年賀の夜の来訪者





両親が 海外転勤で家を空けて5年。

今年の正月も 忙しくて帰れそうにないと 連絡が来たのは12月の頭。


「あ、母さん?うん、元気 元気。」


それでも、やはり 悪いと思っているのか、31日の夜には

毎年 必ず 電話をくれる。


「こっちは あと5分くらいで 年が明けるよ。」


毎年、正月は も こっちへおいでと 誘ってくれる両親の、

けれど その多忙さを知っているから、何かと理由をつけては断ってきた。

今年も そうやって 1人で正月を迎えることを決めている。


「うん、うん。ありがとう。母さんも体には気をつけて。父さんにも よろしく。」


電話を切って、ふっと吐いた息は、少しだけ重かった。


電話を切ってしまえば、1DKのアパートに響くのは 時計が秒を刻む音のみ。

フローリングの床に反響して、その音は かなり大きく聞こえる。

いっそ テレビでも つけっぱなしにしてしまおうかと思う。

うるさいのは 好きじゃないが、耳が痛くなるほどの静寂は もっと好きじゃない。


せめて、時計くらい 音のない物に変えようか。

静けさを誇張するような この音がなければ 平気かもしれない。


そんなことを考えながら こちこちと 規則的に音を立てている時計を見遣ると

時刻は 既に 午前零時を回ってしまっていた。


「あちゃー、年越しそば 食べ損ねた。」


ダシから取って、完璧な汁を作って、ねぎを切って、

あとは めんを湯がくだけ、というところで 電話がきたのだ。


「年明けそばってのは有効か?」


まあ、せっかくあるんだから 難しいことは考えずに食べよう。

そばは 5玉一袋の特売品を買ってきた。というか 間違えて買った。

どう頑張ったって 1人で5玉は多い。

おせちも 作ってしまったから、何だかもう キッチンは 食物だらけだ。


新年早々 色々と後悔に まみれながら、めんを湯がくべく

お湯を沸かそうと 鍋に水を入れて火にかけた。


と、玄関でチャイムの音がした。

誰だ?こんな時間に…

訝りながら火を細くして 玄関へと向かう。


「はーい、どちら様?」

「こんばんはー。俺や俺ー。開けてー。」


問うた俺に答えた声は、低い声で それなのに テンションは高い関西弁。


「…侑士。こんな時間に 何の用?」


ガチャリとドアを開け 睨み上げれば、深夜の訪問者は、

悪びれた風もなく、にっこりと笑った。


「あけまして おめでとう。今年も よろしゅう。」

「もしかして…それを言いに来たわけ?」


呆れて問えば、


「ちゃう ちゃう。愛しいの顔が 見たなって。」


なんて、あっさり言ってくれるもんだから、思わず赤面してしまった。


「お、真っ赤。」


つい と 頬をつつかれ、その指先の冷たさに ぞくりと 身を竦めた。


「お前、指 冷たっ!」

「ああ、手ぶくろ して来んかったからなぁ。」

「じゃ 触んな。」


ぺちりと 侑士の手を叩き落とすと、


「ひどいなぁ…愛しい彼氏に向かって。」


と言いながら、それでも侑士は笑っている。


「はー…ったく。上がってよ、お茶くらい出す。」

「そ?じゃ、遠慮なく。」


いそいそと上がり込む侑士の後から中に入り、鍵をかけてキッチンに立つ。

ダイニングが見える このカウンター式のキッチンは 俺のお気に入りだ。


「あ、そーだ 侑士、そば食べない?年明けそば。」

「何やそれ…」


年明けそばって辺りが引っかかったんだろう、侑士がツっ込もうとする。


「いーから、食べるの 食べないの?」

「…いただきます。」

「1玉?2玉?」

「…2玉。」

「了解。」


先程 火にかけた水を、大きめの鍋に移し替え、更に水をたして火にかける。

取り敢えず、俺は1玉でいいや。


「侑士、ついでに おせちも食べない?」

「は?」

「いやー、作りすぎちゃって。」


父方の祖母が、やたらと材料を送ってくれたおかげで、

それは 重箱3段になってしまっている。


「こんな夜中に、そんなに食わせんといてー。」


苦笑して言いながら侑士は もそもそと こたつに入る。

そう、俺は ダイニングに こたつを置いている。


椅子とテーブルは 隅の方によけて、カーペットを敷き こたつを出すのが

俺の冬の始まり。食事もテレビを見るのも こたつ。

だって、あったかいじゃん。


「侑士って、こたつが似合うよね。」


出来上がった そばを持ってキッチンを出ながら言えば、


程やないで?」


と きた。何、ソレは俺が ジジくさいってことか?


