我慢なんて できっこない





!」


部活を終えて学校を出ようとすると、校門の所に彼が立っていた。

連れ立って歩いてきた男子テニス部のメンバーの中に、声を上げた俺を見つけて

彼は ふわりと笑った。


「おつかれさま。」


白いシャツに黒いコットンパンツという姿で、さらさらの髪を風に任せている

彼の笑みは、晴れた5月の空が とてもよく似合う。

午後3時の空は キラキラと青葉を照らし、彼の笑顔に光を添える。


「何やジロー、知り合いか?」


忍足が、に見惚れたようになりながら聞いてきた。

忍足だけじゃなく、みんな唖然としたようになって を見ている。


「知り合いって言うか…恋人?」


にーっと笑って答えれば、えー!だの、うそー!だの声が上がる。

すらりとした体躯に、甘やかな笑みを浮かべたは、中性的ではあるけれど

女の人には見えないから、うっかりカミングアウトってやつだ。

ま、気にしないけどね。


「じゃあね、みんな。また明日!」

「あ、おい、ジローっ!」


走り出そうとしたら、宍戸に呼び止められた。


「ん、何?」

「誕生日おめでと。」


っても、プレゼントは忘れてたんだ、と苦く笑って、けれど恋人が迎えに来たなら、と

宍戸は自分のサイフの中身を覗き、何かを探したあと、目的のものがなかったのか

チッと舌打ちして、鳳のカバンの内ポケットを探った。


「お、あった。」

「え、うわっちょっと宍戸さん!」


慌てる鳳は さらりと無視して、宍戸が それを俺の制服のポケットに押し込んだ。


「俺からのプレゼントだ。もらっとけ。」

「って、鳳のじゃん。」

「変わんねぇよ。あー…まぁ、2人からってことでいいや。」

「何それ。」

「いーから行け!ほら、待ってるぜ!」


何故か赤くなりながら宍戸が追い立ててくる。よくわからないけれど、

を待たせてることも事実だから、もう一度じゃあね、と言って駆け出した。


「ん、もういいの?」


の側まで来ると、ふわふわとした笑顔で、まだ話していてもいいのに、と 告げられる。


「いーの。早く行こ。」


あんまりを ここにいさせると、跡部や忍足が よからぬ行動に出そうだし

と言うと、は苦笑して、


「氷帝の男子テニス部は そんなに性癖が偏ってるの?」


なんて、からかうように言った。


「んー…どーだろ…。」


はっきりとした肯定材料があるわけじゃないけれど、否定もしきれないのは…まぁ、うん。

俺の反応に くすくすと笑いながら、は 近くに止めてある車を指した。


「今日は車で来たんだ。乗って。」

「へ?、免許持ってたの!? 」


そんなことは初耳で、思わず声を上げた俺に、は一瞬きょとんとしてから

また すぐに笑い出した。


「そんなに びっくりすること ないじゃない。」

「だって、なんか イメージじゃないんだもん。」


は今年20歳になるって年だから、免許を持ってたって何も不思議じゃないんだけど…

俺が そう感じてしまうのは、出会った頃の俺たちの関係が「お昼寝仲間」だったからだ。


去年の秋だったかな、俺がいつも昼寝して帰る公園の、いつも寝ているベンチに、

寝ていたことがあって、その寝顔が あんまり無防備だったから、こんなとこで寝たら

危ないよって言ったら、でも眠いんだって目を擦りながら言ったがすごく可愛くて、

俺はイッパツで目が覚めてしまった。

が そのまま また寝ようとしたから、しょうがないから ついててあげるって言って

側にいた。それが始まり。


それから仲良くなって、大学生だって言うは、ときどき公園に来てて、

俺が寝ようとするとベンチに座って膝枕してくれたりもした。

そのうち、週末には一人暮らしのの家に遊びに行くようになって、

やっぱりそこでも 一緒に お昼ねしたりして、それで…まぁ…

Hなんかも、するような仲になってしまったわけだったりする。


好きだって言って、抱きたいんだって言ったら、すごく すごく困った顔をしたは、

赤くなって、すごく すごく迷って、それから こくりと頷いてくれた。

実は 男に抱かれた経験があるんだって、ぽつりと言ったも、すごく可愛かった。


そんなこんなで半年くらい、徒歩圏内の公園なんかでしか会ってなかったこともあって、

俺の中に が車を運転するというイメージは全くと言っていいほど ないんだ。


「ハンドル握ったら人変わったりとか、しないよね…?」

「しない しない。大丈夫。」


助手席に乗って、シートベルトを締めると、も運転席でシートベルトを締める。

