4限 終了を告げるチャイムが校内に響く。
日直の号令で、おざなりな礼をして、再び 固い椅子に腰を下ろす。と、
「ちゃーん!お昼行こーっ」
ジローが駆け寄って来た。
「屋上?」
今朝、コンビニで買ってきた昼飯を持って 立ち上がりながら問えば、
「うん。天気いいし!」
テンションの高い答えが返ってくる。
文化部の俺が、テニス部の連中と昼飯を共にするようになったのは いつからか。
何故か自然に 溶け込まされている。
「ちゃん、やっぱり テニスしないの?」
「しないってば。」
きっかけは…2年の体育の授業でテニスをした時だ。
経験があったんで、ちょっと上手く出来てしまったら、
同じクラスのジローから、テニス部の奴らに伝わっちまって…。
「ちぇーっ、ちゃんと テニスしたいよー。したいーっっ」
「ちょっ!ジローっ!もう少し静かに…」
廊下の ど真ん中、大声で訴えるジローに慌てていると、
「ジロー、何騒いどるん?」
後ろから ひょっこりと 忍足が現れた。
「あ、忍足。」
「いややわ、。侑士って呼んでくれって、言っとるやんか。」
「じゃあ、侑さんと 呼んでやるよ。」
「………苗字で ええです。」
「そうですか。」
忍足との やりとりは、会うたび これから始まる。
毎回これやって 飽きないのかね…。
「あ、そうだ。今日は跡部も 屋上だって。」
ジローが俺の腕に 抱きつきながら言う。
「へぇ、珍しい…って、重いんだけど…」
「あ、ずるいで ジロー」
と、忍足が ジローが くっついているのとは逆の腕を 取ろうとする。
「ずるい、って…忍足くーん。」
「何や、」
忍足の腕から 腕を逃しながら、にっこり笑う。
「あつくるしい。」
「ジローは良くて、俺はダメなんかい。」
「うん。」
「うん…って、切なっ!!」
「はいはい。」
「あははははー」
ジローを腕にくっつけ、忍足と漫才まがいのことをしながら、
屋上に出るドアを開けると、
「おう。おせーぞ お前ら。」
宍戸と…跡部がいた。
「俺様を待たせるんじゃねーよ。」
屋上のフェンスに背を預け、直に地面に座った跡部が 偉そうに言い放つ。
「やあ、珍しいね、氷帝の帝王様が。今日は ヒマなんだ?」
そう言いながら、忍足とジローに挟まれる形で腰を下ろす。
「俺がいちゃ 悪いか?」
「いや。この場合、むしろ俺が場違いだからな。」
「お前が テニス部に入れば問題ない。」
「だから俺は…」
と、言いかけたら。
「ーっ!! 」
ばたーん!とドアが けたたましい音を立てて開いたかと思うと、岳人が 跳んできた。
「ぐぇ。…こら、岳人!跳ぶのはテニスコートだけにしとけ!」
後ろから抱きつかれて、前のめりになる。
「5限、俺らのクラス 合同で視聴覚室だってさ!! 」
「は?」
次は確かLHRで、討論会だか何だか やるはずだったと思ったんだが…
「お前らのクラス担任が、具合悪くして早退したらしいぜ。んで、俺らと映画見るんだって。」
「へぇ…」
次の時間は サボるかな…。
「がっくん、それ、何の映画見るん?」
「えーとねぇ、『タイタニック』!」
「うっわ…マジ?」
聞いていた宍戸が 顔をしかめる。
「時間内に見終わらないだろ それ。」
「時間延長?」
…サボリ決定。
「こんにちはー」
「おぅ、長太郎!」
紙パックの いちごオレにストローを挿したところで、鳳がきて、宍戸の隣に座った。
「何?、また いちごオレ飲んでんの?」
「よく飲めるな、そんな香料の強いもの。」
「いーだろ 別に。この身体に悪そうな ところが好きなの。」
「は かわええなぁ…」
隣に座っている忍足が、俺の頭を撫でる。
それを叩き落しながら、
「かわいいっつーのは、岳人やジローに使うコトバ。あと宍戸な。」
そう言ったら、
「何だそれ!170あるからって、そーゆーの良くねぇぞ!」
「ちゃんの方が かわいいでしょー。あと宍戸ね。」
「つか、ジローや岳人はともかく、何で俺?」