「こたつに入って ぬくぬくしてる時のな、」


続けて侑士は にやりと笑う。


「めちゃくちゃ 可愛い顔すんねん。」

「なっ…」

「はー幸せー、みたいな顔。」

「何ソレ…」

「自覚ないん?」

「ない。」


あるわけなかった。確かに俺は こたつが大好きだ。大好きだが、しかし

そんな 腑抜けた顔をするなんてことは知らない。


。俺以外の前で こたつに入ったら あかんよ。」

「アホ。」


真剣な顔して 変なこと言うなっての。恥ずかしい。


「取り敢えず そば。のびるから食べて。」


言って、俺も 侑士の左隣の辺に入る。

小さな こたつだから、一辺に1人が やっと ゆったり入れるくらい なんだよな。


「いただきます。」


ずずっと そばを啜って、侑士は ほう、と息を吐く。


「ん、うまい。」

「それは よかった。」


それきり、部屋に響くのは そばを啜る音と、時計の音だけになったが、

侑士がいる というだけで、それも悪くないと 思えてしまうから不思議だ。


「ごちそうさんでした。」

「おそまつさまでした。」


食べ終えて、どんぶりを片付けようと こたつを出ると、


「片付けなんて、朝でええやん。」


なんて 侑士が唆すから、下げるだけにして 洗い物は 朝に回すことにした。

どんぶりを 一応 水につけておいて、元居た場所に戻ろうとすると、


、こっち。」


侑士が、自分の膝の間に座るように、こたつの布団を捲って俺を呼ぶ。


「おいで、。ええ子やから。」

「その言い方、俺が 駄々っ子みたいじゃないか。」


実際に駄々を捏ねているのは侑士のくせに。 そう言ったら、


、ここに来て?」


今度は強請るような言い方になった。

どうしても 俺を そこに座らせたいらしい。


「なー、。せっかく おめでたいんやから…」


言うこと聞いたってー、と甘えるような声を出されて、

あんまり可愛くないんだけど、と 思いながら 仕方なく 聞いてやることにした。


「今日だけだから。」


ぶっきらぼうに言い放ち、脚を伸ばして広げている侑士の膝の間に座る。

お。いい感じかも…。こたつに入ってる下半身が温かいのは当然だけど、

背中に侑士の体温があるから、上半身も ぬくぬくだ。


「ほら、やっぱり。」

「え、何?」

「めちゃくちゃ 可愛い顔しとる。」

「はぁ?」


ぎゅう、と 背中から抱き締めてきた侑士が、こたつの中で器用に脚を絡めてくる。


「って、ちょっと侑士っ!何して…」


焦る俺には お構いなしで、侑士の脚は くいくいと俺の脚を開かせていく。

何とか閉じようと奮闘するが、抵抗虚しく 終には侑士の手が 俺の股間に落ちた。


「こら 侑士っ!何考えてんのさっ」

「何って…えっちしよーって。」

「なっ…!」

「可愛すぎるんやもん。我慢なんてきかんわ。」


脚を侑士の脚で縫いとめられ、上半身は片手で胸に抱え込まれて、

自身は既に 侑士の手の中で ゆるゆると 甘やかされている。


「や…っ侑士っっ」

「まぁ、ほら、姫始めっちゅーこって。」


なんて言われて納得できるか!


