷帝学園中等部のテニスコートは、突然現れたOBの姿に、色めき立った。


先輩!お久しぶりです!」


嬉しそうに声をかけたのは、3年 忍足。


「よー、元気してたか?」


笑って答えるは、春に中等部を卒業し、

そのまま高等部へ上がった 元テニス部 正レギュラーである。


先輩、今日は何故?」


改まって聞いたのは、部長 跡部。


「え?ああ、用がなきゃ、来ちゃいけね?」

「いや、別に そういうわけでは…」


珍しく 跡部が しどろもどろになる。

というのも、の その顔に張り付いた笑みは甘く、

在学当時から とにかく 青少年の目には毒だと言われ続けてきたのだ。


「なんてな。今日は、若を迎えに来たんだよ。」


さらりと告げられた用件は、その場にいた を知る者をフリーズさせた。


「つーわけで、練習終わるまで 見てるか…」

さん!?」


見てるから、と言い終わらないうちに、日吉がコートに入ってきて

目を丸くして 声を上げた。


「よー、若。」

「なっ…何やってんですか こんなトコで…。」

「こんなトコって、テニスコートに向かって…」

「それは置いといて下さい!そうじゃなくて…っ」


慌てふためく日吉は、それが墓穴を掘っていることに気付かない。


先輩…あの、何で日吉を…」

「え?ああ、だって今日 こいつの誕生日だし。」

「誕生日を祝うような仲なんですかっ?!」


他の誰の誕生日にも来たりなんかしなかった

何故 日吉の誕生日に顔を出すのか。


「ん?ああ、一応 彼氏?」


ふざけたように笑ったの、しかし その言葉は本当だと言わんばかりに

日吉に くっつく動作は、一気にレギュラー陣に 火を点けた。


「日吉〜っ」


詰め寄られ、青くなったり赤くなったりしている日吉を放っては、


「おー、宍戸 髪切ったのかー。」


なんて、呑気なことを言っている。

そんなを少しばかり恨みがましい目で見ながら、

でも やっぱり 嬉しかったりする日吉なのであった。








  ※   ※   ※








「まったく…さんの お陰で散々でしたよ。」

「そーか?」

「そうですっ!」


帰り道。話をしながら歩いて、二人は小さな公園へと足を向けた。


「こんなに急じゃなかったら、さんも呼べたのに…」


夜、家族が誕生日を祝ってくれるのは毎年のことで、

昨年は も それに お邪魔したのだが、今年は 事前に断っていた。


「仕方ないだろ?急に部活が無くなったんだから。」


本当なら、今日は夜まで部活をしているはずだったは、

中止の連絡を受けるなり、日吉の元へと走ったのだった。


「会えたんだし、良しとしてよ。」


な?と笑うは、その笑顔を見慣れているはずの日吉さえも

一瞬にして落としてしまう。


さんには、絶対敵いませんね。」

「あれ?下克上は?」

さんに限り、テニス限定です。」


あと ベッドも、かな と茶化して。


「ぷっ…何だそれ」


くつくつと笑うを、日吉は 穏やかな気持ちで眺めていた。








  ※   ※   ※








「さって、そろそろ帰るか。」


しばらく話をして、そろそろ五時を回ろうかという頃、

が 座っていたベンチから 腰を上げた。


「ほい、これ。」

「え?」


ぬっと 日吉の目の前に差し出されたのは、小さな紙袋。


「プレゼント。」

「あ、ありがとうございます。」


日吉が礼を言うと、が 照れたように苦笑した。


「一応ペアなんだけどさ」


というの首元に、銀色のチェーンが見えた。


「鳳じゃ、ないんだけどさ」


チャラっと音を立てて、シャツに隠れたそれを 表に出す。


「つけてて欲しいんだ、ずっと…」


の胸元にあったのは、チェーンと同じ、銀色の指輪。


さん…」

「安物だけどさ」


本物は 職に就いてからな、と笑うは やはり綺麗で。


「そんな先のこと…」


思わず言った言葉に、は 小さく笑った。


「いーだろ別に。今、愛してんだから。」


すぱっと言い切っては、素早く周囲に目を走らせると、

さっと日吉に抱きついて、その唇を 彼の それに押し当てた。


「んっ…!?」


軽く絡んで離れたそれに、日吉は自分が赤くなるのを感じていた。


「こんなところで…」

「関係ないよ。『好き』と 場所は。」

「…屁理屈…」

「何か言った?」

「いいえ!」


そうして二人で くつくつと笑い、もう一度キスをして

それぞれの帰途についた。


甘く残った唇の感触と、甘いの声に 日吉は、

緩んでしまいそうになる頬を、理性で抑えながら家に帰った。


自室に戻った瞬間、無茶な使い方をした理性は敢え無く崩壊し、

日吉は、くすくすと 笑いを止められないまま、

に貰ったプレゼントを胸に抱えて、しばらく甘さに浸っていたのだった。



翌日。日吉の首元に覗いた、リングをつけたチェーンに、

テニス部の朝練が 絶叫の嵐だったのは、言うまでもない。














〜End〜





あとがき

逆ハ風味に日吉誕生日夢でした(笑。
ほんとに風味だけでしたけどね(大笑。
日吉のキャラが変わっている気がしないでもないですが…
まあ、ご愛嬌です!(無理矢理)

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