「宍戸さんは かわいいですよ。もちろん先輩も!」
三者三様の答え+αが返ってくる。
「どーでもいいが、さっさと食わねぇと 昼休み終わるぜ?」
のんびりと、パンを齧りながら、跡部は すっかり傍観者になっている。
「うっわ、やべ!」
「鳳!そのパン1コくれ!」
「嫌ですよ!向日先輩 もう2つ食べ終わってるじゃないですか!」
「岳人 食うの早いなー。」
「は のんびり食いすぎ!遅れるぜ?」
「いーよ。次サボる。」
たまごサンドに齧りつきながら サボリ宣言。
「えー、何でー?せっかくタイタニックやのに…うらやましい。」
…忍足…。
「じゃぁ、お前がサボって そっちに潜り込め。」
「そうしたいのは山々…」
「山々なのかよ…」
って、何で俺は毎回毎回 忍足と漫才まがいのことをやってるんだ。
忍足のペースにノせられているようで、面白くない。
「えー。ちゃん サボリー?じゃー 俺もここで昼寝…」
「だめだ。」
ジローの声を遮って 言い放ったのは
「跡…部…?」
…静かに、なってしまった…。どうしたんだ?コイツ…
「ふーん、そう。そゆこと。いーよ、わかった。」
沈黙を破ったのはジローで、拗ねているのかと思えば、にこにこと笑って跡部を見ている。
「…何だよ?」
跡部が 怪訝な顔をして訊くのに、
「何でもなーい。」
と答えながら、俺の腕に抱きついてくるジロー。
「え、何?ジロー、重いって。」
「ちゃん、それ 一口ちょうだい?」
「ん?」
「いちご」
「コレ?いいけど…」
ほい、と いちごオレを差し出せば、ジローはストローを咥えて、にやりと笑った。
跡部に 向けて。
……あぁ、そゆことね。
※ ※ ※
予鈴が鳴って、宍戸と鳳、忍足が立ち上がる。
「ほら、がっくんも ジローも、遅れるで?」
「、まじでサボんのかよー。」
「無駄やて がっくん。は 一度決めたら覆さんもん。」
文句を言う岳人を忍足が 宥めるが…。
「わかってんなら、俺を部に引き入れようとすんのもやめろよ。」
「それとコレとは 大違いや。」
「どの辺りが 違うんだ?」
同じじゃないか、どうがんばっても。
「だって俺、のこと 好きやもん。」
「はいはい。」
「流されたっ!ひどいわー。俺 真剣やのに…」
「どーでもいいけど、そろそろ本鈴鳴るぞ?」
ひらひらと手を振り、さっさと行けと 促す。
そんな やりとりの間も、フェンスに寄りかかって、座ったままの跡部。
「跡部くんも、サボリ ですか。」
「その呼び方やめろ。気色悪ィ。」
「へいへい。で?跡部も さぼり?」
言い直しても、問う内容はかわらない。と、本鈴が鳴った。
「違うだろ。」
「は?」
「景吾」
「そう呼べと?」
「そうだ。」
「ここ学校よ?」
「関係ねぇよ。」
俺と跡部…いや、景吾は、いわゆる 恋人ってやつ。
隠しているつもりで、しかし 男子テニス部の正レギュラーの面々+αには 既にバレている。
「俺たちは イレギュラーだろ。バレたら いいことねーよ?」
「俺は 、お前が好きだ。」
「それは 俺だけが知ってればいい。」
「怖いのか?」
「怖いさ。」
今の状態が壊れれば、俺たち二人だけじゃない、多くの人を巻き込むことになってしまう。
「でも、俺は、景吾が好きだ。だから…」
引き離されることなんて、絶えられない。考えたくない。
「はー…面倒だな、社会の規範っつーのは。」
「うん。」
フェンスに手をかけ 外を見れば、体育の授業などもなく、がらんとした校庭。
窓を開け放して授業をしている教室から、男性教諭の声がする。
景吾は 黙ってしまった。
俺も、なんとなく特に話し出す気分ではないから、黙っている。
時折 吹き抜けていく風が、気持ちいい。
「なぁ」
フェンスに手をかけ 突っ立ったまま ぼーっと雲を眺めていたら、
景吾が 口を開いた。
「ん?」
「何をしても 罪にならなくなったら、一番最初に何をする?」
…どこを どうやったら、さっきの話から そっちに行くんだ…?