ややあって、するりと 車が滑るように発進した。


「何でオートマ?」

「限定免許だから。」

「何で限定?」

「難しいことしたくなかったから。」

「あ、そーなんだ。」

「うん。」


普通にしてたら可愛いって言うよりはカッコイイ系のだから、てっきりマニュアル車でも

乗りこなしているのかと思ったんだけど…


「難しいことすると、テンパっちゃって危ないからね。」


なんて苦笑するは 可愛くて困る。


「さて、どこ行きたい?」

「んーとね、の部屋。」

「あのねぇ…」


素直に答えたら呆れられた。


「俺の部屋はダメ。明日は平日でしょ。」

「だって…」

「どこかない?水族館とかさ。」


今日は するつもりはない、という態度のに、しょうがないから 我慢しようと決めて、


「んー、テニスコート。」


と答えた。


「今、部活してきたばっかりなのに…」


ホントに好きなんだねぇ、と感心したように言ったは、じゃあテニスコートだね、と

甘く笑って 進路を取った。


「あ、そうだ。」


すっかり忘れてた。さっき宍戸にもらったプレゼント。

一体何をくれたんだろうと思って、ポケットを探った。


「え…」

「どうしたの?」


ポケットから引っぱり出した それに、ちょっと というか かなり驚いた。


「恋人が迎えに来てるなら…って…」


これはちょっと あからさま過ぎやしないだろうか、と誰もが思うに違いない。

俺の手に乗っていたのは、6センチ角ほどの、薄っぺらい袋…。


「ちょっと ジロー、何で そんなもの…っ」


赤信号で車を止めたは、俺の手の上のものを見て赤くなった。


「や、友達が くれたんだけど…」


それは 紛れもなく、コンドームというやつで。

宍戸が鳳のカバンの内ポケットから探り出して2人からだ、と言ったのは つまり…。

あ、いいや。考えないでおこう。


「近頃の中学生は…」


信号が青になって 再び車を発進させたは、困ったように眉を寄せていた。

多分、俺が使いたそうにしているのを感じ取ったんだと思うけど。

手の上のそれは、俺の決心にヒビを入れてくれたみたいで、

やっぱり我慢なんて 出来そうになかった。


「ね、。やっぱり…の部屋がいい。」


これ使いたい、と 素直に告げてみる。


「却下。明日は平日だってば。」

「じゃ、車でする?」

「あのねぇ…運転手に どんな無茶させるつもりなの。」


腰がつらいときに 座ってるのはキツイんだけど?なんて、冷たい目で睨まれた。


「じゃあホテル。」

「ジロー…そんなに したいの?」

「したい。」

「テニスコートは?」

「テニスより がいい。」


きっぱりと言い切ったら、は小さく溜息を吐いた。


「中坊のくせに…」


ぽつりと呟かれた言葉に 一瞬、怒らせてしまったのかと身構えたけれど、

は すぐに、ふっと苦笑した。


「まったく…俺も いけない お兄さんだよね。」


言いながらは 車を操って路地に入り、目的地の変更を告げた。


「仕方ないから、俺の部屋 連れてくけど…」

「マジ!?」

「でも、するのは1回だけだからね。」


明日は平日なんだから、と言うに、どうして そこまで平日に拘るかな、

と聞いてみれば、


「ジロー、授業中には どのくらい居眠りしてる?」


なんて、質問の形で わかりやすい答えをくれた。


「あー…えーと…」

「俺と付き合ってるせいで 成績落ちた、なんてのは嫌だからね。」

「努力します…」

「よろしい。」


なんて、言って言われて笑っている間に の住むマンションに着いた。

地下駐車場へと車を滑り込ませて、所定の位置に車を入れると、シートベルトを外して、

が運転席から身を乗り出し、助手席に座ったままの俺にキスをくれた。


「ハッピーバースディ、ジロー」


照れたように言うが可愛かったから、ベッドの上で もっと言ってもらおう、と思った。













〜End〜





あとがき

ジロちゃん誕生日おめでとうございます!
年上なのに可愛い可愛いって思われてる主人公が微妙(笑。
でも、「可愛い」って口に出して言われてないのは、言うと怒るから(笑。
急いで書いたので物足りない感じがあるかもしれませんが…
ほのぼの甘々だからってことで!(どこがよ。)
うっかり鳳宍なんかも入っちゃってすみません(笑。
なんかもう 笑って誤魔化してばっかだな(苦笑。

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