「事始めは…正月二日だ…っっ」

「色欲に 暦は関係あらへん。」


俺の苦情は あっさり切って捨ててくれた侑士の手は、易々と俺を煽り立てる。


「ん…くぅっ」


弱い先端部分を 捏ね回されて、もう 身体に力が入らない。


「こたつって ええなぁ…」

「は?」


いきなり何を言い出すのかと思えば、


「見えへんのが、痴漢ごっこっぽくて。」


そんなことを続けて、侑士は 満足そうに笑った。


「こっの…っっ」


ふざけるな と、怒鳴りつけてやりたいのに、急所を捉えられて、しかも巧みに

煽られていては、口から出るのは 吐息交じりの喘ぎのみだ。


「や…だっもう、侑士っ」


しつこく感じる部分だけを弄られて、イきそうになるのを なけなしの理性で抑える。

だって、このままイったら 掃除が大変だ。


俺の意思が伝わったのか、侑士は 近くに置いてあったティッシュボックスから

2、3枚 ティッシュを抜き取り 俺の自身の先端を覆うように押し付けてきた。


「イってええよ、。」


背後から耳元に囁かれ、ティッシュ越しに 先端の孔を押し広げるようにされて、

ティッシュの ごわごわした感触に、それを そのまま押し込まれてしまうんじゃないか

と思うような 倒錯感を覚えさせられる。


「ひぁぅっ…ん やぁぁぁぁっ」


激しい絶頂感に、身体が びくびくと痙攣する。

出したものは すべて ティッシュに受け止められた。


「あ…も、やだ…」


ぐったりと 侑士の胸に背を預ける俺の それを軽く拭って


「さて、と。」


侑士は立ち上がり、俺を こたつから引きずり出した。


「あ…」


と、視界に入ったのは、ズボンの前開きから出されたままの 萎えた俺自身。

弄り回された先端部分が、赤く艶かしい色に染まっている。


「っ…」


恥ずかしくて、さっさと ズボンに仕舞ってしまおうと 手を伸ばすが、

それは 侑士に止められた。


「まだまだ、これからやろ?」


耳元に囁いてくる その声は、官能に甘く掠れていて、

俺は 一気に 熱を煽られることになった。


「あ…っ」

「ここでする?それとも ベッドがええ?」


意地悪く訊く声すら甘くて、俺は 白旗を あげてしまう。


「ここじゃ…やだ。ベッドに…」


連れてって、という声は 吐息に変わってしまった。

侑士は 満足そうに笑うと、俺を横抱きにして ベッドへ運んだ。


「せっかく姫始めなんやから、布団があったらええのにな。」


なんて 冗談ともつかず言う侑士に、俺は 本当に冗談で、


「客用布団でも出す?」


と、そう言ったら、


「ああ、ええな それ。」


侑士は 本気にしてくれて、勝手知ったるなんとやら、

布団を一式用意してしまった。


「…本気?」

「本気。あとは…着物があったら…」


俺をベッドから布団に下ろしながら 侑士が のたまった。


「ない。」

「浴衣でも…」

「ない。」


あっても出すわけがない。出してたまるか。


「んー…しゃぁない、今年は我慢しよ。」

「…今年は?」

「来年は うちにおいで。一式用意しといたるから。」

「鬼が笑うわ、このスカポンタン。」

「あ、ひど…」


言いながら侑士は するすると俺から服を剥いでいく。

剥ぎながら 弱い部分を くすぐられて、俺の身体は 素直すぎるほどに反応していった。


「侑士」

「ん?」

「今夜 これに付き合ったら、明日は俺に付き合って。」


おせちと お雑煮食べて、初詣に行って、あと羽根突きも…と並べる俺に

侑士は くつくつと 苦笑の形で笑いながら、


「ええよ。」


と言ってくれた。

何だか とっても嬉しくなって、ぎゅっと侑士に しがみついた。


今年も いい年になるといい。

侑士がいてくれるから、きっと なるだろう。


そんなことを考えながら、ひどく幸せな気分のまま、

俺は 侑士の手に すべてを 任せたのだった。














〜End〜





あとがき

日本の話っていいなぁ…(のっけから何。)
いや、あの、鋼もDグレも日本の風習を適用していいか
微妙なところじゃないですか。暦の話とか特に。
だから と言っては何ですが、忍足が暴走してくれました(笑。
もっとしっとり、姫始めなんて言葉だけ…の予定だったのに。
こたつなんて 素敵アイテムに萌えた俺が悪いんですね(大笑。

そんなこんなで第二弾 忍足夢、いかがでしたでしょうか。
楽しんで頂けておりましたら 幸いです。

ブラウザ閉じて お戻り下さい。