好きだと言って。
僕がこの手を差し伸べたら、その手で取って、微笑んで。
お願い、どうか。
「!!」
遠ざかっていく背中を見送れなくて、叫ぶようにして呼び止めた。
振り返った彼は、僕を認めて、少しだけ眉を下げ、困ったように、笑った。
「ほんとに……ほんとに辞めんのかよ!」
わかっていて、それでも納得できなくて。
にとっては残酷な質問だと理解しているはずなのに、気付いたら
そう叫んでいた。
は、困ったように、悲しそうに、それでも笑っていて(そんな笑顔が
見たいんじゃないのに)包帯の巻かれた利き腕を、ひらひらと振った。
まるで、バイバイと、そう告げるように。
「……!」
は、他校生ともめている後輩の仲裁に入って、相手の持っていた
ナイフで利き腕を切りつけられた。
傷は、深く。
日常生活に支障ないくらいには回復するだろうと医者からお墨付きを
もらっていても、氷帝のテニス部では、使い物になるはずもなく。
「ごめんね、日吉」
一緒に全国行くって、約束したのにね。
笑って言う、その声は静かで、りんと響いて(笑うなよ、笑わないでくれ
そんな顔で)伸ばした、僕の手は。
「……っ」
「バイバイ、日吉」
彼のそれに取られることはなく、宙に浮いて、止まって、重力に逆らえず
落ちた。
笑ったまま、は、こちらにくるりと背を向けて(いっそ泣いてくれたなら)
静かに歩き出した(抱きしめて、この腕に閉じ込めることだってできるのに)
「……」
その笑顔は儚く、けれど強く(ああ、ほんとうに、どうしようもない)
スポーツ推薦だったは、そのまま学校をやめ、僕は随分後になって
彼が他県の私立校に編入したことを教師から聞いた。
彼は今どうしているだろうか。
あの笑顔で、今もどこかで笑っているだろうか。それとも……きれいな涙を
見せたのだろうか。僕の知らない誰かの前で(言えばよかった、好きだって)
もしもどこかで、また会えたなら、その時は言うよ(君が好きだって)心の
底から言ってやる(君が誰のものだって構わない)だから、どうか。
この手を取って、笑ってください。
〜End〜
あとがき
頭に浮かんだものをそのまま書きました。
ほんとは別ジャンルのキャラで浮かんだんですがまだサイトにのっけてない
ジャンルなので(ぇ)一番近いところで庭球にしてみました(おい)
相手もこれ誰になるかは半分くらいまで書いたくらいで決まったという……
あれ? これもしかして日吉に失礼か?(笑。
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