「失礼しまーす」
ガラリ、と 勢いよくドアが開く。
「あれ?先生不在?」
3限目の開始を告げるチャイムが鳴り終わり、しん と静まり返った保健室。
保健室といえば本来、体調の優れない生徒たちの憩いの場。
…であるはずなのだが。そこは しばしば、昼寝という名のサボりに使用される。
「まぁ、その方が好都合だけど。」
保健医の不在に、にやり と不穏な笑みを漏らす 彼、
氷帝学園中等部 3年 。
身長170cm、全体的に線が細く、動けば黒髪がさらりと揺れる、
一言で言えば 美形。
そんな彼の狙いは、部屋の奥に3つあるうちの、
1つだけカーテンが閉められているベッド。
そこに誰がいるのかは、すでに分かっている。
後ろ手にドアを閉めると、
つかつかと ベッドに近づいて行き、カーテンに手をかける。
引き開ければ、そこにいるのは…
「侑士」
忍足 侑士。
2限が終わってすぐ、頭痛を訴え 保健室に向かったのだが、
十中八九、ただ眠かっただけだ。
「ん…」
気配に気づいたのか、忍足が身じろぐ。
は、くすり と笑って、
ベッドによじ登り、忍足を跨ぐような体勢をとると、
忍足の両手首を、それぞれ自分の手で押さえ、
体重をかけることで ベッドに縫い止めた。
「ん…何や…?」
急に手首を圧迫され、さすがに寝続けることはできなかったようで、
忍足は、うっすらと目を開ける。
「おはよう、侑士」
まだ半分寝ている状態で見上げた先に、
にっこりと笑うを見つけ、しばらくぼんやり見つめた後、
「………?」
「ん?」
「…何、しとるん?」
両手を封じられている 自分の状況に気づいた。
「何って…侑士の寝込みを襲ってるんだけど?」
にこにこと笑いながら、体重をかけている腕の力は弱めない。
「ここは学校やで?」
一応問うてみても、
「知ってるよ。」
と返ってくる。
「はー…。で?俺の姫さんは、このまま俺を食ってしまいたいわけか?」
「………それは、俺がヤるってことか?」
の顔から笑みが消えた。
一瞬きょとんとした後、眉を寄せて悩み始めた。
「おい…?」
「んー…俺は やっぱ、どっちかってーと…」
ひとしきり悩んだは、再び笑顔を作ると、
「食われる方が 好きだな。」
と、言ってのけた。
くらり…と 忍足は、軽い眩暈を覚えた。
(ほんまに 保健室のお世話になる理由ができそうや…)
「なぁ 、ええかげんに手ぇ離さん?」
「嫌だ。」
笑顔のままの即答。
「何で?」
「だって、離したら 逃げるだろ?」
「そりゃぁ…」
逃げる気満々だ、とは言えまい。
しかし、数十分前に、すぐ戻るから と言い残して出て行った
女性養護教師の言葉が本当なら、
この状況はかなり まずい。
「なぁ、…」
「何?」
「そろそろ 先生戻って来よると思うんやけど…すぐ戻る、言うてたし。」
「鍵かけようか?」
「そういう問題と ちゃうやろ。」
大体、鍵をかけたところで、相手が鍵を持っているのだから意味がない。
「しょーがないなぁ、じゃぁ、キスだけ。」
「しょーがない は、こっちのセリフや。」
まったく、と言いながら、大人しくの唇を受け入れる。
「ん…」
ゆっくりと 触れて、離れて、また触れて。
しばらくの間、忍足はされるがままになっていたが、
啄むようにされるキスの、その少しの隙を見つけ、の口内に舌を侵入させた。
「ぅんっ?!」
突然のことに、の 忍足の手首を押さえる力が 少しばかり抜ける。
忍足は、の手の下から自分の手を引き抜くと、
片手での後頭部を押さえ、もう一方の手を腰に添えて、
深く口づけたまま、体勢を入れ替えた。
「んっ…んぅ……んーっ!」
そのまま しばらく貪っていると、
苦しくなってきたのか、が抗議の声を上げはじめた。
そっと、唇を離すと、
「ふ…は、ぁ」
涙目で睨まれる。
自分で仕掛けたくせに、と 忍足は 内心苦笑する。
「してほしかったんやろ?キス。」
先程ののように、にっこりと笑って言えば、
「こ…の…っ」
返ってくるのは 弱々しい抗議。
どうやら力が入らないらしい。
「さて、昼寝も邪魔されて、何や目ぇも冴えてしまったし、授業に戻るとしよか。」
先程 体勢を入れ替えた際に 落ちてしまったタオルケットを拾い上げ、
「あーあぁ、上履き 履きっぱなしやないか。」
が上靴を履いたままだったことに気付く。
上靴を脱がせ、ケットをに掛けると、
「愛してんで、。」
ちゅっ と額に軽くキスを落とし、
「ほな、大人しゅう寝とき。」
仕切りのカーテンから出て行った。
と、同時に ガラリ と、音。
「あら、忍足君、もういいの?」
「はい。少し寝たら頭痛も引いたんで、途中からでも授業に出ようかと。」
「そう、無理はしないでね。」
「大丈夫ですよ。あ、せや。さっきが来て、具合が悪い言うたんで、
あすこのベッド、そのまま使わせましたよって。」
飄々と言ってのける忍足の言葉を、
「そう、わかったわ。」
保健医が疑うはずもなく、
「ほな、失礼します。」
忍足が出て行くと、彼女は の寝ているベッドへと近づいてきた。
「くん、大丈夫?」
「あ、えぇ、大したことは…」
ない、と言おうとしたら、
「顔、赤いわね。熱があるんじゃないかしら。体温計持ってくるから待っててね。」
あっさり遮られ、結局大人しく寝ていることになってしまった。
「くっそ…侑士め……次こそ 必ずリードとってやるかんな!」
ぼそり、と呟かれた言葉は、
保健医の耳にも届かなかったが、
教室へと向かっていた忍足は、ゾクリ として振り返った。
「………何や うすら寒いわ……」
が良からぬことを企んでいるせいだ、などとは、気付く由もなかったが。
〜End〜
あとがき
うーわぁ、続き書きてぇ(笑。
誘い受!返り討ち!
大っ好きです!!(笑。
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