じっと、景吾を見つめてしまったら、さっさと答えろ と目で訴えられる。
「それ、俺に 選択権無いと思うんだけど…」
ふっと、視線を逸らして そう答えた。
「何故?」
「否応無しに、人殺すことになると思うよ。」
「は?」
見れば 景吾は、驚いたような、呆れたような、なんともいえない顔をしている。
「だって俺、殺されてやる つもりないし。」
「何でそうなる。」
「俺 疎まれてるからねー。」
「何だ それ。」
何だ…って原因は 景吾さん、あなたなんですがね。
「はー…。お前が 女 フる理由に 俺を使うからだろうが。」
「『を部に引き入れるために忙しくて、女に構ってるヒマが無い。』って、言ってるだけだろ?」
「お前が俺に執着してるってだけで問題だよ。」
「………」
すれ違うたびに 睨んでくる女が最近増えてきているのは 気のせいじゃない。
「いいじゃねぇか。バレたって。」
「…結局 そこに戻るのかよ。」
「そう簡単にバレやしねぇ。鳳が宍戸に じゃれついたって、誰も何とも思わない。」
「あれは、鳳のキャラが ああだからだろーが。」
俺や景吾が どっちかにじゃれついたら、学校中大騒ぎだっての。
また、落ちる 沈黙。今度は、少し気まずい。
好きだから 言っているのに…どうしてこうなるんだか。
離婚理由は 性格の不一致、なんて…冗談にするには痛すぎるぜ このやろう。
「じゃあ、バレなければ いいんだな。」
「は?」
だから、唐突すぎるんだっての。
思考の途中経過も 説明してくれ 頼むから。
「来いよ。」
「は?何?どこへ!?」
腕をつかまれる。ひっぱり込まれたのは、屋上の出入り口のドアから死角になる日陰。
そのまま壁に押し付けられた と思ったら、キスされていた。
「ん…んーっ!」
やめろ と言おうにも、深くなるそれに 膝の力が抜ける。
がくん、と滑り落ちる身体、座り込む形になって、それでも景吾は唇をはなさない。
「ん…ふ…ぅ…」
押し返す腕に 力が入らなくなる頃になって、やっと唇が 離れた。
「ぅ…は…ぁ。お…まえ、誰か来たらどーすんだよ!」
「来たって 見つかんなきゃ いいだろうが。」
「いいわけないだろ!…って?何やってんのさ!」
景吾の手は、いつの間にか 俺のYシャツをスラックスから引っ張り出し、背中に忍び込んでいる。
「黙れよ」
「この状況で 黙れるか!」
「いいから黙ってろ。見つかりたくないんだろ?」
「って…まさか…」
ここで する気か…?
「背徳感が強い方が 感じるだろ。」
「ちょっ…冗談じゃ…」
「ねぇよ、もちろん」
わたわたと 慌てているうちに、景吾の手は胸を這い、下腹部にも伸ばされていて、
「も…知らねーぞ。」
「ああ。お前は 何も考えずに抱かれてりゃいい。余計なこと考えんな。」
「んあぁっ」
自身を握り込まれ、抗うことは もう叶わなかった。
…俺だって、欲しかったんだよ、本当は。
景吾の熱、俺の熱。混ざり合って わからなくなればいい。
そしたら…そうしたら……何も 怖がらなくて済むのに…。
俺のすべてが 景吾だけだったら…
「愛してる…」
たとえ この思いが世の中に 認められないもの だったとしても。
俺は、景吾がいなきゃ、生きてけないんだ。生きてけないんだよ。
「俺も 愛…してる。」
声は喘ぎに混じって、二人の間に 溶けた。
…離さないでくれ と、叫んでしまいたいよ、景吾…。
〜End〜
あとがき
跡部夢。微エロにしてみました。
中途半端な感が拭えないので、もしかしたら続くかも(?)
微妙なところです。
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