「何で平日かなぁ…」
はぁ、と1つ溜息を吐いて。
「どうしようかなぁ…」
自室のベッドの上、は枕を抱いて ごろりごろりと転がっている。
9月11日、日曜日。明日は恋人の誕生日という今日。
は、いまだプレゼントを決めることが出来ずにいた。
「今日だったらなー」
デートに誘って、いっぱい遊んで、最後は「僕をあげる〜」で締め、なんて。
「あの計画が使えたのにな」
実は それはクリスマス用に考えたプランだったりするのだけれど。
人に、恋人に何かをあげるという行為は、とても緊張するもので、
何をあげたら喜んでくれるだろうか、とか、やたらなものをあげて
嫌われてしまいはしないだろうか、と考えて、ぐるぐるしてしまうのだ。
感覚としては、どきどきわくわく?もやもやうつうつ?うにうにむにむに…?
何だか よくわからなくなってくる。
「どうしようかなぁ…」
ごろん、と うつ伏せに転がり、そのまま ふてねしてしまおうとして
ふと思いつく。
「あ、そうか!そうだよ!!」
がばっと勢いよく起き上がり、は 枕元に放置していた携帯を
掴み上げると、メモリーから 彼の番号を呼び出した。
数回のコール音のあと、慌てたように通話に切り替わる。
「もしもし岳人?あ、部活中?」
今 休憩が終わるところだと言う岳人は、けれど嬉しそうに
何かあった?と聞いてくる。
「あ、うん。あのさ、明日なんだけど…」
要件を告げて、絶対だよと念を押して。じゃあね、と告げた声が弾む。
通話を切ると、は 財布を掴んで 部屋を飛び出した。
※ ※ ※
翌日。昼休み。
「はい、これ」
「お、サンキュ」
テニス部 正レギュメンバーが集まる屋上。
岳人の誕生日プレゼントに が用意したのは、お弁当。
「僕の、朝の、貴重な時間を費やしたんだから」
それを ぽん、と手渡しながら、
「残さず食べてね」
は にーっこりと笑った。
「お、おう」
その笑顔の何とも言えぬ迫力に、少々たじろきながら
岳人は こくこくと頷く。
「なんや、岳人。愛妻弁当か?」
「…愛妻?…妻…?」
忍足が、ひゅう と 岳人に投げかけた からかいを
岳人に届く前にが受けた。
「忍足…君は今、僕を女扱いしたの?」
「え…?あ、いや…」
ゆらりと冷たくなったのまわりの空気に、
忍足は即座に自分の発言を呪った。
「あーあ、やっちまい やがった」
「いい加減に懲りればいいものを…」
ぼそぼそと、宍戸と跡部が少し遠くから非難する。
は、女に間違えられることが多く、痴漢にあったことも
1度や2度ではないために、女っぽいと言われるのが大嫌い。
というのは、氷帝の生徒なら誰でも知っていることだというのに。
「、落ち着けって…」
「岳人は、だまってて」
諌めようとした岳人を、は くるりと振り返った。
冷ややかな笑顔とともに。
その表情に岳人が、うっと息を詰める、と同時に
能天気な声が響いた。
「ひゃーすっげーっ、うまそーっっ!」
「って、おいジローっ!人の弁当 勝手に開けんなっ!」
の手作り弁当を自分より先にジローに開けられて岳人が怒鳴る。
それをきっかけに、のまわりの空気が 少し和らいだ。
「忍足」
「はいっ!」
「懲りてね」
「…はい」
がくがくと 音がしそうなほどに頷く忍足を見て、はようやく
ぴりぴりとした空気を解いた。
「っ!これ本当にが作ったのか!?」
キラキラと今にも輝きそうな瞳を向けてジローがに叫ぶ。
「失礼だね。僕が作ったんじゃダメ?」
答えるの声は笑っていて、忍足は そっと安堵の溜息を吐いた。
「そうじゃないけど、だってこれ…すごいよ…」
四角い弁当箱を半分で仕切り、ごはんとおかずが詰めてある。
ごはんの上には、甘辛く味を付けた そぼろを敷いて、
その上に さくらでんぶで HAPPY BIRTH DAYと
器用に書き付けてあり、残りの半分の おかずは、
岳人が好きなから揚げを筆頭に、玉子焼き、タコさんウィンナー、
ほうれん草ともやしのおひたしに、うなぎの蒲焼、と
細やかに様々詰めてあった。
「…うなぎ…?」
感心したように弁当を眺めていた岳人が、その1点に
こきっと首を傾げた。
弁当に うなぎ…他におかずがあるのに うなぎ…何故?と
少しぐるぐるしてしまう岳人に、が応えた。
「え?あ、だって今日は、岳人に精力つけてもらわなくちゃだから」
「へ?」
「部活終わっても元気なようにね」
にこっと笑ったに ドキっとしながら岳人は、何で、と問う。
「今夜は、泊まりに来て」
うちの家族にも、岳人の家族にも了解とってあるから、と応えられ
岳人は、赤くなって固まってしまった。
「うわ、露骨…」
たりたりと汗をかきながら、宍戸が引き気味に呟く。
何故かと言えば、彼の隣にいる鳳が、羨ましそうにと
岳人を見つめているからだ。
「つか…受け身のくせに辛くねぇの?」
明日平日じゃん、と躊躇いがちに問う宍戸に、は笑って返す。
「平気。岳人は無茶しないから」
「あ、そ。」
「けど…は 何で受け身なん?」
「え?」
「だって…ホラ、女扱い…」
言いにくそうに忍足が言うと、
「そんなの、中がイイからに決まってない?」
平然と そんな答えが飛ぶ。
さいですか、と顔を引き攣らせる忍足の声に、
それまで固まっていた岳人が、ばばばっと動いた。
「あれ、岳人?」
「おっ俺、教室で食うからっ!」
言うなり弁当箱を持って屋上からおりて行ってしまう。
「居た堪れなかったんだろうな」
すぱっと言い切られた跡部の一言に、は きょとんと
彼を見返し、それから くすりと笑った。
「まあ、どうせ すぐ教室で会うし」
そう、と岳人は同級生。同じクラスで、ついでに席は前後。
あと20分もしないうちに再び顔を合わせることになるから。
「岳人、おいしかったって 言ってくれるかな」
くつくつと笑うを、正レギュメンバーたちは、
その場に居合わせてしまった自分と、真っ赤になって逃げた
岳人を 少しばかり哀れみながら、当人たちが幸せなら それで…
と、小さく吐息するのだった。
〜End〜
あとがき
難産でした。岳人夢。岳人ほとんど喋ってないし…。
他キャラの方が目立つ誕生日夢って一体…(涙。
主人公も何だかとっても黒い人になっちゃって…
色々影響されやすい自分が痛い感じで…。
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